第27話 思い出の中で
あれがラピスとのはじめての出会いだった。
麦茶を一口飲んで、屯田さんが懐かしそうな表情を浮かべる。
「あの時は本当にビックリしました。アリオット君を助けに山に入った途端、エンシェント・グリフォンに追われたラピスちゃんに遭遇して」
「慌てて逃げようとしたら、ギルティが逃げ遅れてねぇ」
ひとみさんが軽く肩をすくめると、紗綾さんも釣られて微笑んだ。
「でも、そのおかげでいったんエリア外まで避難できたんですよね」
「まあ、アリオットもギルティも、変なところで貧乏クジひいちゃうよね。兄弟だからかな」
そう言いながら花月が僕に同情するようなしぐさをする。
それを見たひとみさんが笑いを堪える。
「アリオットが一番ラピスに振り回されてたね。今思い返すと、最初からそんな巡り合わせだったのかもしれないね」
結局、これが縁となって、ラピスはギルドメンバーの一員に加わることになったのだ。
そして、そう時間が経たないうちに、ラピスの紹介でイズミも仲間に加わる。
「ボクは半ば強引に引きずりこまれたカンジですけどね」
泉は両手で麦茶の入ったグラスを持ったまま、決まり悪げに苦笑する。
そんな泉に意地悪そうな視線を向けるひとみさん。
「そうだったね、あの頃、アリオットは受験勉強で忙しくなって、ギルティは双子に取られちゃってるしで、ラピスのお守りがいなかった時期だったしね」
「そうだったんですね」
グラスをテーブルに戻しながら、泉は照れを隠すように頭を掻いた。
「でも、ラピスちゃんには誘ってくれたこと感謝してます、おかげで皆さんに会えたわけですし」
その言葉に、全員が視線を交わし穏やかな笑みを浮かべる。
確かにラピスは自己中心的で、トラブルメーカーで、いつも好き勝手にみんなを振り回していた姿ばかり記憶に残っているが、今になってみると、最近のギルドはラピスの存在を中心にまとまっていたようにも思えるのだ。
話が盛り上がるにつれて、僕の推測は確信へと変わっていった。
最初はすぐそばに真知の存在があり、遠慮というか後ろめたさもあったのだが、次第に独りぼっちにしたくない、仲間はずれにしてはいけないという雰囲気へとかわり、真知のお姉さんも含めて、少しずつではあるが、凍りかけていた気持ちが溶け始めていくような感覚。
「あ、そうだ。泉君に渡さなきゃいけないものがあったんだ」
途中でお姉さんが一度席を外し、タブレット端末を手に戻ってくる。
「このアルバムデータ、まだ渡してなかったわよね」
「え? それって、ちょっと待って」
慌てて止めようと立ち上がる泉を、流れるような動きで後ろから羽交い締めにするひとみさん。
「花月」
ご指名とあらば! といった態で勢いよく立ち上がると、花月はお姉さんから端末を受け取り、画面を見て目を丸くする。
「すごい、かわいーいー!」
花月がテーブルの上に端末を置き、僕と紗綾さんと屯田さんが同時にのぞき込む。
そこには、黒を基調としたフリルのドレスを着てポーズを取る真知と泉の姿が映っていた。
いや、なにこれ、マジでかわいい。
隣で屯田さんが、低く唸る。
「これは……クオリティ高いですね」
「うああ、みないでー」
もがく泉を捕らえたまま、ひとみさんものぞき込んでボソリと呟く。
「……娘が欲しくなってきた。泉、うちの子にならない?」
「なーれーまーせーん!」
「他にもあるんですよ」
笑いを堪えながら、お姉さんが画面をタップして写真を切り替えていく。
紗綾さんがため息をつく。
「この浴衣似合ってますね、見た感じ手作りのようですが」
「あ、わかります? 私と泉の姉がアパレル系の学校に通っていて、いろいろ作ってはモデルになってもらってるんですよ」
すごいと感心したように驚く紗綾さんに、お姉さんもまんざらではないとばかりに胸をそらす。
「あ、これ知ってる!」
何枚目かの写真で花月が声を上げた。
「えっと……タイトル出てこないけど、アレでしょ、日曜の朝にやってる魔法少女のアニメだ」
「これがコスプレっていうものですか……」
「やーめーてー!」
泉の叫びに、何事かとご両親が顔を覗かせたが、状況を理解すると大きな紙袋をいくつか持って戻ってきた。
「泉君、これ、迷惑かも知れないけどもらってくれない? 真知が泉君の誕生日に送りつけてやるって準備してたらしいんだけど」
写真の中で泉が着ていた衣装らしい。
泉は断るわけにもいかず言葉を詰まらせつつも受け取って、礼を述べる。
僕は、そんな彼女に声をかけた。
「そんなに恥ずかしがらなくても。どの写真もかわいいし、似合ってると思うけどな」
「航さん……」
「せっかくだから大事にしてあげなよ」
我ながらナイスフォローだと思ったが、泉は涙目のままだった。
ふと壁の時計に視線を走らせた屯田さんが、会話の切れ目を見計らってゆっくりと立ち上がり、ご両親に頭を下げる。
「……申し訳ありませんが、そろそろ時間なのでお暇させていただければと」
その言葉をきっかけに、僕たちはゆっくりと立ち上がり、それぞれが真知のご両親とお姉さんに一礼した。
お祭りが終わる感覚──上手く言えないけど、そういう想いが心の中をよぎった。




