第25話 少女との対面
車から降りた僕たちに、別の車で着いてきた屯田さんの部下たちが傘を差して玄関までついてきてくれた。
チラリと視線を外に向けると、遠巻きにではあるが報道陣や野次馬と思われる人たちがこちらを窺っているのがわかった。
彼らからみたら自分たちはどのように見えるのだろうか。
そんな不安を察したのか、隣にいた屯田さんがそっとささやきかけてきた。
「自分たちがフォローします。皆さんが困るようなことにはさせません。なにも悪いことはしていないのですから、むしろ堂々としてください」
僕は無言で頷いた。
大丈夫だ、屯田さんと会ったのははじめてだけど、T.S.O.内での付き合いはギルドを結成する前から続いている。花月や実家組のみんなよりも長いくらいなのだ。
「皆さん、遠いところを真知のためにわざわざありがとうございます」
玄関に入ると、ワンピースの喪服に身を包んだ女性が出迎えてくれた。
「泉君も来てくれてありがとう、真知も喜んでいると思う」
「お姉さん……このたびは、その……」
ついに限界に達したのか、涙ぐんでしまう泉。
その頭をお姉さんがそっと撫でた。
ひとみさんが一歩進み出る。
「この度は突然のことでお悔やみの申し上げようもありません。それに、直接の面識がなかった私たちの訪問を受け入れていただいて、本当にありがとうございます」
僕たちも続いて頭を下げると、それをみたお姉さんは慌ててひとみさんの手を取った。
「顔を上げて下さい、お礼を言わないといけないのはこちらの方なんですから……どうぞ、こちらへ。真知に会っていってあげてください」
お姉さんの案内で向かった部屋は客間だろうか、少し広めの畳敷きの部屋で、中央に花々に囲まれた棺が安置されていた。
棺の横にはご両親が佇んでおり、僕たちの姿に気づくと無言のままゆっくりと頭を下げた。
先ほどと同様に、ひとみさんが僕たちを代表してお悔やみの言葉を告げ、二言三言やりとりを交わす。
だが、僕の視線は真知の棺に向いていた。
お母さんの泉に向けた声で、我に返る。
「泉ちゃん、よく来てくれたね。真知に顔を見せてあげてくれる?」
「はい……」
重い足を必死に励ますようにして、歩み寄る泉。
「君たちもこちらへ」
お父さんが棺の横から一歩退いて、僕たちを手招きする。
我慢できずに涙をこぼす泉の反対側から棺をのぞき込むと、白い花々に埋もれた真知の姿があった。
「……っ」
真知と会うのはこれがはじめてだ。でも、なぜか元気に明るく動き回る彼女の姿が脳裏に浮かぶ。
隣に立つ花月が小さくつぶやく。
「……ラピスちゃんにそっくりだね」
もちろんゲーム内のキャラクターはファンタジーっぽくデフォルメされているので、外見が同じということはありえない。
でも、僕は花月の言葉に頷いていた。
はっきりとは言い表せないが、僕と同じ感覚を共有しているのだと思う。
泉につられて泣き出してしまいそうになるのをこらえて、少し離れた場所に立っているご両親に声をかける。
「あの……花束なんですが、今日、ここにこれなかった仲間たちからなんですが、受け取っていただけますか?」
僕や花月の上半身に匹敵する大きな花束が四つ。今は屯田さんが両手に抱えてくれている。
「もちろん……真知からも見えるように棺の上に置いてあげてください」
その言葉に、僕と花月と泉が一つずつ、屯田さんから手渡された花束をそっと乗せ、最後の一つは、屯田さん自らが棺の上に置いた。
お父さんが優しげな笑みを浮かべて話しかけてきた。
「あなた方のことは真知から、良く聞かされてました。ゲームの中だけど、すごくいい人たちの仲間になれた、と」
「最初はゲームの中の友達よりも、現実の友だちを大事にしなさいって言って、お父さんと真知、大喧嘩したのよね」
目に涙を浮かべながらもお母さんが小さく笑う。
お父さんは恥ずかしさからか、後頭部に手をあてて視線を少し落とす。
「受験に向けて勉強をはじめていた時期ということもあったのですが、今から思い返すと不明だったなと、もちろん、真知がこうなった原因の一つとして釈然としない部分もありますが、今の真知に会いに来てくれる友人はあなたたちだけですし、私たちの知らないところで、真知は貴重な経験をさせてもらっていたんだなと……失礼」
感極まったのか、僕たちに一礼してから、お父さんは目頭を押さえて部屋を出て行った。
その後ろ姿を見送りながら、車の中で屯田さんから聞いた話を思い返していた。
きっかけはT.S.O.からの個人情報流出だが、真知をさらに追い込んだのは、学校の友人たちだった。若気の至りとはいえ、学校の友だちたちと飲酒や喫煙の可能性を想起させる写真や、その他にも、いわゆるやんちゃをしている画像やメッセージが拡散されてしまい、関係する友だちのほとんどが被害者の仮面を被って、真知を追い詰めた。
さらには、思い詰めた結果とは言え、その学校で自らの命を絶ってしまったことで、クラスメイトをはじめ、友人と呼べる存在全体を結果として拒絶したと受け取られてしまっていたのだ。
その後、しばらく全員が無言のまま真知の棺を囲んでいたが、お姉さんから請われる形で、庭に面した窓際に置かれた卓へと座を移し、T.S.O.でのラピスの話をすることになった。




