第24話 少女の家へ
「やっぱり、ビックリさせちゃいましたかね」
運転席でハンドルを握る屯田さんが自嘲気味に笑う。
僕らはホテルを出て、屯田さんが用意した大型の車で真知の家へと向かっていた。
屯田さんが合流した後、僕らはいったんそれぞれの客室に案内され、荷物だけ置いてすぐさま真知の家へと赴くことになったのだ。
僕や花月、泉は学生なので喪章を着けた制服姿。ひとみさんと紗綾さんは喪服に着替えてロビーに再び集まった。
「やっぱり目立つよね」
花月が小さくため息をつく。
宇宙学園の制服には二種類あって、今日着ているのは式典とかで着用する礼装だ。礼装も通常服も自衛隊の制服に似たデザインで、多少若者向けにアレンジされているものの、特に女子は最近の風潮と異なって珍しくスカートが採用されていることもあり、外部で着用すると違和感が目立つのだ。
もちろん、通常の授業や実習では通常服や専攻毎のシンプルな作業着を着用することが多い。そのため、礼装を着用すると服に着られてるような錯覚を覚えたりもする。
「この微妙なゴージャス感って言ったらデザインした人に失礼かもしれないけど……」
「それには私も同意。なんか軍隊色が強くて好きになれないのよね」
お互いの礼装を前に評論家めいた口調で批判する僕と花月。
そこへ泉が目を輝かせて歩み寄ってきた。
「やっぱり、宇宙学園の制服はカッコイイですよね、本当に憧れです!」
「あ、うん、ありがと……」
「そう言ってもらえると嬉しいかな……アハハ」
泉は、ありふれたブレザーにスラックスタイプの学生服を着用していた。宇宙学園が特殊なだけで学校や会社、官公庁などの制服は男女同じデザインになって久しい。
制服を着ている花月の姿を褒めている泉を見ながら、どちらかというと、宇宙学園の礼装は泉の方に着てもらいたい気もするが、その姿は後輩として入学してくる日までの楽しみとしておこう、などと考える僕だった。
「やっぱり、まだお子様だね」
「ええ、でも、それがうらやましくみえたりもしますね。特に、今回みたいな時は」
制服の見せ合いをしている僕たちを、苦笑しつつ眺める大人組──ひとみさんはフォーマルスーツ、紗綾さんは和装といった装いだ。
そんなバラバラな一行を、数人のスーツ姿の男性が周りを囲んでいるという光景は、イヤでも衆目を集めざるをえない。
「サファイアさん、男の人かもとは思っていたけど、まさか、こんなにゴツイ人だったっていうのは、流石に斜め上かなぁ」
後ろの座席から大きな花束を抱えた花月がぼやく。
というか、ちょっとは言葉を選べよ。
さすがに僕がツッコミをいれようと振り向きかけたが、屯田さんが気にしてないという風に片手を振る。
「すみません、あいつ昔から思ったことをすぐ口に出しちゃうんで」
「……それってフォローになってないんじゃ」
同じく、いくつかの花束を持つというか、花束に埋もれているカンジの泉が小さくつぶやく。
その言葉に屯田さんが小さく苦笑する。
見た目は怖いけど、中身はT.S.O.内のサファイアさんと同じように優しい人なんじゃないかなと思える。
そんな屯田さんが前を見たまま口を開いた。
「それがミライちゃんや、ジャスティスちゃんたちからのお花ですか?」
「……はい」
僕が頷く。
今日、ここにこれなかった北海道の実家組、アオ、ミライ、ジャスティスこと、深海 青葉、若葉、双葉の兄妹、それにギルティこと、僕の弟の北斗 翔。彼らにとって、これが精一杯の想いの表し方だったのだ。雨が強まったせいか、手配していた花屋さんのホテルへの到着が遅れ、予定が押してしまったのだが、屯田さんはイヤな顔ひとつしなかった。
もっとも、文句の一つでも漏らすようなら、ひとみさんに一喝されただけだろう。
そのひとみさんが最後列の座席から不満の声を上げる。
「それにしても、人が悪いじゃないか。骨を折ってもらって感謝してるけど、もうちょい、いろいろ話してくれても良かったんじゃないか?」
「す、すみません」
ビクッと体を震わせる屯田さん。
「今回のことについては、正直、まだ混乱が続いていまして……」
そこでいったん口をつぐむが、意を決したように言葉を続ける。
「ひとみさんの仰るとおり、明日の葬儀が終わってから話すべきだとは思うんですけど、すみません。このあと、真知さんとの対面が終わった後、皆さん、夜にお時間をいただけないでしょうか」
「わかったわ」
ひとみさんが息を吐き出した。
「その代わり、夕食は奢ってもらうわよ」
「もちろんです」
屯田さんも小さく息をつく。
そして、車は大きな住宅が建ち並ぶ一角へと入り、細い路地の交差点をいくつか曲がった後、生け垣に囲まれた一件の家の前で止まった。
どこにでもあるような普通の大きさの家だった。古くもなく新しくもない、それでいて少しオシャレな雰囲気にみえたのは、あちこちの窓の中から外を覗いているぬいぐるみの存在に気づいたからだろうか。
「お待たせしました、ここが桜葉さんのお宅です」
屯田さんの声は、ほんの少し緊張しているように聞こえた。




