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第110話 ミサキ崩壊

(かつら)教官、最後の生徒と民間人──彼らが無事管制エリアに入りました。事前打ち合わせの通り、連絡口を閉鎖します]


「了解、それではこちらも次のシーケンスに移行します。三住(みすみ)教官、悪いけどあの子たちのこと頼むわね」


[はい、生徒たちのことは安心してください。それよりも──]


 ミサキのαエリアにある第二管制室で、桂は三住と通信しながら、ある任務に従事していた。

 三住がためらいがちに言葉を続ける。


[──桂教官こそ、ご無事の帰還をお待ちしています]

[ええ、ありがとう──それじゃ、以降は通信を含む全ての回線を切断します]


 この会話を最後に、桂はミサキ内部の通信・エネルギー回線すべてを無効化した。

 一瞬、この第二管制室も電源が落ちて照明が瞬断したが、すぐに非常電源へと切り替わり、照明も復旧する。

 桂は目の前の操作盤が生きていることを確認し、背後に待機していた小柄な女性教官へと声をかけた。


「それじゃ、南仲(みなか)教官、お願いしてもいいかしら」

「了解です、それじゃ、すぐ作業に取りかかります」


 桂の指示に、その女性教官──施設保守(しせつほしゅ)専攻(せんこう)担当の南仲教官が、敬礼のしぐさもそこそこに操作盤へと取りついた。


「無茶なお願いをして悪いわね」


 そう肩をすくめてみせる桂に対し、苦笑する南仲。


「今さらですよ、それに、そのあたりのシステムを構築したのはうちの会社ですしね。まさか、実際に起動させる機会がくるとは思っていなかったので、うちの上層部も不安を抱えながらも期待の気持ちもあってワクワクしてるんじゃないでしょうか」


 南仲教官は、自衛隊からの出向組である桂とは違い、民間出身の教官だ。ぶっちゃけ、今、謎の武装勢力に襲撃されているこの状況下において、生徒たち同様、パニックに陥っててもおかしくない。しかし、彼女は終始落ち着いた様子で、桂の指示のもと冷静にひとつの任務にあたろうとしていた。


「──それでは、ミサキの管制エリアを除いた全てのフロアをパージするための作業を開始します」

「了解、急いで進めて」


 パージするための作業──このミサキ-1を最上層の管制エリアだけを残して、その下のフロア全てを施設ごとバラバラに崩壊させて切り離してしまう作業だ。

 もちろん、この第二管制室も桂たちごとまとめて宇宙空間へとすべて放り出してしまうことになる。


「脱出装置がスペック通りに機能することを祈るしかないわね……」

「それも、うちの会社のヤツですね。ここはもう、開き直って信じてもらうしかないですわ」


 自信があるのかヤケクソになっているのか、冗談めいた口調になる南仲に、今度は桂が苦笑した。


「そうね、ここまできたらなるようにしかならない──」


 その時だった、第二管制室の外部で大きな爆発音が轟きわたった。

 扉が開いて、外で謎の武装勢力と銃撃戦を展開していた教官たちが、次々と退避してくる。


「敵は爆発物まで持ち出してきました、もう守り切るのも限界かと──」


 その語尾に、南仲教官の叫びが重なった。


「パージシークエンス完了! あとは承認だけです!」


 桂が息を吐き出した。


「みんな、ここまでよくやってくれた。これで管制エリアに入った教官陣と学園生徒たちを無事にカグヤへと送り届けることができる。我々の任務の半分はこれで達成された──」


 銃を手にした教官たちが一斉に桂に対して敬礼する。

 桂もまた返礼すると、凜とした声で最後の命令を発した。


「それでは総員多脱出を命じます。全員すみやかに脱出ポッドへ搭乗を、必ず無事に全員地球へ帰還すること。これが残りの半分の任務です──急いで!」


 その指示に従い、南仲を含む教官陣は第二管制室の下部にある脱出エリアへと向かう。

 それを最後まで見送りつつ、桂は端末へと歩み寄り、生体認証を済ませた上で、ミサキ-1解体の実行命令を起動する。


[最終承認確認。これよりミサキ-1は最上位命令により船体の解体を実行します。まだ、ミサキ-1内にいる人員は速やかに最寄りの脱出ポッドで避難してください、繰り返します──]


 緊急アナウンスとともに、室内の照明が一斉に赤色へと変化し、一拍置いてから、あちこちから低い振動と轟音が響きはじめた。


 ──ドゴォン!!


 第二管制室の扉が爆破され、数人の武装兵が部屋の中に雪崩れ込んでくる。


 ──シュインッ!!


 桂の至近を光線が掠めた。

 第二管制室内に侵入してきた襲撃者たちが桂めがけて銃撃してくる。


「もう、あなたたたちのせいで、いろいろ滅茶苦茶になっちゃったじゃないっ!」


 感情が爆発したのか、桂は声を荒げ、無事な方の手で掴んだ銃を連射し、敵を怯ませる。

 敵の銃撃が途切れた隙を狙って、脱出エリアへと駆け込みドアをロックしてから、脱出ポッドのひとつへと身を滑り込ませた。

 自動音声が脱出ポッドの起動を報せ、振動とともに外部へと射出され──ようとした刹那、激しい振動がポッドを揺らす。


「なにが起こったの?」


 操作盤に指を走らせ、小型モニタに状況を表示させる。

 射出自体は正常に行われたのだが、ミサキ-1のパージの影響か、敵の爆発物に巻き込まれたのかポッドの一部が損傷したとのアラートが表示されていた。


「……よりによって、姿勢制御と生命維持システムがやられちゃったか」


 桂はフッと小さく笑う。


「すべてを運に任せるなんて、私の流儀じゃないんだけどね──っていってもしかたないか」


 崩壊していくミサキ-1、その中に紛れて桂の乗った脱出ポッドも地球へと落ちていく。

 桂は目を閉じて気持ちを落ち着かせた。瞼の裏に手のかかる、だが、それでいて導き甲斐のある生徒たちの姿が浮かぶ。


「みんな無事で──この先、容赦ない現実に直面することになるだろうけど、心を強く持って……そして、なんとしても生きのびて……」


 そう呟く女性教官の目元から涙が一筋こぼれ落ちた。

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