第11話 ギルド炎上
その夜、T.S.O.にログインして【ワンダラーズ・オブ・ゼファー】こと【WoZ】のギルドハウスに集合できたのは以下のメンバーだった。
ギルドマスターであるアリオット、僕、北斗 航自身。
ハーフエルフの結界術士ギルティこと、僕の弟の北斗 翔。
おなじくハーフエルフの精霊術士ミライと魔術士ジャスティス、マッチョ剣士アオこと深海 青葉の双子の妹である若葉と双葉。
なお、青葉はバイト中ということもあり連絡がつかず、アオはこの場に不在。
エルフの神官、くーちゃんこと九重 花月、そして、花月に誘われて今日はじめてログインした常盤 楓のキャラクター、長い黒髪をポニーテルにした女性の狩人ザフィール。
小柄な盗賊ぴーの、東 陵慈。彼は常盤さんと違って、勝手にT.S.O.を始めて、一方的にこのギルドへの加入を申請してきたという流れ。
以上のメンバーは、直接面識がある知り合いでもある。
続いてゲーム内でしか接点の無いメンバー。
二つのオノを軽々と操る蛮族風の女戦士ロザリー、中の人は自称アラフォー専業主婦。姐さんキャラでゲーム内でも頼りがいがある存在。
長身美形の青年聖騎士クルーガー、落ち着いたキャラクターで、本人には聞いてないけど、たぶん中の人は女性。
ネコミミ少年拳闘士イズミ、こちらも確認したわけじゃないけど、普段の言動や雰囲気からから十中八九、ミライやジャスティスの双子と同年代の女の子。
以上、ギルドメンバー総勢十三人のうち、十人までがここに集まっている。
アオ以外の欠席メンバーは、自称可憐な女神官サファイア、中の人曰く職業は女子高生、もちろん誰も信じてない。今日は仕事の関係でログインが遅れるとの連絡があった。てか、仕事っていう段階でバレバレですが。
最後の一人が、エルフの精霊剣士ラピス、イズミとリアル知り合いらしい女の子。昨日からずっと連絡が取れずじまい。そして、おそらく今現在の状況の原因が彼女。
これだけの人数が一堂に会するのは、うちのギルドにとって稀なことで、それだけに状況が深刻だということかもしれない。
「せっかく新顔も増えたっていうのに、なんか悪いね」
ロザリーさんが、ザフィールとぴーのに向かって声をかけた。
「あ、いえ、気になさらないでください」
慣れないせいか、まだ他人行儀なところがあるザフィール、最初はもっと緊張していたのだが、アオが不在と聞いた途端、良い意味で気が抜けたのか、少しずつだが馴染もうという姿勢をみせている
一方、対照的なのが、ぴーのだった。くつろぐようにソファーに横になって、この状況を眺めている。
ちなみにT.S.O.の中で座ったり、横になったりといったしぐさはエモーションと呼ばれる仕様で、意思表示の演出みたいなものだ。なのでリアルでの動きとはリンクしていない、念のため。
ということから、ぴーのはこの状況下でわざわざくつろいでるように見せているということなので、その図太さというか思考がイマイチわからない。
幸い、うちのギルドメンバーたちは、そういうことを気にしない人ばかりなのであまり心配はしていないが。
それはともかくとして。
「やっぱり、ラピスさんとは連絡がとれないままなのですか?」
心配そうに首をかしげるクルーガーさん。
身体の動きであるエモーションとは違い、表情や頭の動きはヘッドマウントディスプレイに内蔵されたカメラや振動感知機能などからある程度反映されるので、こちらはリアルでも本当に不安そうな表情をしているのだろうとわかる。
そんなクルーガーの問いかけに、イズミがシュンとした表情で答えた。
「ええ、メールでも電話でも返事がなくて、帰りに家にも寄ってみたんですが……」
イズミの話だと、ラピスの自宅は閑静な住宅街にあるらしいのだが、あきらかに面白半分とも見える野次馬的なノリの人たちが家の周りに集まって様子を窺っていたりしたので、近づくことができなかったとのことだった。
「ボクの姉がラピスちゃんのお姉さんとバイト先が一緒なので、帰ってきたら話を聞けるとは思います」
「野次馬かぁ」
窓際に佇むミライがチラリと外に視線を移すと、ジャスティスが珍しくイライラした様子を見せる。
「ここにもたくさん来てるしね。ゲーム内でもリアルでもバカな暇人っているんだね!」
そうなのだ。みんなに連絡した後、僕もすぐにゲーム内にログインしたのだが、その時すでにギルドハウスの周囲に面白半分の関係ないプレイヤーたちが集まってきていたのだ。最初は丁寧にお引き取りしてもらうつもりだったのだが。
──なぁ、ラピスちゃんどこー? 俺もリアルJCとお友達になりたいー
──真知ちゃんと合コンしたいから連絡先教えてよ、あ、なんならアンタも一緒にどう? 男キャラだけど、中身、真知ちゃんと同じ女子校の生徒なんだろ?
──あの写真はダメっしょ、拡散されたくなかったら制服姿の画像よこせよ
──つか、おまえなんなのよ、ジャマ。とっとと本人出せよ
などなど、ついには聞くに堪えないレベルの発言まで出てきたため、ギルドマスター権限でメンバー以外は敷地内に入れないよう制限をかけ、一人一人ギルドハウスの外へキックせざるを得なくなったのだ。
ロザリーさんが、いつもの豪放な振る舞いに似合わない苦虫をかみつぶしたような表情のまま、小さく唸る。
「それにしても、まさかラピスの個人情報が流出してたなんて……」