白の純情
「……はあ」
手にしたチケットを穴が開かんばかりに見つめていた雪月は、ため息と共に机の上に置く。
「白鳥院……優雅、君」
思い返されるのは、初めてシーモネイターと出会った時のことだった。
天を覆いつくすほどに巨大化した強大な敵が、太陽を遮り、それを見上げていたホワイトルミナスをはじめとするヒーロー達に、絶望を思わせる影を落とす。
その時戦っていたデスバースの侵略者は、町一つと融合し、そこにあった全てを己の肉体へと取り込んで膨張、増殖し続ける力を持っていた。
その魔手をさらに伸ばし、日本を取り込まんとばかりにその魔手を伸ばす強敵に、ホワイトルミナスをはじめ、大勢のヒーロー達がその暴虐を止めようと力を尽くしたが、苦戦を強いられ、徐々に追い詰められていた。
そんな時に現れたのが、鋼の身体を持つ新たなヒーローだった。
「君は……?」
敵の攻撃が直撃すると身構えていたホワイトルミナスは、それを寸前で助けてくれた見知らぬヒーローに、自然と声が零れた。
危機から自分を助けてくれたその姿に、ホワイトルミナスは不思議とこの人に任せれば大丈夫だという根拠のない信頼を感じていた。
(――私の、ヒーロー……)
「私は、『シーモネイター』。今日からヒーローとなった者です」
助けられたことも手伝ったのだろう、自然と胸を高鳴らせるホワイトルミナスに言うなり、鋼の身体を持つヒーローは、単身敵へと向かっていった。
その姿はまさにヒーローそのもので、しかし我に返ったホワイトルミナスは声を上げる。
「待って! あなた一人じゃ無理よ!」
自分達が束になっても敵わない敵に単身で飛び込んでいくなど、どう考えても無謀でしかなかった。
事実、その場にいた誰もがシーモネイターを止めようとした。
しかし、そんなことなど意にも介さず、ホワイトルミナス達に背を向けたシーモネイターは、天高く飛び上がった。
――その時、ホワイトルミナスは、信じ難い光景を見た。
「チンコブレード!」
シーモネイターの股間から伸びた剣が敵の触手をことごとく斬り裂いていく。
初めての戦闘とは思えない動き。その圧倒的ともいえる戦闘力の前に、ホワイトルミナスをはじめ、誰もが言葉を失っていた。
「あいつ、なんてところから武器を出してるんだ」
誰かが呟いた言葉を聞きながら、ホワイトルミナスは股間の剣で敵を倒すその姿に、目を奪われていた。
「はああああっ」
天空で乱舞する斬撃。腰を振り、股間の剣が煌めく度、巨大な敵がことごとく解体されていく。
最後の一閃によって、敵の本体が両断され、断末魔が響くが、それはホワイトルミナスの耳にはほとんど届かない。
巨体で遮られていた光に照らされて輝く鋼の身体と股間の剣を掲げたシーモネイターの姿は、ホワイトルミナスの瞳に――心に焼き付けられていた。
自分を助けてくれたヒーローは、――自分のヒーローは、股間を武器にする最強のヒーロー。――その衝撃に、ホワイトルミナスの心は静止した。
あまりにも鮮烈なヒーローデビュー。あまりにも衝撃的なヒーローであった
それから何度も、シーモネイターと共に戦い、その下品な装備と力を見てきた。
だが、不思議とホワイトルミナスは――星宮雪月は、シーモネイターに幻滅することはなかった。
その正体が、同じ学校に通う「白鳥院優雅」であることを知ってからも、その気持ちは変わらなかった。
その姿を、その戦いを見るたびに鼓動が高鳴り、自然と頬が熱を帯びていく。
シーモネイターは、ホワイトルミナスにとって、星宮雪月にとってのヒーローであり続けているのだ。決して、その下品な武器に羞恥を覚えているのではない。
「私は……優雅君が、好き」
記憶と心に焼き付いたシーモネイターとの日々を思い返し、自分に言い聞かせるように呟いた雪月の表情は、確かに恋する乙女のものであった。




