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森での探索と、これからの道


 俺達の住むトラディ王国王都には東西南北に4つの大門が存在して、主要な出入口となっている。


 4つの大門のうち、東・西・南はそれぞれ大きな商業都市に向かうための街道に繋がっており、基本的には見通しの良い草原や農地が広がっている。魔物が全く出ない訳ではないが、安全な街道だ。


 しかし王都の北方向には周辺の町に向かう街道の他に、大きな森林地帯が広がっている。この森は野生動物や生活の役に立つ植物など自然の恵みが豊富だが、魔物が多く発生する危険地帯でもある。王都に近い外周部であれば危険は少ないが、中心部に近づけば大型の魔物も現れてくる。


 二人で食事をした次の日のこと。俺とカリンはそんな森林地帯である「トラディの森」にやってきていた。


 カリンが必要としている薬草はこの森の浅い箇所で見つけられるらしい。俺もカリンもこれまでに何度も来たことがある場所なので、そうそう危険なことはないだろう。


 道すがら、カリンは今回の採取目標について説明をしてくれた。


「今回採取したいのは、高位の回復薬に必要なキノコなんだ」


 カリンは足元をキョロキョロと見回しながら歩いている。前を見て歩かないと危ないぞ。


「これが珍しいうえに見分けるのが難しくってさ。冒険者の人たちに説明しても、間違った素材を取ってきてしまうことがあるんだよ。だから自分で取りに行く必要があるんだけれど、流石にこの森を一人で探索するのは心細いから。誰かに護衛を頼みたかったんだ」


「なるほどな。でもカリンの実力だったら、この辺りに出てくる魔物ぐらいは何てことないんじゃないか?」


「それは買い被りすぎ。一人だと集中して薬草探しもできないし、何か起きた時に対応するのも大変だよ。それに私は魔法使いだから、優秀な前衛がやっぱり必要だよ。ロンドみたいなね」


「煽てたって何もでないぞ」


「本心だよ。ひどいなぁ」


 そんな軽口を叩きながら森を歩くが、俺はふっと立ち止まり右手をあげてカリンに合図する。


「ちょっとストップだ。……魔物が近づいてきている」


「お、わかった」


 カリンは杖を構えて襲撃に備えた。


 俺も剣を抜いて魔物を待ち構える。すると前方の繁みが揺れて、小さい人型の生物が飛び出してきた。


「ゲキャッ!ゲキャ!」


 現れたのは獣の姿をした3体の魔物だった。上半身は獣だが、2本の脚で歩き手には石斧のような武器を持っている。


「コボルトか……」


 3体のコボルトを眺めながら様子を伺う。コボルトは小型の魔物の中では知恵がある方で、数が多いと厄介な魔物だった。


 しかし油断は禁物ではあるものの、3体だったら問題はない。


「久しぶりの戦闘だな……さぁ、相手をしてやるからかかってこい!」


「ゲキャッ!」


 3体は同時に飛び掛かってくる。剣は一本しか無い訳だから、同時に攻撃されれば、シンプルな攻撃でも受けることは難しい。コボルトは、こんな風に武器を持って連携してくるところが厄介ではある。


 だが、俺はそれでもコボルトに脅威を感じてはいなかった。


 コボルト達が走って近づいてくるところに、こちらからもダッシュで突っ込む。


 急に接近してきた獲物に驚いたコボルト達は、慌てて剣を振ろうとする。だが、こちらの剣の方が速い。


 すれ違いざまに3閃。


 コボルト達の合間を駆け抜けて振り返った時には、既に三体のコボルトは血を流して倒れていた。


 しばらく待つと、彼らの姿は光の粒となってゆっくりと消えていく。魔物は野生生物とは違い、自然にある魔力から生まれて、死んでしまうと光となって消えてしまう。跡に残るのは、彼らの持つ魔力の核となっていた小さな魔石だけだ。


 俺は戦闘態勢を解き、少しだけ気を緩める。


「ふぅ。こんなもんか。久しぶりだから、ちょっと剣が重く感じるかな」

 

 魔石を回収しながら戦闘を振り返っていると、離れて見ていたカリンもこちらに近づいてくる。


「ありがとうロンド。いつ見ても鮮やかだなぁ、ロンドの剣は。特にスピード。私には、剣の軌道がほとんど見えなかったよ」


「まぁ、俺は戦うことだけが取柄だからな」


「そうでもないと思うけど?」


「そうなんだよ、悲しいことにな。……さぁ、もたもたしてると日が暮れてしまうぞ。先へ進もう」


「……そうだね、そうしよう」


 俺達は、また森の奥に向かって歩き始める。


 その後も何度か魔物に遭遇したが、外周部に現れるモンスターは、それ程脅威ではない。俺達は他愛もないことを喋りながら、順調に進んでいった。



***



 「この辺りで採取しよう」


 森に入ってある程度進んだところで、カリンはそう言って目当ての素材を探しはじめた。


 俺は事前に説明されたものの、細かいキノコの違いは分からなかったので、カリンの採取を見守ることにした。


「みてよロンド! アオヒカリダケがこんなに沢山あるよ! ここは当たりの場所だね!」


 カリンは笑いながら、どんどん青白いキノコを籠に放りこんでいく。


「良かったな。でも、そのキノコならここまで来る間にも生えてなかったか?」


 俺にはやっぱりキノコの見分けがつかない。青白いキノコなら他にも沢山生えてた気がするけれど。


「ロンドは分かってないなぁ。それはウスアオヒカリダケや、ミズヒカリダケで、アオヒカリダケとは薬効が違うんだ。。ほらっ! 色での判断は難しいから、この先端部分の形状で見分けるんだよ」


「へー……いや、わからないけど」


「えー、しょうがないなぁ。もう一回説明するとね……」


 こんな風に、俺はキノコ講義を聞きながらカリンの採取を見守った。カリンの説明は難しくて良く分からないことが多いが、それでも話を聞くのは楽しい時間だった。


 そして、何度か移動しつつ採取を続けて、小一時間ほど経過した頃。


「よし、こんなものでいいかな。ロンド、そろそろ帰ろうか」


「もう良いのか?」


「うん。アオヒカリダケに、他にも必要な薬草は手に入ったから」


「分かった。それじゃ戻ろうか」


 二人で来た道を歩いて戻る。


 結局、近寄ってくる魔物はそれほど多くはなく、俺の仕事は暇なことが多かった。それでも数日振りに剣を振ったことで、勘を取り戻せた気がする。また自然豊かな森を歩くのは気分が良く、何だか頭がスッキリした気がする。


 騎士団に居た時は自分で剣を振って戦うことも少なかったからな。屋内でデスクワークをすることの方が多かったし、そんなストレスが解消できたのかもしれない。


 そんなことを考えていると、隣を歩くカリンがチラチラとこちらを伺っているのが目に入った。


「どうした、カリン?」


「あっ! いや、えーっと……ロンド、今日の仕事はどうだった?」


 こっちから話かけると、カリンは慌てた様子でそんな質問をしてきた。

 

「そうだな。まぁ、剣を振るのはやっぱり自分の性に合ってるなって思ったよ。物騒な話だけどな」


 これまでずっと剣術に打ち込んできたことで、剣を持った自分の姿が自然体になっている気がするのだ。


「そうなんだ……。あのね、今日ロンドに護衛を頼んでみて思ったことがあるんだ」


 カリンはゆっくりと歩きながら、真面目なトーンで喋りだした。


「なんだ?」


 少し戸惑う俺を、真剣な表情のカリンが見つめてくる。


「ロンドには……やっぱり、冒険者が向いてると思う」


 カリンは真剣な表情でそう言った。


「確かに、剣の能力を活かすならそれが一番かもな」


「ううん、私がロンドに冒険者を進めるのは、それだけが理由じゃないよ」


 えっ? そうなのか?


「他に何か理由があるのか?」


「うん。ロンドはさ、ずっと誰かを守るために戦ってきたでしょ」


 カリンはゆっくりと、語り始めた。


「ロンドが剣の強さを目指したのは、誰かを、町の人を、守る人になりたいって思ったからなんでしょ。だからさ、その剣を使って誰かを守る仕事が、一番向いてると思うんだ。ロンドの勇気と強さは、いつも一番前に出て皆を守ってくれるんだよ」


「……」


「そこがちょっと心配でもあるんだけどね」


 カリンは少しだけ寂しそうに笑った。


「騎士団の仕事も、町全体・国全体を守るためにとても大事な仕事なのは分かるよ。でもね、きっとロンドは誰かを助けるために、誰よりも最初に飛び出していっちゃうから。我慢できずに駆け出しちゃうから。そんなロンドの姿を、何度も見てきたからね。だからね……ロンドの剣は、守るためにあるんだよ」


「俺の剣は、守るためにある……」


 その言葉は、不思議と自分の胸にしっくりきた。


 守る剣。騎士団の剣は、強さと責任の象徴としての役割を持っていた。だから、自分から剣を取って一番に戦いの場に行くなんてことはしない。広い視野で戦略を練り、町全体、国全体を守っていくことが仕事だった。前に出て守る剣とは明らかに違う。騎士団の仕事も誰かの役に立つ仕事だと思ってやってきた訳だけれど、向いてなかったのは、きっとそういうことなのかもしれない。


 カリンの言葉で、自分のやりたいこと……それを見つけるきっかけを掴んだような気がした。


「ありがとう、カリン……。なんだか、悩みを解決するきっかけを掴めた気がするよ」


 カリンに感謝の気持ちを伝える。だがカリンは真面目な空気が恥ずかしくなったのか、急に茶化し始めた。


「……なーんて、ちょっと真面目過ぎたかな。こんなこと言うのは、ロンドが冒険者になって私の依頼を沢山受けてくれたら嬉しいなって下心もあるんだけどね。もちろん、格安で!」


 俺はそんなカリンの姿がおかしくて、ついつい笑ってしまう。


「まぁ、暇な時ならいつでも付き合うさ。長い付き合いだしな」


「へへー!やったぁ!」


 カリンは満面の笑みを浮かべた。


 ……ありがとう、カリン。

 

 俺はそんなカリンを見つめながら、心の中でもう一度だけ感謝の言葉を言った。



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