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騎士団をクビになった


「騎士ロンド! 本日をもって貴殿をトラディ王国騎士団から除名する! 本日中に荷物をまとめて、王宮から出ていくがいい!」


 ある日の朝、騎士団長に呼び出された俺は団長の執務室にて唐突にそう宣言された。

 

 は、はぁ? 何で俺が騎士団を辞めることになってるんだ?


 あまりにも突然の出来事で頭が追いつかない。まさに寝耳に水の出来事だった。


「団長! これはいったいどういうことでしょうか! 急に除名と言われましても、私には理由がさっぱり分かりません」


「白々しいことを言うな!」


 団長は俺の言葉を遮るように言った。驚いて言葉に詰まる俺をみて、団長は小さく鼻で笑う。


「お前の騎士団での業務態度については既に耳にしている。無断欠勤に任務の失敗、聞いていて呆れてしまう程だったぞ。お前のような人間は、誉高きトラディ王国騎士団に相応しくない!」


 そう言われた俺は、口を開けてポカーンとしていた。


 無断欠勤に任務の失敗? 完全にデタラメじゃないか。


 確かに俺はこの騎士団で優秀な人間ではないかもしれない。それでも任務は誠実にこなしてきたし、これまでの業務の成果は騎士団の記録に残っているはずだ。それに少なくとも、無断欠勤はしたことがない。


 いったい団長は誰からそんな話を聞いたんだ? というか、そんな噂話一つで俺の除名を決めてしまったのか?


「それだけではないぞ」


 団長は目で怒りを表現しながら厳しい態度を続けた。


「お前には、騎士団の運営費を横領した疑いがかかっている。ここに居るギルバートが、お前の行動を報告してくれたのだ」


 団長は、先程から無言で後ろに立っているギルバートを見た。


 ギルバート・ブルーは、俺が所属する騎士団第5班に最近入ってきたばかりの人物だ。先輩として騎士団業務を教えたりなどしていたのだが、どうも大貴族の次男坊らしく、身分を盾に平民出身の団員への態度が悪い。さらには出世欲が強いのか、分かりやすい功績ばかりを求めて、班の中で不和を起こしてもいる。少し問題視していた人物だった。


 ギルバートは俺をチラリとみると、一瞬だけニヤリと嘲るような笑みを浮かべた。


 もしかして……、これはハメられたのか?


 ギルバートが騎士団の若手を集めてこそこそ何かやっているという噂は聞いており、折を見て問い詰めようと考えていたところであった。もしやそれが横領で、それを隠し切れなくなったから、俺に罪を着せて追い出してしまおうとしているのか?


 だが、団長はどうしてギルバートが作った報告書をすぐ信じたんだ? ちょっと調べれば、デタラメな内容だと分かるはずなのに。もしかして、団長もグルなのか? 


 いや、止めよう。こんな想像をしたって意味がない。証拠を見つけられる訳でもないし、証拠があっても俺の力じゃ決定を覆すことは難しいだろう。


「名誉ある騎士団の一員が横領をしていたなど決して公言できるものではない。それゆえ内々で除名処分にするのみで済ませてやろうというのだ。少しでも感謝の気持ちがあるなら、今すぐ退団の準備をするがいい!」


 そこまで言われて俺の頭の中にあったのは、怒りではなく、何か諦めのような感情だった。


 そうか……。まぁ、仕方ないのかもな。


 正直、俺はこの騎士団で上手くやれていなかった。剣の腕ばかり磨いて不器用な、そして田舎の小さな村で生まれた俺は、組織内部の権力争いについてはいけなかった。


 それに、騎士団では剣の腕を活かす機会も少なかった。騎士団の業務の殆どは式典や儀礼、町の中での活動がほとんどだったのだ。町の外のモンスター退治は民間の武力集団、いわゆる冒険者ギルドにほぼ任せるというのが通例だった。王都の学校で苦労して学び、鍛えて得た技術や知識は、この騎士団で働く中ではほとんど役に立たなかったのだ。


 表では剣の実力主義を掲げた騎士団も、その内情は文官としての力量がものを言う組織だった。剣の腕でこの街に住む人々を守りたい、そんな思いを持って入団した騎士団は、理想とはかけ離れた姿だった。


 それでも、防衛戦略を作る騎士団が無ければ町の平和を守れないことも確かだ。だからこそめげずに5年間働いて来た訳だが、その結果がこれだ。心当たりの無い罪を着せられて、あっけなく追い出されようとしている。


 「分かりました。そういうことなら出ていきましょう。今までお世話になりました」


「フン! 潔いではないか。さっさとそうするがいい」

 

 団長は俺を蔑むような目でそう言った。控えていたギルバートも、前に出て話かけてくる。


「ロンド先輩、今までお世話になりましたね。まぁ結局のところ、貴方には向いてなかったってことじゃないですかねぇ? まぁ今後は、私の騎士団での活躍を楽しみにしといてくださいよ」


 ギルバートはニヤついた表情を隠そうともせずにそう言った。さすがに頭にきたが、俺はじっと耐えて部屋を出た。



***


 騎士団寮の部屋に戻った俺はすぐに退寮の準備を始めた。荷物はそれほど多くなかったので、準備はあっさりと済んでしまった。


 これ以上嫌な気持ちになる前に出て行こうと考えたところで、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「おいロンド!君が騎士団を除名になったってどういうことだ!」


「ジークか。……本当さ。お前には世話になったのに、急な話で悪いな」


 部屋にやって来たのは、王立学校の騎士科からの親友であるジークだった。ジークは貴族出身だが、身分の高さを鼻にかけず、公平で誠実な人間のできている奴だ。俺とは違って器用で社交性も高いので、騎士団の中でも上手く立ち回っていた。


「なぜだ! お前が辞めなきゃならない理由なんてないだろ!」


「さあなぁ。なんか、気づいたら横領の罪を着せられてた。俺にはもう、騎士団って組織のことが良く分かんねぇよ」


「そんなバカな! 騎士団長は何を考えているんだ。お前が抜けたら、モンスター討伐業務は回らなくなるぞ!」


「そうか? まぁ最初は困るだろうけれど、騎士団は大きいからな。俺一人いなくなっても、何とかやっていくだろ」


「そんなことはない。お前は自分のことを小さく見過ぎだ。騎士団で真面目にやってるやつなら、お前の活躍はちゃんと理解してる」


 ジークはそんな嬉しいことを言ってくれた。俺のために本気で怒ってくれる、本当にいい奴なのだ。


「このままでいいのか? 騎士になることは、ずっとお前の夢だったんだろ?」


「ありがとう。お前がそう言ってくれるだけで嬉しいよ。でもまぁ、しょうがないさ。前から考えていたことだけれど、騎士団は俺の理想とは違ったんだ。お前も、俺を庇おうとかは考えるなよ。弱みを作ったら、この騎士団ではすぐに叩かれるぞ」


「それは……だが、お前が稽古をつけていたルナのことは放っておいていいのか? お前が突然いなくなったら、彼女はきっと悲しむぞ」


 それを言われると少し辛い。ルナは後輩の騎士団員だ。嬉しいことに俺を慕ってくれていて、剣の稽古を教えたりなどしている。


「ルナのことは心残りだけれど、今は遠征中で連絡を取ることも出来ないからなぁ。そのうち伝えるさ」


「そうか……くそっ! やっぱり納得できるか!」

 

 悔しがるジーク。やっぱりいいやつだな。学生時代から、こいつにはいろいろと助けられてきた。


「悪いな。それじゃ、俺はそろそろ出るよ」


「……これからどうするんだ?」


「うーん、他に行くところもないから王都に残るけれど、仕事はどうするかな……。とりあえずは貯金もあるし、しばらくゆっくり考えるさ」


「そうか……こんなことを今言うのは何だが、それなら冒険者をやってみるっていうのはどうだ?」


 冒険者? 国が作った防衛組織である騎士団ではなく、私兵団に入って戦うということか。


「ちょっと考えてみるよ、ありがとう。それじゃあな」


 ジークに別れを告げて、俺は寮を出る。


 そうして俺は、5年間勤めた騎士団を辞めたのだった。



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