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第三話 後編

 「えっ!」


 秋也の食いつき方は少し大げさに見えた。秀樹につかみかからんばかりに身を乗り出してきた。


 「オレが小学生の時だ」


 間近に迫った秋也の顔を人差し指で押しのけつつ、秀樹は答えた。


 「家にブルームが侵入してきた。それで父が、つまりルクスが助けに来てくれたけど、ちょっと間に合わなくて。母はあいつに……殺された」


 秀樹の目は遠くを見ていた。ぼんやりと、当時のことを思い出しているのだろう。


 牧原は隣で彼の方を心配そうに見ていた。とてつもなく辛い出来事を、話の流れとは言え語ることになったのだ。思い出すだけでもかなりつらいだろうに、と。


 牧原は強く心配した。少なくとも、姉の死をへらへらしながら話す秋也よりは。


 「まあ、オレをかばってくれたから、母が亡くなったのも分かってる。父も家族を守るために全力を出してくれたのも知ってる。だからオレができることは、自分の身くらいは自分で守れるようにすることだって。そう思って、【能力】をコントロールできるように鍛えてきた」


 秀樹は自分の左手を見つめた。そこに何か意味があるかのように。

 

 秋也は、そんな秀樹の様子を、眉根を寄せながらジッと見つめる。


 「変わってるね、秀樹は」


 「お前に言われたくないよ」


 「でもそうじゃん。ぼくは今、ブルームを倒すためにあちこちを調べてる。ブルームが作ったリーディックも、ブルームの産物だから始末してるんだ」


 「始末って。お前のやり方は過激だ」


 「まあ、聞いてよ。ブルームが生み出したリーディックを倒し続けることで、やつの方もぼくのことが気になって接触してくるはず。そこで復讐を果たすってわけ。でも秀樹も、ブルームに復讐するためにリーディックを倒してるんでしょ?」


 いつの間にか、秋也は牧原と秀樹の間に割り込んできていた。鬱陶しがる秀樹をよそに、ぐいぐいと顔を近づける。


 「いや、違う。ブルームに復讐なんて、そんな気はない」


 「うそだ。自分の母親を殺されて、黙っていられるわけがない」


 そう主張する秋也の目は、何故か懇願するかのような雰囲気があった。


 「もちろん、母を殺されたのは悔しいさ。でも、亡くなった母も、オレを守ってくれた父も、復讐で人生を満たすようなことは望んでない。オレがリーディックを倒すのは……」


 立ち上がり、歩いていく。秀樹は屋上の手すりに腕を組んでもたれかかると、眼下に広がる校庭を見下ろした。


 「なんていうか。助けてほしい人が、ちゃんと助けてもらえるようにしたいから、かな」


 校庭では、昼休みの時間を利用してサッカーをしている男子たちがいた。


 校内の球技大会に備えているのだろうか。午後からも受ける授業で体力が奪われるであろうにも関わらず、カッターシャツ姿で走り回る彼らのがむしゃらさが眩しい。


 「よくわかんないや。ぼくには」


 秋也がため息交じりに吐き出すのが、秀樹の背後に聞こえた。


 ふと、秀樹の耳に飛び込んでくる。ちょっと穏やかではない話し声。


 「――出せよ、ほら」


 校舎の脇、校庭からは陰になっている場所に、数人の男子たちが立っていた。


 1人の男子、背の低い人物が壁際にいた。残りの数人は彼を取り囲むように立っている。


 「だから、もう充分払ったでしょ。これ以上は、親にばれるし……」


 「んなこと聞いてないんだよ。だ、せ。って言ってんだよ」


 取り囲む男子たちの中心にいる、髪をオールバックにガチガチに固めた長身の男が詰め寄った。


 「お、カツアゲかあ」


 手すりにもたれて様子を見ていた秀樹の隣に、秋也がのんきな声で寄ってきた。


 「どうすんの、秀樹。助けてあげるの?」


 秋也が煽る煽る。秀樹の顔を斜め下から覗き込む。


 秀樹は目を細めて目下の光景を見守っていた。ここで動くべきなのか。やるにしても、どういう風に介入すべきなのか。


 彼が思案を重ねていた時、事態が動いた。


 「ぐあっ!」


 リーダー格の長身の男が、顔を押さえて転んでいた。彼を殴ったのか、壁に追い詰められていた背の低い男子が拳を握っている。


 「へー、根性あるじゃん、あの子」


 「いや……なんか変だ」


 秋也は面白そうに声をあげたが、秀樹は油断なく現場を注視した。


 順番に、ほかの男子たちが背の低い男子に向かってきた。だがたった一人を相手に、一発ずつ殴られるだけで地面に倒れている。


 秋也は手をパチパチとたたいた。今は牧原も手すりまで来て見下ろしているが、喧嘩の光景を見て顔をしかめている。


 「秀樹、なんで変って思うの? あの子がすごく鍛えたんじゃないの?」


 「いや。体格差からして、格闘技を習っても、あんな簡単に連続で相手を殴り倒すのは難しい。もしそんな技術があったとしても、そこまで普段から鍛えこんであるやつが苛めの対象になるわけが……ない」


 秀樹の声にはほとんど確信に近い響きがあった。


 ふと、背の低い男子が、秀樹に見える方に顔を向けた。それを見て、秀樹たち3人はアッと声をあげる。


 「リーディックだ……!」


 そう言ったのは牧原だ。振り向いた男子の両目は、紫色に光っていた。


 間もなく、その男子の身体が紫色の光の奔流に包まれた。リーディックの変身のスイッチを入れたのだ。


 「どうする、秀樹――」


 秋也が秀樹の方を向いたとき。


 既に彼の姿は隣になかった。


 「ま、そうだよね」




 ◇◇◇




 「わ、わ、わ、来るな!」


 オールバックの男子は、ツーっと一筋の鼻血を出しながら叫んだ。


 さきほど殴られたことで出てきた鼻血だ。しりもちをついており、うまく立ち上がれないのか腕だけで後ずさりしている。


 いきなり、苛めの対象の男子の両目が光ったのは覚えている。それでガツンと鼻に重い一撃。地面に倒れて昏倒している間に、何故か紫色の巨大な蛇が現れていたのだ。


 「くそっ、なんでこんな目に!」


 自分のしていたことは棚に上げ、悪態をつく。誰か助けてくれないかとあたりを見回すも、自分の仲間の男子たちは一様に地面に伸びている。


 シューっと耳障りな鳴き声をあげる、紫色の大蛇。すぼめた口の先から、二股になった舌がチロチロと動いている。


 大蛇が口を開けた。口は人の身体よりもさらに大きく開けられ、その中は真っ暗な闇で満たされている。


 「うわああああっ!」


 食い殺される。そう思い、悲鳴と共に目を閉じた。


 だが、いつまで経っても大蛇は来ない。飲み込まれる感触もない。


 自分は既に死んでいるのだろうか。そう思って、オールバックの男子はそっと目を開けた。


 「くっ!」


 目の前には、いつの間にか銀色の戦闘スーツを身にまとった人物が、大蛇の首を抱きしめて止めていた。


 大蛇のパワーがすさまじいのだろう。その人物――秀樹が踏ん張る足が、ずりずりと動いて地面に線を引く。


 ポカンとオールバックの男子がその光景を見守っていると、秀樹が首だけ後ろを向く。左目が既に光っており、身体強化の能力を発動していた。


 「おい! さっさと逃げろバカ!」


 「は、はいっ!」


 秀樹の怒号にビビった男子は、即座に後ろを向く。よたよたと両手も使って地面を這い、やがて走り出した。


 それを確認した秀樹は、大蛇の首を放してジャンプする。


 大きく開けた口の中の、牙の一撃が空を切る。


 着地した秀樹は、大蛇の額にはめ込まれた黒い石を見ながら、体勢を低くして構えた。


 「やめとけ。苛めの反撃に使うには、その力は物騒すぎる」


 大蛇、もとい、カツアゲにあっていた男子に話しかける。


 「オレノ、クルシミガワカルカ……」


 「分かんないけど、これだけは分かる。お前がそのまま暴れても、最後は絶対後悔するぞ」


 「コウカイ?」


 「無敵の力を得たわけじゃない。無暗に力を行使しても、同じような力を持つ者たちに狙われ、悲惨な最期を迎える。そんなことを望んでるわけじゃないだろ」


 だが、大蛇はシューっと息を吐くばかりで、全く戦闘態勢を緩める気配はない。


 仕方ない。


 そう思った秀樹が地面を蹴ろうとした瞬間、突如、人影が空から落ちてくる。


 秋也だった。右目が赤く光っており、高所からの着地に全く怯んでいないようだ。つまり、ある程度の身体強化も発動しているらしい。


 「お前……」


 「邪魔するね、秀樹」


 秋也の右目だけでなく、両目が赤く光った。


 ルビーのように、深い深い赤。深紅の光が放たれると同時に、彼の身体全体が赤いオーラをまとう。


 大蛇が秋也を振り向いた。だが既に、秋也の右手が大蛇の身体に触れていた。


 「燃えろ」


 彼の右手が光ると同時に、大蛇の身体全体が炎に包まれた。


 「ギャ……」


 断末魔をあげるのと同時に、すぐにその巨体が煙をあげて崩れていく。


 見る見るうちに大蛇の姿は消失し、跡には最初のいじめられっ子の男子が横たわっていた。


 これで変身解除。そして失神している。


 その男子の額には黒い石が残ったままだが、白目をむいて痙攣している状態では、何の脅威もないだろう。今のところは。


 だが、秋也は横たわる男子の方に右手を向けた。


 「――おいっ!」


 咄嗟に秀樹が飛び出し、いじめられっ子をつかんで転がった。


 一瞬後に同時に秋也の右手から火炎が発射されたが、地面の草を燃やすだけで済んだ。


 「何すんだ! こいつを殺す気か!」


 男子を地面に下ろすと、秀樹は秋也に怒る。


 そんな彼の態度に、秋也は不思議そうに首を傾けて見せた。


 「……そうだけど?」


 「そうだけどって。何考えてんだ、お前」


 「リーディックに改造されたってことは、その力を悪用して、人を殺す気満々ってこと。さらなる被害を防ぐために、始末するのは当たり前でしょ」


 秋也の声は冷たかった。本気で言っている気迫がある。


 「秀樹、きみだって、リーディックがいなければ大勢の人たちが傷つかずに済んだ。そのことは理解しているはず」


 「それは正しい。だが、それは銃火器を扱う人間が悪いのか、銃火器が悪いのかの理論と一緒だ。要は使い方だ」


 「使い方が悪いから、こうなってるんでしょ。現に、君が止めなければ、そのリーディックの彼に人が殺されていたんだよ」


 「でも止められた。そうだろ? どんなに強い力を持った相手でも、止めることができたんなら、そいつの考えを正し、力の使い道を教えるべきだ。学ぶことを信じないと、誰も成長できない」


 「甘いね。きみは」


 秋也はゆっくり近づいてきた。その両目はまだ強く光り続けており、体全体からもオーラが途切れなく漏れ出している。


 「どうしてもっていうなら、ぼくを止めてみてよ」


 彼は右手を持ち上げた。


 拳を握り、前方へ向ける。すると手の甲の表面に楕円形の半球が現れた。


 その半球が光り始める。深紅の光が瞬き、そして秋也の身体全体もいっそう明るく光った。


 「きみの本気でさ」


 秋也の身体から、竜の顔をした異星人、メルバの透明なビジョンが前方に飛び出してくる。


 「――ユナイト」


 そしてメルバのビジョンが秋也の身体に重なり、秋也のシルエットそのものが赤い光になった。


 一瞬後、秋也の見た目は完全に――【変身】していた。


 いや、メルバの力を具現化したのだろう。赤い光が収まったあとは、まるで鎧のような深紅の装甲が彼の身体を隙間なく覆っている。


 それはフォルティアの姿だった。


 ただし、もとのメルバの姿とは違っていた。全身が銀色ではなく深紅に染められているのもあるが、全体的にとげとげしい。


 鎧の各部から後方に向かって伸びる角のようなパーツが、まるで地獄の業火を象徴するかのようだった。


 もう赤いオーラは秋也の身体を包んではいない。だが、そのことがかえって、全パワーを集中していることが分かる。


 「行くよ」


 秋也の身体が沈み込んだ。


 秀樹はそれを見て、既に横に跳んでいた。


 彼が避けた場所を、目に見えない真空波が通りすぎる。


 そしてはるか遠くの校庭の隅で、秋也が着地したのが見えた。


 「よく避けたね」


 向き直りながら秋也はつぶやく。彼が着地した周りの木が折れ曲がり、フェンスがひしゃげていた。


 校庭でサッカーをしていた男子たちがあんぐりと口を開けて、赤い装甲をつけた秋也を眺めていた。


 彼はそれをチラッと見ると、すぐに秀樹の方へまた足を踏み出した。


 秀樹は上に跳んでいた――だが秋也は読んでいた。


 「見えてるよ!」


 背中と足から炎を噴射し、前方への突進から急上昇する。瞬時に、空中にいる秀樹の目の前まで距離を詰める。


 右こぶしを叩きつける。


 踏ん張りの効かない空中ではあるが、秋也には関係ない。全身から任意の方向へ炎を噴射し、地上と同じように重い一撃を繰り出した。


 「ぐあっ……!」


 何とか両腕を閉めてガードしたものの、思い切り殴り飛ばされる秀樹。


 そのまま空中を落下し、高校の近くにある空き地に激突した。


 砂ぼこりを上げ、少し滑って止まる。彼の身体が地面を削った線ができていた。


 秋也は炎を噴射して空を飛び、すぐに秀樹のいる空き地に到達する。


 飛行状態を解除し、ひざまずくように着地する秋也。すぐに立ち上がって秀樹の方を向いた。


 「どうやら、このままじゃ勝負にならないようだね」


 腰に手を当ててため息をつく。


 秀樹も立ち上がっていた。だが、明らかにそれと分かるように、彼の腕のアーマーが凹んでいる。


 衝撃を逃がしきれず、秋也のパンチをもろに受けてしまった結果だった。


 パワーはもちろん、スピードでも秋也の方が勝っている。いくら秀樹に訓練で培った技術があったとしても、人間がライオンに挑むようなもの。


 「だけどね、秀樹」


 秋也は両手を前に出す。そして、何か武器をつかむように右手だけを握った。


 「きみの底力、そんなもんじゃないと思うんだ」


 彼の目の前で、炎が何かを形作っていく。

 最初は棒のように見えた。しかしやがて刃、鍔、握りを形成し――西洋のロングソードとなった。


 騎士が中世に使っていたとされる、一般的な両刃の剣。


 鎧と同じ深紅に染まったその武器を両手で握ると、上段にかまえる秋也。


 「さあ、見せてよ」


 そして腕を後ろに引き、体勢をやや落とした。


 「きみの本気をさ!」


 姿が消えるほどのスピードで、再び突っ込んできた。


 突進と同時に、長剣を振り下ろす。


 バコッ。長剣に乗せられた圧倒的なパワーで、大地が大きく割れる。


 だが、長剣は目標を傷つけることはなかった――立っていたはずの秀樹の姿は消えていた。


 「なっ――」


 秋也が急いで振り返る。


 彼の頬を、銀色の拳がとらえた。


 鋭い右ストレートが秋也の顔面を回転させ、彼の身体全体を空中にかっ飛ばす。


 握っていた長剣は手から離れていった。


 「ぐっ!」


 ラケットに打たれたテニスボールのようにクルクルと回転しながら飛んでいく秋也。


 やがて地面に激突し、さすがに不意の攻撃でショックを受けたのか、うめき声が漏れる。


 顔だけ持ち上げ、彼は急いで背後を振り返る。


 その目に映ったのは――


 「これで、満足か?」


 銀色のヘルメットの奥、【両目】からエメラルドグリーンの光を放ち、全身から緑色のオーラが漏れ出している秀樹の姿だった。


 今振りぬいた右拳を下に垂らし、秀樹は秋也を見やる。ハッキリと本気を出していると分かる秀樹の迫力が、秋也の肌をピリピリと焼く。


 「そうだね……楽しいよ!」


 秋也は立ち上がり、右手を前に向けた。


 すると地面に落ちていた深紅の長剣が、炎を噴射して秋也の方に飛んできた。


 走りながらその剣をキャッチすると、秋也は横なぎに剣を振る。


 秀樹も、軽く衝撃波が起こるスピードでその一振りを避けた。バックステップで大きく距離をとると、すぐに重心を前に移して相手の方へ跳ぶ。


 飛び込んで放った左ジャブが秋也の顔面をとらえた。


 綺麗にあごに当たると、最も軽い技であるジャブでさえ、格闘技の勝敗を決する時がある。脳を揺らし、相手の意識を刈り取るのだ。


 だが、これは格闘技の試合ではない。


 「少し、惜しかったね」


 ジャブは当たっていたが、秀樹の拳は秋也の顔面の皮一枚で止まっていた。


 防御のため秋也が構えていた長剣の刃が、秀樹の踏み込みを阻んでいたのだ。


 長剣の刃に当たらないようにと無意識に考えた秀樹のステップは、ジャブでダメージを与えるのには浅すぎた。


 長剣が赤い炎をまとう。


 それを秋也は、思い切り振りぬいた。


 「がああああっ!」


 絶叫をあげ、吹き飛ばされる秀樹。


 飛んでいく彼の身体から、焦げた何かの破片が落ちていく。


 すぐに秋也がダッシュし、秀樹の身体の落下地点まで先回りした。


 落ちてきた秀樹の顔をキャッチし、そのまま片手で持ち上げる。


 「武器、対、素手。結果は見るまでもなかったね」


 秋也は冷淡につぶやいた。


 秀樹の銀色のアーマーは焼け焦げ、胴体の大部分がはがれていた。


 フォルティアの力を取り込んだ秋也の剣の一撃に、地球の科学で生み出されたアーマーは耐えきれなかった。


 「く……」


 荒い息を吐きながら、秀樹は負傷した胴体を押さえる。


 既に全身から放たれるオーラは消え去り、両目からエメラルドグリーンの光が失われていた。


 一段階目の能力の合図である、左目の光さえも消えている。


 これでは、普通の高校生のパワーしか出せない。いや、負傷した今では、それさえも叶わない。


 「今回は、きみの父親は助けに来てくれそうにないね」


 銀色のヘルメットを片手でつかみながら、秋也は穏やかな声で言った。


 秀樹の身体を宙づりにしたままである。


 右手には絶大な威力の長剣。秋也がその気になれば、秀樹の命は絶たれる。


 「父さんは……忙しいからな」


 重傷を負い、息も絶え絶えな状態であったが、秀樹は何とか言葉を紡ぎだした。


 「それでも、ブルームの時には助けてくれたんだろ。息子の危機に駆けつけてくれるような、素敵な父親じゃないのかな?」


 「さあ……何か大事な仕事があるんじゃないの」


 「家庭より仕事が優先か。まあ、故郷を捨てて飛び出してきたルクスらしいね」


 秋也がそう言った瞬間、秀樹の左目に緑色の光が灯った。


 「あの人を、バカにするな」


 自分をつかむ秋也の左腕を、両手で力いっぱい握りしめる。


 「いった……」


 不意に鎧の薄い部分を狙われたのか、秋也は痛がり、秀樹の身体を落とした。


 土の上に落下した秀樹。秋也の拘束から自由になる。


 だが一瞬の反撃だったのか、彼の左目からは緑色の光は消えていた。負傷のダメージが勝っているようで、痛みに呻くので精いっぱいだ。


 「じゃあ、今度はどんな奥の手があるんだい?」


 足元の秀樹を見下ろし、長剣を両手で握りしめる秋也。


 ゆっくりと、上段にかまえていく。


 「頼みの綱のルクスの居場所は知らない。生まれながらの能力も既に出し切った。後は何を使って、この窮地を脱するつもりなの?」


 ロングソードの刃が、灼熱の炎を帯びた。


 秋也は地面を割るほどのパワーをもつ一撃を打てる。当たれば終わりだ。


 秀樹は自分の命を刈り取ろうとする刃を、銀色のヘルメット越しに見ていた。


 ――何かの気配がした。


 ほぼ同時に、秀樹と秋也が振り向く。


 上空から何かが落ちてくる。それは人影。


 着地したその姿を見て、二人の脳裏に同じものが浮かんだ。


 「ブルーム!」


 黒マントの人物。


 秋也はすぐに長剣を構えなおし、現れた人物に向かっていく。


 黒マント――ブルームは、右手をあげて衝撃波を放った。


 「くっ!」


 秋也は何とか地面にふんばり、数メートル引き下がるだけで済む。


 だが秀樹の方は、何の抵抗する力も出せず、地面をすごい勢いで滑っていった。


 ブルームは秋也の隙を作ったところ、特に追撃もしなかった。


 すぐに空を向くと、全身から青色のオーラを出して、空高くへ飛んでいった。


 「待てええええっ!」


 秋也もすぐに炎を噴射し、ブルームの後を追う。


 空き地に静寂が訪れた。


 秀樹は地面に転がったままだった。二人の超人が去った方を見ていたが、やがてヘルメットの耳のあたりに手を当てる。


 「龍二さん……迎えに来て。派手にやられた」


 それからだらりと、銀色の装甲のついた腕を地面に投げ出した。


 大の字に寝転がり、ただ空を見上げる。少し曇り始めていた。


 牧原と昼食を共にしていたのが、もう何時間も前のように思える。


 「今のはギリギリだった……よな?」

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