エピローグ
勇気を出して握ると、彼女の手はひんやりと冷たかった。
細い指、滑らかな手の甲。バレないようにしたいが、それらを意識せずにはいられない。
「あのさ」
「なに」
「前から聞きたかったんだけど」
「うん」
単調に相槌を打つ彼女の態度が、もはや自分も慣れてきたようで、心地よくすら感じた。
「初めてコアを手に入れた時、本当に躊躇しなかったのか?」
「えっ。だって、ブルームが死んじゃうと思ったから、何でもしようと思ったんだもん」
「お前、そうやってあっという間に状況を受け入れるなんて、オレの父、いや、母にもそっくりだな……」
「そうだったの?」
「ああ。母はブルームの約束を即座に受け入れ、父はルクスを助けるために二つ返事で同化した。そう聞いてる」
「へー……立派な人たちだったんだね」
ふと、どこかからサイレンの音が聞こえてきた。
目の前の道路を、パトカーが数台走り抜けていく。何か大事件が起きたようだ。
「行くんでしょ?」
彼女がそう言った。どこか楽し気に笑っている。
「まあ、そうだな。お前も行く?」
「いやいや、ヒーローのお株を奪うような真似は致しませんよー」
「そんな古風なセリフ、また本の虫が進んだのか」
ため息をつくと、ポケットから小さな装置を取り出した。
「行ってらっしゃい!」
走り出そうとしたとき、耳元に柔らかなものが触れるのがわかった。
振り向くと、彼女が少しはにかみながら笑いかけていた。
抱きしめたくなる衝動を抑え、走り出す。裏路地に入ったところで、思い切り上にジャンプした。
壁を何度か蹴り、ビルの上まで飛んでいく。その目は、片方が緑色に光っている。
左手に装置を取り付けると、スイッチを入れた。
「アーマー・オン」
全身が銀色のアーマーに包まれる。
サイレンが鳴り響く音が、事件の場所を示す。そこへ向かえばいい。
(そういえば……牧原から、あの答えを聞いていない気がする)
脳裏に浮かんだのは、かつて自分が答えを聞きそびれた一つの質問。
なぜ、牧原は自分の名前を知っていたのか。
「でも今は、もういっか」
銀色のヘルメットの上から、そっと耳元に手を当てる。そこには先ほどの柔らかな感触が残っている。
ビルの屋上を跳んで渡っていくと、やがて現場が見えた。
「てめえら動くんじゃねえ!」
複数人が銀行に立てこもっている。スタッフや客を人質にし、手には突撃銃をかまえている。
パトカーはすでに到着しているが、人質がいるため手が全く出せないようだ。
とりあえず、と。
排気口から中に侵入し、するりと犯人たちのいるフロアに入り込んだ。
両目からエメラルドグリーンの光を出す。体が、常人の目に見えないほど高速化する。
一人、二人、三人、四人と。次々に頭を軽くたたくだけでノックアウトした。
「力加減上手くなったなー、オレ」
最後の一人の背後に立つと、大きく伸びをした。
「なっ、どこから!」
目出し帽をかぶった、典型的な強盗犯が振り向いた。
急なイレギュラーの登場に驚いたようだが、すぐに気を取り直して突撃銃をかまえる。
「仲間を、やりやがったのか!」
「一応ね」
「てめえ! ニュースで見たことあるぞ……何者だ!」
その問いに、うつむいて少し考え込む。
床に座らされている客やスタッフがこちらを見ていた。
店の外では、警察官や野次馬たちも、この銀色のスーツを着た、噂の人物を興味深そうに見つめている。
やがて顔を上げ、快活に言い放った。
――ルクスマン、だ。
LUXMAN【ルクスマン】 ~完~
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またいつか、お会いできるのを楽しみにしております。




