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第五話 後編

 戦士が答えた。その途端、視界が急に光で満ちていくのが分かった。

 

 重さを感じた。体が重力を受け、下に縛り付けられている。

 

 温かい。フワフワとした物体が体に乗せられている。

 

 やがて、完全に目を開けた。

 

 「すー、すー……」

 

 誰かの寝息が、右の方から聞こえてくる。

 

 秀樹は自分の身体がベッドに乗せられており、どうやら病院にいるだろうと判断した。天井は白く、何かの機器が乗せられている台座を覗いて、空間のほとんどが白で構成されている。

 

 自分の手が点滴につながれているのが分かった。その管の先を眼で追うと、自分の右手側に、腕を組んで眠り込む父の姿が見えた。

 

 父は椅子に座ったまま、小さな寝息を立てていた。こくりこくりと頭が前に揺れるため、頭髪の金色ばかりが目に入る。

 

 声を出そうとしたが、まるでカラカラで、乾いた吐息しか出てこなかった。よほど長い時間、水分を喉に通していないらしい。

 

 ふと、左手に何かの存在を感じた。

 

 秀樹は掛け布団から左手を引き抜いた。そして、手の甲を顔の前に持ってくる。

 

 幻影のようにも見えるが、なにか透明な球体のようなものが、手の甲に重なるように浮いている。全く重さは感じない。

 

 最初、銀色に淡く発行していたが、その中心から緑色の光が生まれ、彼の左手全体を優しく照らす。

 

 『きみは私と同化したんだ。ライトの息子よ』

 

 頭の中に響く声。瞬時に秀樹は、それがルクスと名乗ったあの夢の中の戦士だと理解した。

 

 オレの中に……なんで。

 

 『きみを助けるためだ。きみは死にかけていた。蘇生するために、私の力そのものを埋め込んだんだ』

 

 力そのもの?

 

 『そう。半球状のコアだ。これからは私の力を使うことができるぞ』

 

 力……力か。オレは、強くなったんだ。

 

 『そうだ。何がしたい?』

 

 「みんなを守りたい。あいつのようなやつから」

 

 秀樹の口から大きな声が出た。その声の張りに、秀樹自身が驚いて目を見開く。

 

 今の声を聞いて、父が跳び起きた。すぐに秀樹のベッドに顔を近づけ、頬に触れた。

 

 「よかった……よかった、秀樹」

 

 「父さん」

 

 泣きそうに笑う父を見て、秀樹は嬉しそうに微笑む。心の中が安堵で満たされていくのを感じる。


 ふと父は何かに気づいたように目線を落とした。

 

 秀樹がその目線を追うと、自分の左手に淡く光る、幻影のような半球体が目に入る。

 

 それを見て、父は微笑んだ。そしてすぐに、悲しそうな眼をして秀樹に言った。

 

 「秀樹。大事な話がある。実は、今から500年前に……」


 


 ◇◇◇


 


 銀と緑の鎧をまとっても、無敵というわけにはいかない。特に、目の前の化け物に対しては。

 

 トカゲの化け物となった秋也は、恐ろしく強い。パワー、スピード、火力。全てが秀樹の全力――つまりルクスの能力を全部開放した状態よりも上回っている。

 

 秀樹が高速で飛び回る中、秋也も同じくらいのスピードで追跡する。炎をまとった長剣を携え、ただでさえ絶望的なリーチの差が生まれているのをさらに突き放しているのだから、秀樹のできることのほとんどは避ける動作になる。

 

 「ウオオッ!」

 

 雄たけびを上げながら、秋也は長剣を縦に振り下ろした。浮かんでいた雲が、長剣を覆う炎の熱により蒸発し、空に晴れ間が差し込んだように見えた。

 

 秀樹は全力で空中を加速すると剣の振りを掻い潜り、秋也の左脇の辺りに向かって飛んでいく。

 

 「チョコマカト!」

 

 秋也は苛立ったように剣を横なぎに振りなおす。だが、その体の動きに合わせて秀樹は、さらに秋也の四肢の陰に隠れた。

 

 標的を見失った一瞬の隙をつき、秋也の背中からぐるりと回りこむ。

 

 「らあっ!」


 剣の持ち手側である、右脇の方まで到達すると、本来なら肝臓があると思われる場所へ思い切り膝蹴りを叩き込んだ。


 赤い鎧が、シンバルを打ったかのようにジーンと振動する。だが、1センチのヒビを入れることもできない。


 「なんだと……」


 あまりの堅牢さに秀樹は驚愕する。膝蹴りと言えば、本来格闘技上では再高威力の打撃となり得るのだが……今の結果を見る限り、全く効果がない。


 つまり、秀樹の打撃では、レドウィンのパワーで強化された秋也の鎧を破ることは不可能に近い、と判断できる。


 眼の端に大きな塊が映り、秀樹は急降下して新たな攻撃を回避する。


 おそらく、今のは秋也の打撃。


 そして、長剣の一振りが猛スピードで迫ってきた。それを紙一重で回転しながら回避する。


 今の動きで、かなり体勢が崩れる。空中といえど、力の向きが一瞬だけでも固定されており、飛びながら戦うとなったら、余裕をもった体の運用が必須である。


 体勢が崩れたところに、秋也が口から放った赤い熱線が迫った――


 「危ない!」


 黒いマントが飛び込んできて秀樹の身体をさらう。彼がいた場所を熱線が通り過ぎていった。


 「助かった」


 相楽に礼を言うと、秀樹は秋也を視野に入れながら全速力で上昇する。並んで飛行する秀樹たちを認め、秋也は長剣を握りながら飛翔した。


 「ほら、何か作戦はないの!」


 「フォルティアの【コア】か、リーディックの変身の起点となる【ストーン】を破壊する。どちらかでもしないと、攻撃は通らない。あいつの装甲は硬すぎるし、火力が――」


 二人は一瞬、バラバラに離れて飛んだ。その間を火球が通り過ぎ、宇宙めがけて飛んでいく。


 「――強すぎる。打撃も剣撃も火炎系の飛び道具も、全てが即死級だ。500年前の戦いでも、父さんとルクスはやつの打撃がクリーンヒットし、一発でコアの片方を破壊されている」


 「それで今は、メルバのコアを持ってるから、さらに硬く強くなってるわけ?」


 「そうだな」


 「やってらんないよ!」


 今度は秋也が二人との距離を縮め、長剣を思い切り振り下ろしてきた。


 秀樹たちは回転しながら剣を躱し、そのまま秋也とすれ違うようにその巨体の後ろへと通り抜ける。


 攻撃を回転で避けた瞬間、二人は同時に加速して、秋也から離れていく。


 「そのコアか、ストーンを、どうやって破壊するの!」


 黒いマントを少しはためかせながら相楽は怒鳴る。フォルティアのパワーで彼女の周りの気圧はある程度保たれているが、この叫びは焦りから出たものだ。


 「秋也の、というかレドウィンのストーンは、どこにあるか分かるか?」


 相楽に質問する。彼女は秋也が放った熱線を避けながら言う。


 「隠れてる。ブルームが、そういうふうに作った。簡単に破壊されないようにバリアを張って、さらにどこにあるか見えないようにカモフラージュしている」


 「そう。つまり、ストーンが見つかるまで、手当たり次第に攻撃する必要がある」


 「そうするの?」


 「あいつが大人しく【きをつけ】をして、待ってくれてたらな。かつて父さんとルクスは、本当に手当たり次第に攻撃して、それでストーンは見つけたけど、自分も攻撃をくらったらしい。今の秋也の前では自殺行為だ」


 「じゃあどうするの!」


 秀樹は思案した。今、異星人の最高戦力ともいえるルクスとブルームの力を持って秀樹たちは戦っているが、それを上回る火力を持って秋也は向かってきている。


 あとは、どうやって戦力を足す?


 秋也は戦闘機より早く、ミサイルよりも火力があり、ダイヤモンドより堅牢だ。まともに戦ってはいけない。


 そんな相手を倒すために、自分たち超人二人に匹敵する戦力を味方につける方法があるのか。


 「……そうか。これで行こう」


 秀樹はつぶやいた。


 『秀樹、大丈夫かそれで?』


 ルクスの声が脳内に響く。体を共有しているため、思考は彼にばれているのはもちろんのこと。だが秀樹は大きくうなずいた。


 たぶん、大丈夫。というか、効果は絶大なはずだ。


 「相楽。よく聞いて……」


 秀樹は作戦を耳打ちする。相楽の顔色が曇るのが分かった。


 「本気で言ってんの? 下手したら死ぬじゃん!」


 「こっちは二人。助け合えば何とかなる」


 次の秋也の攻撃が飛んできた。二人が急降下すると、長剣が横なぎに通り過ぎる。


 「行くぞ!」


 「あーもう!」


 攻撃をかわした勢いそのままに、二人は思い切り下方に向かって飛ぶ、というか、落ちていく。


 雲の層を通り抜け、眼下に広がる地形をよく確認する。既にもといた町など視認できない場所まで離れ、海沿いの都市が広がっていた。


 火球が一つ、またもや二人に向かって放たれる。ギリギリで秀樹たちが避けると、真下の海面に直撃し、百メートルは超えそうな高さの波しぶきをあげた。


 眼下の海が迫る。だが秀樹たちは減速せず、そのまま大海原にダイブした。


 水中に入ったことで、水の抵抗を受けてスピードが大きく落ちる。でも彼らはひるまずに全速力で下へ、下へと突き進んでいく。


 秀樹と相楽の周りを、空気の層が覆っていた。フォルティアの超能力で大気をコントロールし、呼吸のための酸素を持ち込んだのだ。


 『来てる』


 『ああ』


 目線で彼らは会話した。後方に、海の中を巨大なトカゲの化け物――秋也が迫ってきているのが分かる。


 だが秀樹たちは臆さず、さらに深くへと潜っていった。


 日の光が水の層に遮られてか細くなり、自分たちの放つ能力のオーラしか見えない。それでも、二人で潜ることで、この絶望的な暗さの重圧を和らげることができた。


 ほとんど真っ暗闇になり、秀樹と相楽は互いの姿しか認識できないほどになる。周りには、どこまでもただよう漆黒の闇。それは水が作り出す、重さのある闇なのだ。


 本来であれば、超高密度の水圧に押しつぶされていたであろう。だが秀樹たちの能力によって、無理やり水圧を押しとどめ、空気の層を守っている。


 『もういいだろう』


 秀樹が合図し、二人は上を、つまり海面の方向であろう向きを見上げた。


 遠くに赤と紫のオーラが、かすかに見える。かなり秋也を引き離したらしい。


 秀樹たちは急上昇した。先ほどは全力で逃げていた秋也に向かって、出せるだけのスピードを持って向かっていく。


 秋也の姿が見えた。だが持ち込む空気の層を甘く計ったのか、上半身の周りしか覆えておらず、水圧に下半身を縛られている。


 狙った通りだ――


 秀樹は傍らの相楽に合図した。彼女は右手のコアから青色の光を解き放つと、黒いエネルギーの球体を作り始める。


 それは一つではない。二つ、三つ、最終的には十個ほどになった。


 相楽がバスケのシュートを決めるように、手のひらの上に黒い球体を掲げる。そのまま秋也の上半身に向かって進んだ。


 秋也が二人の動きに気づき、長剣を縦に振り下ろしてきた。


 だが、体の各部分を水圧に縛られた状態では、本来のスピードは出せない。


 秀樹がすかさず回り込み、相楽に向かってきた巨大な刃を、秋也の手首に抱き着いて押しとどめる。


 その隙をついて、相楽は秋也の顔の前まで到達。


 『くらえ』


 本当にバスケのダンクシュートを決めるように大量の黒いエネルギー弾を秋也の口の中に投げ入れた。


 ぐっ、とまるで正月のモチを喉に詰まらせたかのように、秋也は極太の左手を喉に当てた。


 やがて、彼の巨体の至る所から、光のシミのようなものが漏れ出してくる。それは線となり、ジグザグになり、明らかにそれと分かるヒビが、彼の全身に広がっていった。


 水圧で動きを封じ、体内に高密度のエネルギーを食らわせる。それが彼らの作戦だった。


 間もなく秋也の身体は崩壊する。ジタバタと四肢を動かし、秀樹たちを攻撃する余裕もないようだ。


 『うまくいった』


 秀樹は相楽にグーサインを出し、彼女も手で丸を作って返した。


 その一瞬が命取りだった。


 秀樹の方を向いていたため、秋也の動きを相楽は見ていなかった。


 苦し紛れに秋也が振り回した巨大なロングソードが、相楽の背中に叩きつけられた。


 『相楽!』


 秀樹は相楽の身体を抱きかかえる。青いオーラが消えていた。


 自分が持ち込んだ空気の層でしっかり彼女を囲んでいるのを確認すると、秀樹は海面まで急上昇した。背後で閃光と共に何かが砕け散るのが分かった。


 やがて視界が明るくなり、間もなく秀樹は海を抜け、懐かしい大気の世界へと飛び出した。


 「相楽!」


 呼びかけるも、黒マントの奥からは返事がない。


 秀樹はすぐに近くの海岸に飛んでいった。砂浜に着地すると、すぐに銀と緑の鎧を解除する。彼女を下ろして地面に寝かせ、さらにマントを脱がせる。


 仰向けになっている状態では、特に負傷した個所は見受けられない。だがみるみるうちに地面に血が広がっていくのを認め、相楽の身体を横に向かせた。


 セーラー服の上に羽織ったカーディガンの背中の部分が、恐ろしいほど真っ赤に染まっていた。よほど傷が深いのか、彼女に添えていた秀樹の手足も、あっという間に血でずぶぬれになった。


 相楽の意識はない。目は閉じられ、苦しそうな顔をしている。


 「ルクス、錬金術で止血できるか?」


 『やってみよう』


 相棒の返事を聞いた秀樹は、相楽の背中に左手を当てる。手の甲にあるコアが緑色に輝き、ルクスの力が彼女の身体に流れ込んだ。


 一秒、二秒、三秒、四秒。早く効果が現れないかと、秀樹はやきもきしながら、ルクスの能力の働きを見守る。


 やがて、とめどなく流れていた血が止まるのが分かった。もう新たな血は流れてこない。


 ふう、と安堵のため息をつき、秀樹は相楽を仰向けに寝かせた。


 すぐに彼女の胸に自分の耳を当てる。豊満なものが彼のもみあげを優しく包み込んだが、邪念を何とか振り払って、彼女の心音に集中した。


 「心音が、かなり弱い。心臓マッサージが必要だ」


 『傷口はしっかり固定したから、ある程度は大丈夫だぞ』


 ルクスの言葉を信じ、秀樹は相楽の首の角度を調整する。そして彼女の胸に真上から両手を当てた。


 ぐっ、ぐっ、と胸を強く押す。そして時折呼吸を確認し、口から口へ直接空気を送り込んだ。


 それを何度か繰り返した。戦いによるアドレナリンの分泌で、疲れは全く感じない。


 「……かはっ」


 相楽が息を吹き返した。


 薄目を開けて、彼女は周囲を確認しようとする。心配そうにのぞき込む秀樹の顔を見て、少し口角を上げた。


 「生きてる?」


 「何とかね」


 ゆっくりと、相楽が右手をあげる。手のひらが向けられたのを見ると、秀樹はパチンと打ち返した。


 「近藤秋也は?」


 相楽の質問に、はっとして秀樹は周囲を見回した。


 秋也の姿はない。一見そう思った。


 だが、波打ち際に一人の男性が打ち上げられているのを見て、秀樹はすっと立ち上がる。


 「相楽、動けるか?」


 「どうだろ」


 右手にコアを出して青く光らせると、相楽は何とか立ち上がった。コアから供給されるエネルギーを使ったようだ。


 「離れてろ」


 秀樹は相楽を後ろに残し、倒れている男性の方へ近づいて行く。


 すると、その男性がゆっくりと立ち上がるのが見えた。両目が【赤色】に光っている。


 おそらく、先ほどの攻撃から何とか生き残ったが、レドウィンの能力は失われたのだろう。残るのは、彼が最初に手に入れた力のみだ。


 「まだだ……まだだ秀樹!」


 右手を持ち上げると、秋也はコアを出現させた。そしてメルバのビジョンが出現し、合体して深紅の鎧を装着する。


 秀樹は黙って、自分も左手にコアを出現させた。そしてルクスのビジョンと合体し、緑のラインが入った銀色の鎧を身にまとう。


 ザッ、ザッ、と秀樹は砂浜を進んでいく。その歩みに迷いはなく、まっすぐに秋也のいる場所を目指す。


 秋也は長剣を召喚すると、すぐさま炎をまとわせた。


 「今度こそ、今度こそ、そのコアをもらう!」


 秋也は砂浜を蹴った。そして背中から炎を噴射し、一気に加速する。


 秀樹も地面を蹴った。体に緑色のオーラをまとわせ、飛行能力を発動して突進する。


 秋也の刃が、秀樹に迫る。そして――


 「武器対素手は、ダメって言ってたよな」


 強烈な金属音が辺りに響く。


 朝日が二人を照らす。砂浜に立つ、異形の四肢を持つ超人二人を。


 「なっ……盾?」


 驚く秋也。彼の長剣の刃を受け止めていたのは、秀樹が左手に装備した盾だった。


 突進する直前、秀樹は【錬金術】の能力を発動し、盾を形成。そして激突の瞬間に秋也の攻撃を受け止めていた。


 盾を思い切り外側に振り抜く。


 長剣をパリイされ、秋也の上体が思い切り開いた。


 「武器対素手、じゃない」


 秀樹の右アッパーが、秋也のあごに炸裂した。


 「武器対、武器と素手だ」


 空中にかっ飛び、一回転、二回転。


 秋也の身体は回転していく間に鎧が解除され、砂浜に墜落した頃には生身に戻っていた。


 秀樹は静かに、宿敵のもとに近づいて行く。


 秋也は動けないようだった。完璧に決まった致命の一撃は、彼の平衡感覚、体力、そして戦意を奪い、無害な高校生へと戻していた。


 「どうする、んだよ」


 秋也は秀樹を見上げて、問いかけた。


 先ほどのアッパーのダメージが深く、体がピクピクと痙攣している。とても立ち上がる力はなさそうだ。


 だがそれでも、秀樹は油断しない。フォルティアの鎧を解除しなかった。


 全ての人を騙し、傷つけ、最強最悪の力を手に入れた男だ。どこまで行っても、何か残しているかもしれない。


 秀樹は少しかがむと、秋也の右手をつかんで持ち上げた。そして尋常ではない力で、彼の手首を握る。


 「いっ……」


 痛みに呻く秋也。それがスイッチとなったのか、無理やりではあったが、彼の右手の甲にフォルティアの【コア】が現れた。


 それを確認すると、秀樹は拳を握る。秋也のコアに向けて、狙いを定めた。


 「待ってよ。秀樹」


 「待てるか」


 「いや。待つべきだ。このコアを壊せば、メルバも消滅するんだよ?」


 秀樹は秋也の目を見た。


 銀色の鎧に隠された表情は分からない。だが、既に何かを悟ったような、悲しみを捨てたような雰囲気がそこにあった。


 「メルバは、既に死んでいる。お前の悪事に加担するような男ではなかった……とルクスは言っていた」


 「えっ」


 「ルクスに会いに、彼は遠い故郷からやってきた。目的は師匠に再会することだったはずだ。でも」


 秀樹の声は暗かった。


 「ブルームに体を壊されたとき、メルバは生き残るために秋也、お前と契約した。お前の復讐を叶えることを選んだ。いつしか、それがメルバの目的そのものになってしまった……だがな、お前も同じ轍を歩んでる」


 「どういう……」


 「本当は、姉を殺された復讐のために、ブルームを倒したかったはずだ。でも今では、ブルームを倒す力をつけるために、多くの人を巻き込み、命を奪っている」


 秋也の右手を引っ張り、再び狙いを定めた。


 「お前たちは、手段を目的にした。そしてその先に、人々の悲しみしか待っていない。これ以上……この連鎖を生まないように、メルバ」


 秀樹は真っすぐに、拳を秋也の手の甲に叩きつけた。


 「このバカな男の命だけは助ける。でも、お前はもう安らかに眠ってくれ」


 コアが砕け散った。


 赤い光が拡散する。最後に、銀色の陽炎のようなものがフワフワと宙に浮かび、そして消えていった。


 秀樹は秋也の手を離した。足元に転がる男が嗚咽を漏らして丸まっているのを見て、ようやく秀樹は能力を全て解除した。


 学ランの姿に戻った彼は、空高く昇った太陽を見上げる。あと少しすれば、お昼時になるだろう。


 ふと、どこかから声が、微かに聞こえる気がする。


 ――すまない。


 誰の声か、秀樹は聞いたことがあると思った。

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