第8話「帝国のうそ」
お城は、シーンと静まり返っていた。
ぼくは部屋のベッドの上に座って、ノブシゲ兄ちゃんが言ったことをずっと考えていた。
ハルカスと仙人様は、ぼくや壊れたカーニィと一緒に、お城に戻ってきている。
――最初のドローンは本当にオーサカ国がおそってきたのか。
兄ちゃんはなんで帝国の機神に乗っていたのか。
帝国兵たちは、なんで兄ちゃんをあんなにえらい人扱いしていたのか。
もっともっと分からないことがある。
超機神を動かすのに、若い異世界人が必要って言ってた。だから襲われたんだとしたら、ぼくや兄ちゃんがその、超機神に乗らされるってことなのかな。
そして。
――かーくんは、ハルカスは、本当にぼくを騙してるんだろうか。
そのかーくんは今、カーニィからの救出作業が始まっている。
「……どうなっちゃうのかな、ぼく」
そうつぶやいた時、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
「……どうぞ」
「……」
入ってきたのは、ハルカスだった。
「……ハルカス」
「ヒデヨシ……」
「どうしたの?」
「……ごめんなさい!」
そう言ってハルカスは頭を下げた。
ぼくはびっくりして、アタフタしながらベッドから降りようとして――こけた。
「いったぁ……」
「だ、大丈夫!?」
「う、うん、大丈夫。……どうしたの、急に」
「だって……」
いつもおてんばっていうくらい元気なハルカスが、しょぼんとしてうなだれてる。
「この世界のことで、迷惑かけちゃったし……」
「……」
まあ、たしかに。
この世界のことは、ほんとならぼくには関係ない話だ。
でもさ。
「いいよ」
「え?」
「気にしてない……訳じゃないし、迷惑だと思ってな……くもないけどさ。でも、ぼくは今この世界にいて、困ったことになってるんだから。お互いさまだよ」
「……! あり、がとう……」
「それに兄ちゃんもなんか変だったし……」
「あ、そう、それなんだけど!」
「?」
「ママが調べてくれたみたい! ノブシゲ? がどうして帝国の機神に乗ってるのか!」
「えっ!」
そう言ったハルカスは、ぼくに近づいて手を取った。ちょっとドキドキしちゃったのは内緒。
「だから私、ヒデヨシを呼びに来たの! 一緒にお話聴こう?」
「う、うん……」
なにがどうなってるのか。
ちゃんと説明してもらおう。
――――
「具合はどうですか、ヒデヨシ」
「あ、はい、大丈夫です」
えっけんの間で、ぼくとハルカスは女王様と会っていた。最初に女王様に会った部屋だ。
今、この部屋にはぼくと女王様、それにハルカスがいる。
ぼくは早速、かーくんのことを聞いてみた。
「あの、かーくんは大丈夫なんでしょうか」
「ええ。かの者は魔法生物。頭を壊されない限り、命を落とすことはありません。ただ、カーニィ=ドンラックの壊れ方が酷く、かの者のいる動力室にたどり着くのに時間がかかっているのです」
「そ、そうなんだ……よかった」
「とはいえ、もうすぐ救出されるでしょう。それを待って、これからの話をしようと思い、あなたをここに呼んだのです」
これからの、話。
帝国との戦いと、ぼくたちのこと。
ノブシゲ兄ちゃんが言ってた、超機神のこと。
聞きたいことはいっぱいあった。
ぼくが頭を悩ませていると、えっけんの間のドアが開いた。
そこには、最初に会った時みたいに、頭だけのかーくんを抱えた、作業員さんが立っていた。
「魔法生物“いのちのかがやき”551番、回収完了しました。ですが、躯体の回収は失敗です」
「かーくん!!」
【……ヒデヨシ】
ぼくはかーくんに駆け寄って、肩にのせた。
「大丈夫? かーくん」
【……おう、ちょっと疲れてるけど、だいじょぶやで】
よかった。
無事だったんだ。
かーくんを置いて作業員さんが帰ると、女王様があらためて話を始めた。
「では、始めましょう。……ヒデヨシ」
「は、はい!」
「まずは、私共の争いに巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」
そう言って女王様はぼくに、深々と頭を下げた。
「あ、いや、そんな!」
「……ですが、あのノブシゲという者の言葉は訂正させてください。あのような事実は一切ありません」
「ママ……」
「……うん。それは分かってます。あの時の兄ちゃんはなんか変だった」
らしくない。
ぼくはあの時、そう思ったんだけど。
「なんか、聞いたことをそのまんま話してるだけって気がしました」
「やはりそうですか……。おそらく彼は、あなた方を襲った者が、我がオーサカ国の兵士だった、という話をうのみにしてしまったのでしょう。そしてその後はつじつま合わせのウソを、本気にしてしまっている」
ぼくには本当のことは分からない。
分からないけど、ハルカスや女王様が悪い人じゃないっていうのは分かる。
それに、兄ちゃんに感じた、らしくない感じ。
――兄ちゃんは、帝国にうまく使われている。
でも、なぜ?
その答えは、すぐに思い出した。
「超機神……」
ぼくのつぶやきに、女王様がゆっくりとうなずいた。
「その通り。超機神を使うため、帝国はあなたたち、若い異世界人に目をつけた。最初はヒデヨシ、あなたに」
「なんで、ぼくなのかな……」
【若いからや。超機神のシステムはまだよー分かっとらんくてな。分かっとるのは、操縦者は若いほどええってことだけや。せやから、最初はヒデヨシを狙ったんやで】
そっか。
ぼくの方が兄ちゃんより若いから。
「……じゃあ、ぼくが逃げたせいで兄ちゃんがさらわれちゃったのか」
「ヒデヨシ……」
ハルカスが心配そうにぼくを見つめる。
ぼくの言葉に反応したのは、かーくんだった。
【そうかもしれん。でもな、ヒデヨシ。あの時ノブシゲは、ヒデヨシを逃がそうとした。それは、ノブシゲ自身の気持ちや】
「うん……」
「助けに行こうよ!」
「えっ!?」
声の主はハルカスだった。
帝国に、兄ちゃんを助けに行く……?
「でも、そんなこと出来るのかな……カーニィも壊されちゃったし……」
「そこでお願いがあるのです、ヒデヨシ」
「え?」
ぼくが驚いて女王様を見ると、女王様はぼくをしっかり見ながら言った。
「我が国の超機神、タイ=ヨーノ=トーを起動させて欲しいのです」