第7話「ノブシゲ兄ちゃん」
「無事か、ヒデヨシッ!!」
「ノブシゲ兄ちゃん!?」
なんで?
なんでノブシゲ兄ちゃんが、帝国の機神から降りてくるの?
ぼくはいてもたってもいられずに、カーニィから飛び降りた。
【あかんヒデヨシ! 罠かもしれん!】
「罠なもんか! あれはノブシゲ兄ちゃんだっ!」
かーくんの言葉も構わず、兄ちゃんに駆け寄る。
ブレーキもかけずに突っ込むぼくを、兄ちゃんは体で受け止めてくれた。
「よくがんばったな、ヒデヨシ」
「兄ちゃん! 無事だったんだね!」
「ああ。帝国のおかげでな」
「……え?」
帝国の“おかげ”?
――おかしい。
兄ちゃんは、帝国に“さらわれた”。
なのに、おかげ?
「……兄ちゃん、帝国のおかげってどういうこと?」
「どういうことって……ドローン兵士から逃げて、あの遺跡に駆け込んだあと、似たような人たちが入ってきただろ?」
「うん。それで兄ちゃんが帝国にさらわれたんだよね」
「……あれは、さらわれたんじゃない」
「え?」
「あれは、追われた俺たちを帝国が助けてくれたんだ」
「え、え?」
「そして、最初に俺たちに襲いかかってきたのは……オーサカ国の兵士だ」
【そんなわけあるかっ!】
話を聞いてたかーくんが叫ぶ。
【ノブシゲ! あんた騙されてるで!】
「黙れ」
「兄ちゃん?」
「この国が戦争状態なのを知りながら、俺たちを連れてきやがって……」
え、なんで?
なんでかーくんがそんなことを?
【ワイかて知らんかったんや! そもそもあんたら連れてきて何の得があんねん!】
「そんなこと、決まってるだろう」
ノブシゲ兄ちゃんは、聞いたこともない恐い声で言った。
「超機神を起動させ、ハンナリィ帝国を滅ぼすためだ」
「ちょう……きしん?」
「ああ。……この世界にはな、ヒデヨシ。お前も乗ってた機神とは別に、誰が作ったか分からない、超機神ってのがあるんだ」
【っ! まさか!】
「わざとらしいな、かがやき。それを動かすために、生命力の強い、若い異世界人が必要だった。そういうことだろ!」
「えっ!」
つまり、世界征服のために、ぼくたちをこの世界に呼んだってこと?
「かーくん……ほんと?」
【……超機神の存在は本当や。誰が作ったかわからんゆーのもな。せやけど、動かすための条件、それはまだ解明されてないはずや】
「知ってることを知らないと言い張るのは簡単だもんな」
【ちゃう! ほんまに知らんかったんや! 大体ワイらは嘘をつけるようには出来てへん!】
「かーくん……」
【ヒデヨシ、ワイを信じてくれ! そもそも、ドローンなんてこの国には存在せえへんのや!】
ぼくは訳が分からなくなってしまった。
ノブシゲ兄ちゃんがぼくを騙すはずないし、でもかーくんが嘘を言ってるとも思えない。
おろおろしていると、さっき落とされたドローンの兵士たちが起き上がってくる。
「ノブシゲ殿、いかがなさいますか」
「少し待て。……いこう、ヒデヨシ。帝国には俺たちの世界の人たちもいる」
「えっ、ほんと!?」
「ああ。そこでゆっくり、これからのことを考えよう。……よし、行くぞ。追って来られないよう、あの機神はこの場で破壊しろ」
「はっ!」
え!?
でもあれにはまだかーくんが!
「かーくん!」
【ヒデヨシ! あかん!】
「撃てっ!!」
兵士たちの銃が、カーニィを一斉に攻撃しはじめた。
ガガガガガガガッ!!
ものすごい音が森に響き渡る。
操縦者のいないカーニィは、動くこともなく、攻撃されっぱなしだ。
「かーくん! かーくん!!」
「ヒデヨシ、あいつは敵のスパイだったんだ」
「でも、でも! かーくんはぼくを助けてくれたんだ!! かーくんっ!!!!」
体中穴だらけになったカーニィから、ちろちろと火が出始めていた。
「いこう、ヒデヨシ」
「でも!」
兄ちゃんは、ぼくを連れて機神に乗り込もうとした。
その時だった。
「待てぃ!」
「……女王、様?」
街の方から女王様が、たくさんの兵士を連れて現れた。
「その少年は我がオーサカ国の客人、異世界の民である! 元の世界に戻るまでは我々が身の安全を保障するものである! 帝国の兵よ、早々に立ち去るがよい!!」
「ふざけるな! 来たばかりの俺たちをいきなり攻撃しておいて! これ以上ヒデヨシを酷い目に合わせるつもりか!」
「我々は攻撃など仕掛けてはおらん! そもそも一方的に攻めてきたのは貴様らだ! 我が領土でこれ以上の狼藉をはたらくのであれば、こちらとて容赦はせぬぞ!!」
「ノブシゲ殿、ここは引かれるのがよいかと」
「くそっ。……せめて、ヒデヨシだけでも!」
「待て、貴殿はヒデヨシと同行してきたという、ノブシゲ殿か!? なぜ帝国の機神に乗っている!」
その時、ぼくはちょっとした疑問が浮かんだ。
女王様が最初から、ぼくたちをさらうつもりだったんなら……。
「……だったらなんで、兄ちゃんを探すのを手伝ってくれるんだろう」
「ヒデヨシ?」
「本当にぼくたちの力が欲しかったんなら、どこかに閉じ込めておけばよかったのに」
「え……」
「ノブシゲ殿!」
「あ、ああ……」
兄ちゃんがうろたえた隙に、ぼくは兄ちゃんから離れた。
この兄ちゃんはなんかおかしい。
うまく言えないけど、らしくない。
「兄ちゃん」
「ヒデヨシ!」
「ぼく、ここに残るよ。兄ちゃんもこっちに来てよ!」
「何を言ってる!」
「ノブシゲ殿!」
「……くっ!」
兵士たちに呼ばれて、兄ちゃんは機神に乗り、森の中へと消えていった。
ぼくたちはそれを、ただ黙って見ていた。
「……かの者が、ノブシゲ殿ですか」
「女王様……」
そう言って女王様の方を向いた時、ぼくの目のはじっこに見えたものは。
「そうだ、かーくん!」
そこには、もうなんか鉄の塊みたいになったカーニィが、あちこちから黒い煙や火を出していた。
「かーくんっっ!!!!」