第5話「オーサカ観嬢仙、ドゥーン=トンボリ」
魔法生物研究所は、街の外れにあった。建物の向こうは森が続いている。
なんかぼくたちの世界の公民館みたいな、ふつーの建物だ。
こんなとこにいる人が、仙人様なんて呼ばれてるの?
「ナントカやま魔法生物研究所……?」
【天蓬山、な】
「この世界の文字が読めるの? ヒデヨシ」
「うん、かーくんのおかげかな?」
【せやで。ゴトゥゴーシュギィゆー魔法や。まぁ気にせんでええわ】
「じゃ、中に入るよー。入ったら受付があるから、そこで呼び出しできるの」
ほんとに公民館みたいだなー。
そんなことを思いながら、ぼくたちは研究所の中に入っていった。
――――
「ワシが所長のオーサカ観嬢仙、ドゥーン=トンボリじゃ」
白衣を着たおばあさんが、ぼくたちの前に現れた。この人が仙人様なんだ。
小さくて腰が曲がってるけど、すごく目がキレイな人だなあ。
「あっ、は、初めまして! ぼく、大阪ヒデヨシっていいます!」
「うむ、話は女王から聞いておるよ。そこの魔法生物の本体じゃろ」
【ワイの本体はここにあるんか……】
かーくんが驚いたようにつぶやいた。
え、知らなかったの?
「そうか、お前さんは分離してから目覚めたんじゃったな。きちんと保管してあるから安心せい。さ、案内しよう」
仙人様はそういって前を歩く。ぼくたちはその後につづいた。
「いい人だね、仙人様」
ぼくのすぐ横で、ハルカスが小さい声で話しかけてきた。
小さくうなずくと、ハルカスはてててっと走って仙人様の横に行き、何か話してニコニコと笑っている。
――仲良いなあ。なんか、この国が攻撃されてるなんてウソみたいだ。
「さ、ついた。この部屋の中じゃ」
【なんや、もっと大げさなとこかと思ったわ】
かーくんの言うとおり、その部屋はごく普通の、倉庫みたいな部屋だった。
「まあ、魔法生物の身体を置いてあるだけじゃからの。肝心の中身はほれ、そのちいさい目玉じゃから」
「へぇ……」
ぼくたちは部屋の中に入った。そこはひんやりしていて、ビッシリと棚が並んでいる。
そこには、色とりどりのかーくんみたいな物体が並んでいた。
「……これ、どれが誰の身体とか、一目で分かるものなんですか?」
「ん? いや? どれ持ってってもかまわんよ?」
「は?」
【どういうことや?】
「だから、どれを持っていってもかまわんよと言うておろう。魔法生物の身体なぞ、ただのエネルギータンクみたいなもんじゃ。大事なのは頭で、他はみんな一緒なんじゃよ」
え、そういうものなの?
「ついでに言えば、今この国にいる魔法生物はお前さんだけじゃ」
【……ナンヤテ?】
「え、他の魔法生物は?」
「お前さんとおなじじゃ。向こうの世界で案内役として世話になっておるわい」
【……そうやった】
あ、そうか。ぼくの世界からこっちには、今は来られないんだ。
「かーくんは赤いよね。ねー仙人様、色んな色があるけど、ほんとにどれでもいいの?」
「そうじゃなぁ。まあ、同じ色の体を選んでおくのがいいかもしれんな」
「なんで?」
「ケバいじゃろ」
【ケバいて……】
結局ぼくたちは、かーくんと同じ色の体を探すことにした。
探してるうちに、ちょっと気になることがあったから、仙人様に聞いてみることにした。
「仙人様、かーくんたちの体って、手足はないの?」
すると仙人様は、いい質問じゃな、といってぼくの頭をなでてくれた。
「魔法生物は、元々ドーナツのような形をしとるんじゃ。目は全部で5つ。ここにある体を集めて合体させると、本来の“いのちの輝き”という完全な体になるんじゃ」
「いのちのかがやき……」
【お、ヒデヨシ、あの棚の奥にいってんか】
「あ、うん」
ぼくはかーくんに言われた方に歩いていった。
【あった、これやな。この色や】
「ほんとだ、これならぴったりだね」
「じゃ、仙人様、この体もらっていくね!」
「やれやれ、一大事じゃからの。もってゆけ」
「ありがとうございます!」
【よっしゃ、これで全力が出せるでぇ……ん? なんか聞こえんか?】
かーくんの声に耳を澄ませてみる。
すると、バタバタという音が聞こえてきた。
これ、聞いたことある音だ。
「かーくんこれ、もしかして」
【……合体、急ぐで】
かーくんがいつもより低い声で言った。
【帝国が来よった】