第2話「機神カーニィ=ドンラック」
急に兄ちゃんが叫んで、ぼくを抱えて転がった。
「いってえっ、何すんだよ兄ちゃん!」
「いいから! あれ見ろ!」
兄ちゃんに言われた方を見ると、そこにはドローンみたいなのが3台、上に人を乗せて浮いていた。
【……なんで帝国の兵士がいるんや!?】
「かーくん! どゆこと!?」
【わからん……まさか!】
「どうすればいい、かがやきくん!」
【こっちや! いそいで!!】
ぼくたちはかーくんに言われるままに走った。ドローンに乗ったやつらは、何も言わずに追いかけてくる。
どういうこと?
安全だって聞いてたんだけど!?
ぐにゃぐにゃと森の中を走り、しばらくすると、ドローンの音が聞こえなくなっていた。
「振り切った、かな」
【せやな。茂みの中を走ったから、上からも見つからんやろ】
「はぁ、はぁ……。かーくんこれ、どういうこと!? 安全じゃなかったの!?」
【すまんなぁ、こんなのワイも初めてなんや……】
「帝国ってのはなんだい?」
そうだ。さっきかーくんが言ってた。
【ハンナリィ帝国ゆーてな。もう何百年も前、このオーサカ国と戦争してた国や。でも、もうとっくに友好国になってるんやけど……】
「それがなんで……」
【わからん。なんにせよ、二人には申し訳ないわ】
「……ねえ、ここどこ? 建物みたいなのがあるけど」
ぼくたちが立ち止まったところは、石で出来た大きな建物の前だった。
【さっき言った戦争の時の基地やな。帝国が中まで攻めてきた時のために、武器やらなんやらを置いてる所や。……待てよ、もしかして】
「どうした? かがやきくん」
【ノブシゲ、ヒデヨシ、ちょっとついてきて】
そう言ってかーくんは基地の中に入っていってしまった。ぼくと兄ちゃんもあわてて後を追いかける。
【……あった】
「ここなに? ……お、おおお?」
「……カニ?」
中は広い空間になっていて、その真ん中には一体の、赤くて大きな像が立っていた。
高さは、大型のトラックくらい。
二本足でごっつい人間みたいだけど、ノブシゲ兄ちゃんが言うように、カニの脚みたいなのが背中から生えてる。
なんだろこれ。鉄で出来てるのかな?
【戦争で用意してた武器や。昔の人は、これに乗って戦ったんや。これは“カーニィ=ドンラック”ってタイプやな】
「これ、ロボットなの!?」
「すごいな……。お、運転席のドアが開くぞ」
【コクピットのハッチってゆーて……! 来た!】
かーくんがあわてて叫んだ。次の瞬間、さっきのドローンに乗った人たちが基地の中に入ってきた。
「こちらの世界へようこそ。早速だが小さい方、君は我がハンナリィ帝国へご招待させてもらう」
「え!?」
ぼく? ぼくだけ!?
「どういうことだ! 俺たちはこの世界に初めて来たんだぞ!!」
「貴様には用はない。どこへなりと好きに行け」
【ヒデヨシ、カーニィに乗るんや! 早く!】
「えっ! で、でも……」
「ヒデヨシ、乗れ! 俺は大丈夫だ!」
「兄ちゃん……」
「そうはさせん」
軍曹って呼ばれたやつが、すごいスピードでこっちに飛んできた。
「やらせるかっ!!」
兄ちゃんがぼくとあいつの間に立って、とおせんぼをする。
きっと、怖いはずなのに。
ぼくを守ろうとしてくれてる。
【いそげ! もしかしたらいけるかもしれん!】
「……? わ、わかった!」
何が“いける”のか分からなかったけど、ぼくはかーくんに言われた通り、カーニィの中に入った。
【伝達回路は……生きてる! いける、いけるで!】
「えっ、なになに、どういうこと!?」
【このカーニィであいつらを蹴散らすんや!】
え!?
だって、もう動かないんでしょ!?
【動力さえあれば動く! そして、こいつの動力は……ワイや!】
「はああ!?」
ぼくが驚くのも気にせず、かーくんはどこかに消えてしまった。
「かーくん!? どこにいるの!?」
【説明はあとでする! ヒデヨシをパイロット登録!】
プシュ、と音がして、ハッチが閉まる。
同時にピ、と小さな音が鳴ると、真っ暗なコクピットのあちこちに光がともった。
【エンシン=エンジン起動! ぉぉぉおお目が回るぅぅぅぅぅぅ!】
「えっ、どうしたの、大丈夫!?」
【大丈夫や! カーニィを動かすために、ワイがぐるぐる回っとるだけや!】
「どゆこと!?」
【気にすんな! いくでぇ、カーニィ=ドンラック551番機、起動ぉぅっ!!】
「うわっ!」
ゴウン、と低い音がして、カーニィが大きく揺れた。
ぼくは席で半分ひっくり返ってしまった。
がんばって座り直して前を見ると、大きなモニタに外の様子が映っている。
そこには。
「ノブシゲ兄ちゃんっ!!」
兄ちゃんの周りにさっきの帝国兵たちが集まっている。
「兄ちゃんから離れろっ!!」
ぼくがそう叫んだ時だった。
カーニィが突然、あいつらのいる方に歩き出した!
あいつらはびっくりしたようにこっちを見て固まってる!
「動いてるぅ!?」
【パイロット登録したからや! ヒデヨシの思ったように動くで!】
マジで!?
……けど、少しだけタイミングが遅かったみたいだ。
「あの機神、動くのか!」
「ちっ、引くぞ! そいつは連れていけ!」
「あっ、待てっ!」
帝国兵は、兄ちゃんを連れて行ってしまった。
「助けなきゃ!」
【ヒデヨシ、待つんや! すぐにいっても返り討ちにあうだけや!】
「でも!」
【大丈夫や。あいつら、殺す気ならとっくにやっとる】
「兄ちゃん……」
【ヒデヨシ。こうなったのはこっちの世界の責任や。かんにんな】
「……」
【ノブシゲを取り返す手はある。このまま、本来出るはずだった場所までいこ】
兄ちゃん。
よくからかわれたりしたけど、ちっちゃい時からよく遊んでくれた。
近所の大きな犬が吠えてきても、いじめっ子たちからいじられてても、いっつも兄ちゃんが助けてくれた。
だから、今度は。
今度はぼくが助けるよ。
待ってて。