最終話「夏休みはオーサカ異世界で冒険を」
【ヒデヨシ!】
「大丈夫、なんか知らないけど動かせる!」
【よっしゃ。基本はカーニィと変わらんからな、デカイから動きは少しゆっくりやけど、その分パワーはゴツいで!】
「わかった!」
ぼくはあたりを見回した。
すると、ぼくたちを追いかけてきた帝国兵が、ハルカスたちに近づいているのが見えた。
「ハルカス! 仙人様!」
――ハルカスを守らなきゃ!
そう思ったと同時だった。
ぼくは塔の超機神が倒れ込んだのかと思った。
視界が一気に地面に近づいていく。
ドォン!!
右からすごい音がする。
それがなんの音なのかは、見なくても分かってた。
超機神が、ハルカスたちと帝国兵の間に入って、右の手のひらで地面をチョップしたんだ。
「うあっ!!」
「どうだっ!」
【ええぞヒデヨシ!】
ちょっと得意げに、顔を上げたその時。
ぼくの目の前に、城の超機神が迫ってきていた。
――――
それからの話は、まるでアニメのストーリーみたいだった。
城の超機神に乗ったノブシゲ兄ちゃんが、実はぼくを助けるために騙されたフリをしていて、仲間になってくれたり。
ハンナリィ帝国の王様は、実はぼくらとは別の異世界から来た悪いやつら、ナニワー軍に操られていたり。
ナニワー軍は、この世界を手に入れたら、次はぼくらの世界を狙っていたり。
そのためにぼくらが元の世界に戻れないようにしたりしていた。
そんな戦いの中、ぼくたちだけじゃ対抗出来ない! って思った時。
洗脳が解けたハンナリィ帝国の王様が、助けに来てくれたんだ。
王様がくれた新装備、超絶盾シンノウサカ=シールドと、超聖剣ツー=テンカクを使って戦うぼくと兄ちゃん。
そして最後の相手、ナニワー=キュイドゥラック将軍がとうとう姿を現した。
――――
「ふん、よくここまで辿り着いたものよ」
「ナニワー将軍! あとはお前だけだっ!!」
「よくも俺たちをだましてくれたな……! 礼は百倍にして返してやるぜ!!」
「くくく……」
「何がおかしい!」
「ガキ共が、そんなチャチな人形で少々暴れたくらいでいい気になってもらっては困る」
夜の闇の中、そう言った将軍の後ろの空に、色とりどりの光が浮かび上がった。
「……星?」
「違う、あれは……っ!!」
「超弩級次元戦艦ツボエイト。こいつで貴様らを塵と化す」
そう言い残して将軍が消えた。
ぼくたちが今まで見ていた夜空は、ツボエイトの影だったんだ。
「やばい! ヒデヨシ、機神に乗れっ」
「うん!」
急いでそれぞれの機神に乗ったけど、ツボエイトは超機神に乗ったぼくらから見ても、てっぺんが見えないくらい大きかった。
「こいつは……」
「兄ちゃん、勝てるのかな、ぼくたち」
「……どうすればいいんだ」
もうあきらめかけていた時だった。
【なにを弱腰になってんねん! 二人とも!!】
「かーくん……」
【勝てるかな、やない! 勝つんや! 誰かのために勝たなあかんでも、できれば勝ちたいでもない! 自分のために、自分の世界を守るために勝つんやっ!!】
「かがやきくん……」
【ワイは勝つで!! 勝ってこの世界を守るんや!!!!】
その時、ぼくの頭に何かが浮かんだ。
「かーくん……うん!! 勝つ!!!! ぼくの世界たちを守るんだ!!」
「ヒデヨシ……!」
「兄ちゃん! かーくん!!」
「おう!」
【なんや思いついたんか、ヒデヨシ!】
「うんっ!!」
なんでこんなことを考えついたんだろう。
理由なんて分からない。出来るかどうかも知らない。
……けど、やる。
ぼくは、ありったけの声を振り絞って叫んだ。
「合体!! 超絶機神、ヴァン=パック!!!!」
――――
あれからどれくらいの時間が経ったんだろう。
今、ぼくたちの目の前には、とんでもなく大きな鉄の塊が、あちこちから火を吹きながら転がっている。
合体したぼくらは、それでもあの戦艦より小さかった。
だけど、兄ちゃんの超絶盾シンノウサカ=シールドを装備したヴァン=パックは、戦艦からの数百発のミサイル攻撃も、数千機の無人戦闘機の攻撃も、全て耐えてみせた。
攻撃の隙をついて飛び上がり、ぼくの超聖剣ツー=テンカクを、戦艦のてっぺんから叩き込んで、そのまま下まで突き抜け、あのバカでっかい戦艦をぶっこわすことが出来た。
「終わった……」
「倒せた、の?」
【あー……しんど……】
ぼくたちは三人とも、完全に力が抜けちゃって、今はお迎えを待ってるところだ。
【ありがとうな、二人とも】
「いいってことよ」
「うん、ぼくにとっても、この世界は自分の世界みたいなものだからね!」
【ヒデヨシ……】
「おーい! ヒデヨシー!」
ハルカスの声が聞こえる。
見ると、仙人様や女王様、ハンナリィのみんなも集まってきていた。
「迎えがきたな。……帰ろうか」
【せやな】
「うん、帰ろう!」
こうして、ぼくの長い長い夏休みは終わった。
元の世界に戻ったぼくは、お父さんとお母さんにちょっとだけ叱られて、そしていっぱい褒められた。
それから数ヶ月。
来月、ぼくは六年生になる。
兄ちゃんは大学をりゅーねん? したらしい。
――そんな春休みの朝早く。
周りがうるさくて目を覚ましたら、そこには。
「ヒデヨシ! 助けて!!」
「……ハルカス?」
【話は後や! はよ起きてくれ!】
「かーくん!?」
「ノブシゲは!?」
「え、おとなりの家だけどっていうかまだ寝てると思うけど……」
【よっしゃ、叩き起こすで! 一大事や!!】
「え、えっ?」
【えーから! はよ!!】
「う、うん……」
なんかよくわかんないまま、ぼくは布団から出た。
そんなぼくをツンツンとつついたのは、ハルカスだ。
「ヒデヨシっ」
「ん?」
「また、会えたねっ!」
その時のハルカスは、すごく可愛くみえたんだ。
だから、これから巻き込まれる事件のことも、また新しい冒険のことも、その時のぼくはすっかり頭になかった。
〈夏休みはオーサカ異世界で冒険を・完〉





