第1話「ようこそ異世界へ」
「日帰り異世界旅行ぉ〜!?」
「そうなの。今日ね、お買い物の帰りに、商店街の福引きを引いたら当たっちゃったのよー」
ぼく、大阪ヒデヨシ。小学五年生。
夏休みも今週で終わり、あーやっべえ、宿題終わってないいいい! って頭をかかえながら夕飯を食べてたら、母さんがとんでもないことを言い出した。
ぼくの横では、父ちゃんがチケットをながめてる。
「へぇ、もう商店街の景品になる世の中なんだなぁ。お二人様かぎりか……あれ、これ今度の土曜日じゃないか」
「あら、ほんとに? ……困ったわねぇ、その日は父さんも母さんも、昼間は出かけちゃってるのよね」
「ぼく行きたい! ね、いいでしょ!?」
「って言っても、さすがに子ども一人で行かせるわけにも……」
「おとなりのノブシゲ君に相談してみるか。確か9月いっぱいは大学が休みで、こっちに戻ってきてるはずだ」
そう言って父さんがスマホを出し、ノブシゲ兄ちゃんに電話を入れるのを、ぼくはどきどきしながらじっと見つめていた。
だって、異世界だぜ?
そんなの、まだまだ高くて行けないねーって、こないだも話してたところだったんだ。
たのむ、ノブシゲ兄ちゃん!
もう「大学生は夏休み長くてずるい」なんて言わないから!
「うん、うん。……じゃあ申し訳ないけど、よろしくね。はい、じゃあお休みなさい。……ヒデヨシ、ノブシゲ君が一緒に行ってくれるってさ」
「ほんと!? やったー!!」
「あら、予定とかあったんじゃないのかしら」
「いや、丁度空いてたらしい。異世界は初めてなので楽しみですって言ってたぞ」
「異世界ってどんなところかなあ! 父さんたちは行ったことあるの?」
「父さんは会社の旅行で行ったぞ。ちゃんと言葉もわかるようになってるし、危なくもない。ちょっとした冒険気分も味わえる。いつか連れて行ってやろうと思ってたところだ」
「よかったわねぇ。じゃあ、それまでに宿題、終わらせないとね?」
うっ。痛いところついてくるなあ、母さん。
でも、そんなごほうびがあるなら、全力で気合い入れてやるしかない!
ぼくはいてもたってもいられずに、残ったご飯を一気に口の中に入れて立ち上がった。
「ごちそうさま! ぼく宿題やってくる!!」
夏休みの最後に、すごいことが起こった!
楽しみだなぁ!!
――――
「おー……ここが異世界かぁ」
「なんかあんまり変わんないねー。裏山の森みたい」
土曜日。
ぼくとノブシゲ兄ちゃんは、異世界の入り口をくぐり、異世界に来ていた。
日帰りだし、ぼくも兄ちゃんも、荷物は肩かけバッグだけ。
ぼくの肩には、元の世界で渡された、案内役のフシギ生物“かがやきくん”が乗っかっている。
赤くて丸い、ぷよぷよした体に、大きな目が一つ。
ゲームに出てくる最初のモンスターみたいだけど、こいつがすごい役に立つらしい。
近くにいるだけで、異世界の言葉も分かるし、道案内もしてくれる。
ぼく達はすぐに仲良くなって、かーくんってあだ名をつけた。
【あれ?】
「どうしたの、かーくん」
【ここ、予定の場所とちゃうねん】
「え、どういうこと?」
「ゲートの設定と違うところに出たってことか?」
【せやねん。でも、そんなに離れてないから大丈夫やで。とりあえず移動しよか】
ぼくと兄ちゃんは顔を見合わせて首をかしげた。
「大丈夫、かな」
「うーん、まぁかがやきくんが大丈夫っていうなら、とりあえず行ってみようか。どっちにしても今一番たよれるのはかーくんだからね」
「そだね。よろしくね、かーくん」
【おまかせやで】
「それにしても、空気がうまいな」
「気持ちいいねー、涼しいし」
【このあたりは一年中こんな感じやな】
いいじゃん、異世界!
ぼくたちは鼻歌なんかうたいながら、山道を歩き出した。
ふいに、森の木がざわざわと音を立てる。
「あれ? なにこの音?」
「木の上の方で風でも吹いてるんじゃないかな?」
【なんやろねー】
音はどんどん大きくなってくる。バタバタバタ、みたいな音も聞こえてきた。
……なんかヘリコプターみたいな音だな?
「ヒデヨシ!」
「えっ!?」