50.勇者②
聖剣に選ばれた勇者アーサーとの自己紹介をかわして、マーリンは他のパーティメンバーと顔合わせをした。
メンバーはマーリンとライナ、アーサーの他に二人。そのうち一人は戦闘員ではなく、馬車の御者や料理、荷物の管理などの雑事を行う非戦闘員である。
「はあ……よろしくお願いしやす」
そういってオドオドとした様子で頭を下げてきたのは、兵士の鎧を身に着けた壮年の男性である。
ジェイドというらしいその男は、アーサーと同じ要塞に詰めていた兵士であった。その男が選ばれたことに特に理由はないのだが、たまたまアーサーと顔見知りであったために選抜されてしまったのだ。
ちょうどその男もまた妻が病にかかってしまったためにまとまった金が必要となり、しぶしぶながら勇者パーティへの参加を受け入れることになった。
「自分はその……兵士をしていたのですが、決して勇者とかそういうのではなくて……あのお、皆さんの足を引っ張ってしまうかもしれませんが……」
「構いませんよ。どうせ雑用をしてくれる方が必要でしたから。貴方には戦力として期待はしていません」
「……はあ」
ライナが笑顔できっぱりと断言する。
年下の少女に「戦闘では役立たず」と朗らかに言われて、ジェイドはしょんぼりと肩を落とした。
ライナとしては気を遣って口にした言葉のようだが、男としての大切な尊厳を傷つけられたようである。
「まあ、ジェイドさんは別に構わないのですが……なぜあの男がいるのですか?」
「あの男?」
マーリンがライナの耳元に唇を寄せて、ヒソヒソと尋ねる。
二人の視線の先には、勇者パーティの最後のメンバーが立っている。
「…………」
男は壁を背にして無言で立っている。両の瞳は閉じられており、唇は真一文字に引き締められていた。
ジェイドと違って戦闘員として参加しているその男は剣闘士……すなわち、『戦奴隷』という身分の男であった。
がっしりとした体つきに大鎧を身に着けた姿は歴戦の戦士といった風体であったが、問題はその顔である。
その顔はマーリンがよく知る人物のものであった。
目元をきつくして問いかけるマーリンに、ライナが意を得たとばかりに頷いた。
「ああ……ガイウスさんですか」
そう、壁を背にして立っている剣闘士の男の名前はガイウス・クライア。
かつてレイフェルトの命によりマリアンヌ・カーティスの殺害を目論んだ騎士隊長である。
どうして自分と因縁のある人物をメンバーにしたのかと眉を吊り上げるマーリンであったが、ライナはいたずらっぽく笑う。
「もちろん、マーリン様のためですよ? ガイウスさんはマリアンヌ・カーティス嬢を殺害しようとした罪により処刑されるはずだったんですけど、彼の剣の腕を惜しく思って剣闘士として譲り受けたんですよ」
「どうしてそれが私のためになるのですか?」
「だって、この旅の中で一緒に生活して戦ったりするんですよ? 彼は奴隷身分に落とされてますから私達の命令に逆らえません。嫌がらせし放題じゃないですか」
「嫌がらせって……」
「いじめるのも自由ですし、戦いで盾にしても構いませんよ? どうせ殺されるはずの方でしたから使い潰しても構いません。煮るなり焼くなり、マーリン様のお好きなように」
「……貴女は本当に聖職者なのですか。すごく疑わしくなってきました」
マーリンは口元をひきつらせて呆れた顔をした。
よもや、こんな形で復讐の機会が巡って来ようとは思わなかった。
マーリンは壁際に立っているガイウスを見て、困り果てて溜息をついた。
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