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43.聖地④

「ところで、マーリン様。貴女はいったいいつまで魔族への復讐を続けるおつもりですか?」


 2杯目の紅茶を飲み、落ち着いた頃合いを見計らってライナが切り出した。


「それはどういう意味ですか?」


「そのままの意味ですよ。貴女の復讐の終わり、終着点はどこにあるのかと気になりまして」


 ライナの疑問を受けて、マーリンは少しだけ考える。

 侯爵令嬢であり王太子の婚約者であった自分を追放したのは、レイフェルトとメアリーである。

 メアリーは内側に巣くった魔族もろとも雷に撃ち抜かれて滅ぼされているし、レイフェルトも風の噂で王太子の地位を廃嫡されたと聞いている。

 マーリンがやっていることは復讐というよりも八つ当たりに近かった。抑えられない憎しみ、飲み干せない激情を誰かにぶつけたくて、手近な魔族に当たっているだけなのかもしれない。


「あまり考えたことはありませんね。とりあえず、私の気の済むまででしょうか?」


「不毛だといったらお怒りになるでしょうね」


「怒りませんよ。私だってそう思っていますから」


 こんな復讐の果てに花実が咲くとは思えない。

 きっと自分は何を得ることもなく、満たされることもなく、ただ復讐の途上で斃れることになるのだろう。マーリンは漠然とそう考えていた。

 そんなマーリンの心情を敏感に読み取ったのか、ライナは少しだけ痛ましげな表情をする。


「これから私が言うことは一つの提案なのですが、良ければ聞いていただけないでしょうか?」


「もったいぶった言い方ですね。聞くぐらいなら構いませんけど」


 ライナは神妙な面持ちで頷いて、一枚の羊皮紙を取り出してテーブルの上に広げた。

 それは大陸北方の地図だった。地図には朱色のインクでラインが引かれていて、聖地ユートピアを出発点として蛇行しながら上方に向かっていく矢印が描かれている。


「これは……」


「近々行われる予定の小規模な遠征の経路です。最終目的は……魔王の討伐」


 マーリンは目を見開いて、食い入るように地図に見入る。よくよく見てみれば、赤いラインは魔族の占領下に置かれたいくつかの町を通って魔族領へと至っている。


「このまま魔族と戦い続けていても、疲弊が大きくなるばかりです。乾坤一擲の一手として、少人数での魔王領突破を計画しています」


「少人数といいますと、具体的にどれくらいの人数を予定しているのですか?」


「多くて5人。荷物持ちを含みます」


「無謀ですね、自殺しに行くようなものです」


 マーリンはストレートな感想を述べて断言した。

 魔族は万を超える軍勢を有しているのだ。たった5人でそこに飛び込むなど、アリの群れに砂糖菓子を放り込むようなものである。すぐにバラバラにされて美味しく頂かれるのがオチだろう。


「ところがそうでもないんですよ。私達には神秘の力がありますから」


 ライナは顎をしゃくって、背後に立っている契約天使を一瞥した。


いつも応援ありがとうございます!

もう一つの連載作品『賢者から怪盗に転職しました』もよろしくお願いします!

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