39.ギルド③
大司祭ライナ・ライト。
その人物はたしかレイフェルトとメアリーの結婚式の進行をしていた人物で、メアリーの正体を暴いた人物である。
マーリンにとっては妹の悪事を暴いて自分の名誉を取り戻してくれた恩人であり、美味しい所を持っていってしまった仇でもある相手であった。
「王族ではありませんけど、この方も権力者ですね。断っておきましょうか?」
「……いえ、その依頼は受けさせてもらいます」
少しだけ考えて、マーリンは決断をする。
「彼女とは少し縁があるようですし、一度会っておきたいと思っていたんですよ」
「それじゃあ、先方へはこちらから連絡しておきますね? こちらが招待状になりますから、持って行ってください」
「はい、ありがとうございます」
マーリンは受付嬢が差し出した書状を懐に入れて、傭兵ギルドを後にした。
ギルドから出るときにしきりに傭兵達が酒や食事に誘ってきたが、それらの誘いも全て丁寧に断る。
最初は仮面をかけた怪しげな風体のマーリンを避けていた町の人々も、この数ヵ月で見違えるように態度が軟化している。
それだけ彼らは北の魔族を脅威に感じており、彼らを撃退しているマーリンに感謝しているのだろう。
『よかったのか、マリアンヌ。相手は司祭だぞ?』
ギルドから出たところで、姿を消しているフュルフールが声をかけてきた。
「いいんですよ。彼女には言っておきたいことも、言わなければいけないこともありますから」
それは復讐の舞台を台無しにされたことへの恨み言なのか。それとも自分の名誉を取り戻してくれたことに対する礼の言葉なのか。
「それよりも、フュルのほうこそ聖地に行っても大丈夫なのですか? 悪魔なのですよね」
『問題ない。天使も悪魔も人間が勝手につけた括りだ。本来であれば同じ存在だからな』
「…………」
聖職者が聞けば卒倒しかねないセリフを吐く契約悪魔に、マーリンは困ったように溜息をついた。
「大丈夫だというのなら、別にいいですね。それじゃあ、行きましょうか。聖地ユートピアへ」
マーリンは町のを囲う城壁をくぐって外へと出た。あえて街道から外れて人気のない林に入り、そこで魔法を発動させる。
マーリンの細い身体が風にあおられた羽毛のように浮き上がり、空へと舞い上がる。
向かう先は聖地ユートピア。
人類救済を使命とする聖人たちの本拠地である。
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