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36.治癒④

(この子は………何ですか?)


 少年に詰め寄られて、マーリンは動揺を隠せなかった。

 現在、マーリンは彼女を崇める城の兵士から逃れるために魔術で姿を隠している。にもかかわらず、目の前の少年ははっきりと自分の姿を認識していた。


「貴女のおかげで、俺は命を救われました! さっきの雷、本当にキレイで強くて、まるで女神様みたいでした!」


「え、ええと、ありがとう?」


「はい! こちらこそありがとうございます!」


 キラキラと瞳を輝かせて少年はマーリンとの距離を詰めてくる。

 少年の背丈はマーリンよりも頭一つは低い。このままでは勢い余ってマーリンの胸に顔を埋めてしまいそうなのだが、それすら少年は気に留めていないようである。


(うーん………子供だから良いのかしら?)


 もしも同じことを大の男にされたのであればきつい一撃をお見舞いしてやるところなのだが、相手は子供である。

 万が一の事故があっても仕方がないかと、マーリンは脳内で結論付ける。


「彼女に気安く近寄るな」


「ふぎゃっ!?」


「フュル!?」


 しかし、マーリンの契約悪魔はそうはいかなかったらしい。

 少年の頭に小さな雷が落ちて、べちゃりと城壁の上に倒れてしまう。


「相手は子供ですよ! あまり乱暴なことは………」


「いえ、大丈夫です!」


「ひゃっ!?」


 雷で撃沈されたはずの少年が何事もなかったかのように起き上がる。


「だ、大丈夫なのですか? 頭が焦げてますけど………」


「これくらい、なんてことはありません。昔からケガが治るのは早いんです!」


「そうなんですか………それは、まあ、よかったのでしょうか?」


「はい!」


 困惑するマーリンに笑顔の少年。そして、少年を憤怒の目線で睨みつける悪魔。

 ただでさえカオスな状況であったが、そこに少年がさらに爆弾を落とす。


「女神様、あなたに一目惚れしました! 俺と結婚してください!」


「はあ?」


「このっ………!」


「ちょ、フュル!? さすがにそれは………!」


「わああああああああ!?」


 城塞の上に立て続けに雷が落ちる。

 上級悪魔の怒りに触れた少年が、城壁の崩落に巻き込まれて真っ逆さまに落ちていく。


「ちょ、大丈夫なんですかアレは!?」


「平気だろう。予想以上に丈夫そうだ」


 吐き捨てるように言って、フュルフールが雪に頭から突き刺さった少年を見下ろす。

 下半身しか見えていないよう年の足はバタバタと空を掻いており、思いのほかに元気そうである。


「子供の言うことにそんなに本気にならなくても………」


「子供でも男は男だ!」


 マーリンの言葉に珍しく声を荒げて、フュルフールはさらに追撃の雷を少年の足に落とした。


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