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35.治癒③

 やがて治療を終えて、マーリンは城塞の上へと移動した。

 あれから命を救われた兵士達が口々に賞賛の言葉を口にして、マーリンへと群がってきた。中には忠誠を誓うように靴に口づけをしようとする者までいたため、逃げ出してきたのである。


「ああいうのは困りますね………私はたんに、自分の復讐をしに来ただけだというのに」


 城塞の上に腰かけ、マーリンは困ったようにつぶやいた。

 兵士達はまるで自分を救世主か、天使のように扱っていたようだが、マーリンにとってこの要塞での一連の行動は全て、自分の人生を滅茶苦茶にした魔族への復讐が目的であった。

『雷』の魔法で魔族を討滅したのはもちろんのこと。

 兵士の治療をした事でさえ、魔族を少しでも不利にして自分の目的を達成する一助にするためである。


 それをあんなふうに手放しで感謝されると、困惑を通り越して罪悪感すら感じてしまう。


『良いじゃないか、マリアンヌ。お前がどんな目的であっても彼らが救われたのは事実なのだ』


「それはそうかもしれませんが………」


 フュルフールが慰めの言葉をかけてくるが、やはり根が真面目な少女は納得ができなかった。


 自分は聖女でも救世主でもない。

 ただの魔女であり、復讐者なのだ。

 人から感謝されたり、ましてや崇められたりするなんて許されるべきではない。


「私が歩むべき道はイバラの道。そうであるべきなのです」


『あえて自分を不幸な場所へと追いやるのは感心しないが………いや、まあいい』


 フュルフールは姿を消したまま、マーリンの背中を包み込むように抱きしめた。


『君の行く道がどんな道であったとしても、私だけは変わることなく君を守ろう。私は君の契約悪魔で、恋人なのだから』


「フュル………」


 胸に回された悪魔の手を優しく撫でて、マーリンは瞳を閉じた。

 城塞の上、寄り添うようにして立っている二人の元へと天から雪が降り注ぐ。


 白いドレスを着た魔女と、秀麗な顔の悪魔。

 二人の姿は、まるで一枚の宗教画のように幻想的であった。


「あ、こんな所にいらっしゃったのですね!」


 しかし、どんな場所にも無粋な輩。空気を読めない者はいるものである。

 寄り添って立つ二人へと、空気をぶち壊しにするような大声がかけられた。


「え?」


『むう………!』


 二人が声の方向へと視線を向ける。そこに立っていたのは、女性であるマーリンよりも小柄な人物であった。


「探しましたよ! 俺の、いえ、俺達の女神様!」


「め、女神? あなたは………」


 城塞の上に上ってきてマーリンの下へと駆けてきたのは、さきほど要塞の外で獅子奮迅の戦いを見せた少年志願兵であった。

 キラキラと無邪気に輝く少年の瞳に気圧されて、マーリンは口元を引きつらせながらたじろいだのであった。


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