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34.治癒②

「エリアヒール」


 マーリンが手をかざして『癒し』の魔法を発動させる。

 訓練場を温かな光が満たして、ケガをした兵士達を包み込んでいく。


「なっ………!?」


「こ、これは………!」


 倒れていた兵士達のケガが見る見るうちに直っていく。

 まるで時間を逆回しにしたような光景に、兵士から驚きの声が上がる。


 その魔法はかつて聖女であった頃でさえ使うことが出来なかった、特級の治癒魔法であった。

 皮肉なことであるが、悪魔と契約をして魔女となったことで魔力が増大して、初めて使うことができるようになったのである。


「癒しの魔法………まさか、貴女は聖女様!?」


「違います」


 こちらを向いて感動したように言ってくる軍医へ、マーリンは微笑みを浮かべたままきっぱりと答えた。

 魔女になった自分をどのような蔑称で呼ばれても文句を言うつもりはないが、『聖女』という肩書きだけは決して許せなかった。

 それはマーリンにとって最も許しがたい過去を彷彿とさせる称号なのだから。


「へ、あ………申し訳ない」


 笑顔で睨みつけられた軍医は顔をひきつらせて一歩、二歩と後退して、訳も分からず謝罪の言葉を口にする。

 そんな軍医を放っておいて、マーリンは今度はケガ人一人一人を順番に診ていく。


「こちらは………良さそうですね。貴方は刺さった剣を抜いて、出血しないうちに傷をふさいで………はい、これで大丈夫です」


 最初のエリアヒールによっておおよそのケガは治っている。

 しかし、複雑なケガを負った者は単純に傷をふさぐだけでは治すことはできないため、一人ひとり診察をしながら治療していく。

 その手際の良さもまた聖女であった頃に培ったものである。

 たとえ聖女という称号を捨てたとしても、マーリンは確実に聖女としての力と素養を持ち続けているのであった。


「ああ………天使様………!」


「ありがとうございます、ありがとうございます!」


「なんて美しい………まるで、聖女だ!」


「だから聖女ではないと言っているでしょう? はあっ………」


 マーリンのことを得体のしれない相手、あるいは千の魔族を蹴散らした怪物として見ていた要塞の兵士達であったが、治療を重ねるごとにマーリンを見る目が変わってきていた。

 それはまるで神を崇めるような目で、かつて聖女であった頃に向けられていたのと同じような目である。


「むう………」


 得体のしれない居心地の悪さを感じながらも、マーリンはその場を去ることなく治療を続けていく。


 救済の手を休むことなく振りかざすその姿は、やはり魔女ではなく聖女のように見えるのであった。


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