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33.治癒①

 要塞に押し寄せる魔族を駆逐して、マリアンヌ・カーティス………マーリンは一息ついた。


「ふう………終わりましたね」


『ケガはないか。マリアンヌ?』


「ええ、大丈夫です。慣れてきたとはいえ、やはり戦争は気が滅入りますね」


 自分を裏切った妹、メアリー・カーティスに引導を渡し、ロクサルト王国に見切りをつけたマーリン。

 彼女の復讐の矛先は違う場所へと向けられることになった。


「これで魔族との戦いも三度目ですね………」


 物憂げに瞳を曇らせて、マーリンはつぶやいた。

 復讐の対象となったのは、妹のメアリーをそそのかしてマリアンヌへと呪いをかけるように仕向けた魔族である。

 この1ヵ月、マーリンは北方の最前線へと積極的に踏み込み、人間側に立って魔族を倒し続けていた。

 すでに3つの戦場で人間側に勝利をもたらしており、一部の者達からは魔族の天敵『雷霆の魔女』などと呼ばれていた。


 マーリンは魔術を使って城塞の上へと降り立ち、手近にいた指揮官らしき者へと話しかける。


「怪我人を一つの場所へとまとめてください」


「あ、あなたは………」


「治療しますので、早くお願いします」


「は、はい!」


 慄いたように顔を引きつらせる指揮官へと問答無用に言いつける。

 さきほどの雷の雨を見ていた指揮官も、得体のしれない魔女の言葉に逆らうことなく部下に指示を飛ばした。


「訓練場にケガ人を収容しています。今、案内を………」


「場所はわかりますから結構です。貴方は貴方の仕事に戻ってください」


「は、はあ?」


 マーリンは指揮官をその場に残してスタスタと歩いていき、要塞内部にある兵士の訓練場へと向かって行く。

 千里眼ですでに場所は確認をしている。マーリンの足取りに迷いはなく、すぐに訓練場へとたどり着くことが出来た。


 途中ですれ違う兵士達がマーリンへと得体のしれない怪物を見るような目を向けてくる。

 たった一人で魔族の一個師団を壊滅に追いやったのだから、当然と言えば当然の反応である。


『気に入らんな。助けられておいてこの反応とは』


 マーリンは特に気にしてはいなかったが、フュルフールは過剰なほどにその視線に反応して目元を険しくさせた。

 自分の愛する契約者が、無数の男の視線にさらされているだけでも気に喰わないのだ。それが好意的な視線でないとすればなおさら腹が立った。


「仕方がありませんよ、フュル。私はこの要塞の部外者なのですから」


 聖女であったマーリンにとって、好奇の視線など慣れたものである。

 その視線にいやらしい劣情が混ざっていないだけ、マシとさえいえるだろう。


 マーリンが訓練場にたどり着くと、そこにはすでに数十人のケガ人が収容されていた。

 軽いケガの者は同僚の兵士から手当てを受けており、重傷の者には軍医らしき人物がせわしなく治療をしている。

 すでに事切れている者もいるようだ。訓練場は兵士達の慟哭の声とうめき声であふれかえっており、まるで葬式のように暗い空気が包み込んでいる。


(この光景………慣れませんね)


 たった3回とはいえ戦場に立ったマーリンであったが、こうして人が死に行く光景にはいまだに心が痛くなる。


(皮肉なものですね。聖女をやめた後になって、本当に聖女の力を必要とする者達の前に立つことになるとは)


『マリアンヌ………』


(大丈夫ですよ、問題ありません)


 いたわるような顔をしたフュルフールに微笑みを返して、マーリンは大勢のケガ人へと手をかざした。


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