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32.戦場③

「な、なんだあっ!?」


 その言葉を発したのは、はたして人間か魔族か。

 先ほどまで激しい殺し合いをしていたはずの二つの種族は、突如として戦場に降り注いだ雷に動きを止める。


 雷は要塞の外に広がる雪原へと落ちていて、大地にはクレーターのような穴が開いていた。

 クレーターの周囲は熱で雪が蒸発しており、白い湯気となって辺りを覆っている。


「あれは………天使………?」


 そして、最初に「それ」に気がついたのは、地面にあおむけに倒された志願兵の少年であった。

 少年が見上げる上空には、空一面を覆う雪雲を背負った人影があった。

 目を凝らしてみると、それは一人の女性の姿である。

 青白い光に包まれた女性は白いドレスを身に着けていて、周囲を包む稲光がまるで天使の羽のように見えてしまう。


「ギャッ! 敵、あれも敵だ!」


 やがて魔族もその女性の存在に気がついた。

 雷の衝撃で地面を転がったイノシシ魔族が指で突きつけ、コウモリ魔族が女性に向けて殺到する。


「危ない!」


 少年は思わず叫んだ。

 あの女性が敵か味方かわからない。

 それでも、あの天使のような何かが魔族に蹂躙される光景など、絶対に見たくはなかった。


「~~~~~、~~~~~~~~~~~?」


 しかし、少年の心配は杞憂に終わる。

 天に立つ女性が少年のほうを見て、何事かをつぶやく。

 心配してくれた少年に礼でも言っているのだろうか。白い雷光に包まれた顔には柔和な笑みが刻まれている。


「あ………」


 その透き通った笑みを目にして、状況も忘れて少年が顔を赤くする。


 そして、次の瞬間。


「~~~~~~~~~!」


 女性が叫び、かざされた手の平から稲光が走る。


ドオオオオオオオオオオオオン


「ギイイイイイイイイイイイイッ!?」


 女性に襲いかかろうとしていたコウモリ魔族達が雷の槍に貫かれる。一人残らず黒い炭の塊になり、地面に向けて落ちていく。


「~~~~~~~~~!」


 女性が、今度は右手を横なぎに振るった。

 地面を洗うようにして左右から雷光が奔り、悲鳴を上げる間もなくイノシシ魔族が灼熱の閃光の中へと飲み込まれた。


「すごい………」


「おい、少年! 大丈夫かよ!」


「へ、あ………」


 地面に倒されていた少年が引き起こされる。

 のろのろと視線を向けると、そこには先ほどまで話していた中年の兵士の姿があった。


「要塞から出て、いいんですか?」


「はっ、敵がどこにいやがるんだよ! もう一匹も残っちゃいねえ!」


「はえ?」


 兵士の言葉に少年が周囲を見回す。

 要塞の周りを取り囲んでいた魔族の軍勢は姿を消している。代わりに、そこには無数の炭の塊が残骸のように転がっていた。


「まさか………これをあの人が一人で………?」


「そうみたいだな、あれが噂の魔女だ」


 兵士は説明をしながら少年の尻と背中をバンバンと叩き、身体についた泥と雪を払い落とす。


「雷の雨を降らせる魔族の天敵『雷霆の魔女』………! 噂にゃあ聞いていたが、予想以上におっかねえ女だぜ!」


「………違うよ」


 兵士の言葉に、少年が反論する。


「あれは、あの女性は魔女なんかじゃない………俺の、女神だ」


「はあ?」


 顔をうっとりとさせて、呆けたように少年がつぶやく。

 中年の兵士はきょとんとした顔で少年を見て、寝ぼけているのかと小さな頭を手ではたいた。


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