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25.天槌①

 大司祭ライナ・ライトによって聖堂を追われた魔族は、力いっぱい蝙蝠の羽をはためかせて王都の上空を飛んでいた。


『ぜんぶぜんぶ、アンタのせいよ! アンタさえいなければ、こんな目に遭わなかったのに! 私はレイフェルト様と結婚して、この国の王妃になれたのに!』


「いい加減に黙りなさいよ! 私がいなかったら、そもそもアンタは聖女になれなかったでしょうが! いまさら文句言ってんじゃないわよ!」


『もう、最悪最悪最悪! 魔族なんかと取り引きするんじゃなかった! アンタ達と関わったせいでこんなことになったのよ! 私の身体を返しなさいよ!』


「返すわけないでしょ!? 取り引きを受けたのはアンタの意志じゃない! こっちのせいにしないでよ!」


 メアリーの身体を乗っ取った魔族は王都の上空を飛びながら、己の器であるメアリーと口論をしていた。


「最悪なのはこっちよ! 魔王様の命令を果たせなくなっちゃったじゃない………!」


 魔族は親指の爪をギリギリとか見ながら、悔しそうに唸った。


 魔族の女が彼らの王から受けた使命は二つ。

 一つ目は、ロクサルト王国の聖女マリアンヌを排除すること。

 二つ目は、メアリーの身体を乗っ取って王妃となり、この国を陰から支配することだ。


 今から数ヵ月前、魔国にいる一人の占い師が不吉な予言を下した。その内容は、魔族の王が人間によって討たれるというものである。

 人間諸国への宣戦布告を控えた時期に下された予言に魔族は困惑し、なんとか予言を回避する方法を探した。


 そして、見つけ出した方法こそが、魔王にとって最大の脅威となるであろう聖女マリアンヌを殺害することであった。


「聖女は魔族の手によって殺害することは叶わない。人間の手によって殺させるのだ」


 占い師の言葉を信じた魔族はマリアンヌの妹に目をつけた。

 その身体に仲間の魂を憑依させ、マリアンヌから聖女の力を奪って殺害するように誘導した。

 あわよくばそのままメアリーを王妃の座に就けて、レイフェルトを傀儡にしてロクサルト王国を支配することまで目論んでいたのだった。


「せっかくマリアンヌを排除して、全部うまくいったと思ったのに………!」


『そんなことどうでもいいわよ! 返しなさいよ! 私の身体も、レイフェルト様と結婚できたはずの人生も! こんなの………こんな理不尽なことってないじゃない!?』


「………アンタに裏切られたマリアンヌも、きっとそう思っていたわよ。馬鹿で愚かなニセモノの聖女」


『なんですって!?』


「アンタは私と同じ加害者でしょう? いまさら、被害者ぶってんじゃないわよ!」


 メアリー・カーティスという女は、魔族の目から見てもおぞましく自分勝手であった。

 自分の姉妹家族に呪いをかけるなんて、魔族だってやりはしない。


「魔国に戻ったら、すぐにアンタに身体を返してあげるわよ! そして、切り刻んで拷問した後で殺してあげる。楽しみにしていなさい!」


『ふざけるなああああっ! 魔族ごときがっ! 私に利用されるだけのアンタ達なんかにいいいいいいっ!?』


 止むことのない騒音に頭を悩ませながら、魔族はひっそりと溜息をついた。

 このまま戻れば、確実に魔王様からお叱りを受けるだろう。


「ああ、気が重い。なんでこんなロクでもない任務を受けて………………へ?」


 思わず愚痴を漏らす魔族であったが、彼女の目の前に雷が閃いた。

 こんな晴れた日に――そう疑問に思ったのは一瞬であった。


 次の瞬間、天を翔けるドラゴンのような雷電がメアリーの身体を飲み込んだのだった。


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