22.豹変③
「め、メアリー………?」
「おのれえっ! 人間めっ! よくもおっ………!」
聖堂の壇上で悪魔へと姿を変えた新婦メアリー・カーティス。
その姿を呆然と見つめながら、レイフェルトはその場に崩れ落ちた。
「魔族………こんな国の中枢まで潜り込んでいましたか」
ライナが静かにメアリーを睨みつけ、手に持った錫杖を突きつける。
「大司祭ライナ・ライト………! アンタさえ来なければ、この国を乗っ取ることが出来たのに………! よくも邪魔をっ!」
「め、メアリー! どうして君が………!」
目の前の現実を受け入れられず、レイフェルトが必死な形相で問い詰める。
悪魔と化したメアリーは蝙蝠の羽をはばたかせて中空に立ち、嘲るような顔で憐れな花婿を見下した。
「あら? 私が魔族だからに決まっているでしょ。お馬鹿な王子様」
「ふざけるなっ! いったい、いつから………」
「アンタの元・婚約者マリアンヌ・カーティスが聖女の力を失ったときからよー」
「はっ………?」
呆けたように固まるレイフェルトに、メアリーはチロリと舌を出していたずらっぽく笑いかける。
「この娘はね、自分の姉が羨ましくって仕方がなかったのよ。それで、姉から聖女の力を奪い取るために、私達魔族と取引をしたのよ。そのせいで身体を奪われて、本当に間抜けよね」
「そ、そんな………まさか………!」
レイフェルトの身体がガクガクと震える。
目の前の魔族の言葉を信じるのであれば、自分は何のためにマリアンヌと婚約破棄をして、彼女を追い出して命まで奪うようなことをしたというのか。
「はあああああああっ!」
「ッ! 鬱陶しいわね!」
「魔族めっ! 殿下から離れろ!」
呆然と崩れ落ちたレイフェルトとメアリーの間に滑り込み、騎士ガイウス・クライアが剣を振る。
疾風のごとく放たれた斬撃をかわして、メアリーは忌々しそうに手をかざした。
「燃え尽きなさい!」
「させません。天使の防壁!」
メアリーの手から炎が放たれるが、ライナが張った結界によって阻まれる。炎は火の粉となって霧散した。
「多勢に無勢ね………本当にメンドウくさいんだから!」
「逃げる気ですか!」
聖堂の天井に向かって飛んでいくメアリーに、ライナが錫杖の先端を向ける。
錫杖から鞭のように光が伸びるが、わずかにメアリーには届かなかった。
「ふーんだ! アンタ達なんて魔王様が滅ぼしちゃうんだからね! 覚えてなさいよ!」
捨て台詞を残して、メアリーは天上を突き破って空へと消えていく。
「め、めありー………?」
変わり果てた婚約者が消えていくのを何もできずに見送り、レイフェルトは呆然とその名前を呼んだ。
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