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20.豹変①

 半時ほどの時間をかけて、大通りを進んでいたパレードの行列は王城近くにある聖堂へとたどり着いた。

 聖堂の敷地へは招かれた賓客以外は入ることは許されず、一般の見物人達は警備の外へと出されていた。


 聖堂の前にはすでに警備の騎士と国内外から招かれた貴族達が待ち構えており、新郎新婦が乗った馬車を出迎える。


「さあ、メアリー。行こうか」


「はい………レイフェルト様」


 新郎であるレイフェルトが先に馬車から降りて、新婦のメアリーに手を差し出す。

 メアリーはうっとりとした表情を浮かべて、レイフェルトの手に自分の手を重ねる。


 顔だけは美男美女であるレイフェルトとメアリーの姿は一枚の絵画のようで、二人の姿を見守っていた騎士や貴族から溜息が漏れる。


「お待ちしておりました。レイフェルト殿下」


 そんな二人を恭しく迎えて教会の奥へと導く役目を負っているのは、騎士であるガイウス・クライアであった。


 跪き、頭を下げたガイウスの顔は見ることが出来ないが、その表情は祝いの席には似合わない苦々しいものであった。


(この光景をあの方が目にしたら、どんな顔をするだろうな………)


 ガイウスの頭に浮かぶのは、半年前に自分が命を奪った令嬢の顔である。

 気高く、誇り高く、まさに聖女といった振る舞いの彼女の姿を思い浮かべるたび、ガイウスの胸には針が刺さったような痛みが走る。


 相手がロクサルト王国に敵対する国賊であったのならば、何人命を奪ったところでガイウスの心は痛痒にも感じない。

 しかし、罪のない少女の命を奪うという行為は、誇りを尊ぶ騎士には背負いきれないような重荷であった。


 騎士として、次期国王であるレイフェルトの命に従ったことを後悔しているわけではない。

 ただ、もっと他にやりようがあったのではないか。あの聖女が力を失うことがなければ。そんな思いを止めることはできなかった。

 そして、そんなふうに心を痛めている自分の在り様にも、中途半端なものを感じていた。


(いまさらだな………私は正義よりも忠義を選んだのだ。ならば、その道を貫くのみ。謝罪も贖罪も、もはやする相手はいないのだ………)


 ガイウスは心の中で断じて、顔を上げる。

 精悍な騎士団長の顔にはもはや迷いはなかった。


 自分は最後までロクサルト王国への忠義を貫く。

 まずは、何事もなくこの結婚式を終わらせなければならない。


「出迎え、大義である。騎士団長ガイウス・クライア!」


「はっ!」


 一つの覚悟を決めて、ガイウスはレイフェルトの声に力強く応えた。

 忠義に凝り固まった騎士が自分の犯した罪と向き合う時は、刻一刻と近づいてきているのであった。


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