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14.修行①

 マリアンヌが森で生活を始めて1ヵ月が経った。

 森での生活は不自由が多かったが、もともと聖女として節制を己に課していたマリアンヌにはさほど苦にはならないものだった。

 むしろ、フュルフールのおかげで魔物の脅威はなく、三食食事にありつけるだけ遥かにマシといえるだろう。


「そうだ、そのまま魔方陣に魔力を注ぐんだ」


「こうでしょうか?」


「うむ! 上手だぞ!」


 ラクシャータの家に泊めてもらう対価として家事を分担していたマリアンヌだったが、空いている時間を見計らってフュルフールから『魔術』を習っていた。


『魔術』というのは『魔法』と違って、生来の属性がなくても使うことができる呪いである。

 触媒や魔方陣を必要とするというデメリットはあるのだが、今のマリアンヌは『雷』以外の魔法が使うことができないため、手札を増やすために必要なことである。


 マリアンヌは手の平に描いた魔方陣に魔力を込めて、教わったばかりの魔術を発動させた。

 閉じられた瞼の裏にこの場所ではない、遠くの光景が映し出された。魔術の一つ、『遠視』の呪いである。


「っ………! うまくいきました!」


「おおっ! さすがは私のマリアンヌだ!」


 魔術を成功させたマリアンヌ以上の喝采を上げて、フュルフールが両手を掲げる。


「やはりマリアンヌは筋がいいな! 並の魔術師であれば、ここに至るまでに十年は修業が必要だぞ!」


「そうでしょうか………これでまた一歩、復讐に近づきました………!」


 マリアンヌは目を開き、嬉しそうに両手を握りしめる。

 フュルフールと契約を交わしたことにより、マリアンヌは復讐対象を国ごと滅ぼせる力を手に入れた。

 しかし、マリアンヌはフュルフールからサポート以上に力を借りるつもりはなく、あくまでも復讐は自分で成し遂げるつもりだった。


 恋人兼契約者の少女を溺愛するフュルフールにとっては歯がゆいことであったが、マリアンヌはその一線を譲ることはなかった。


「そういえば、私はどうして『雷』の魔法は使えるのでしょうか?」


 訓練の休憩中。

 森の切り株に腰かけて、マリアンヌはふと頭によぎった疑問を口に出した。


 もう一つの属性である『癒し』の力はいまだに奪われたままである。使おうとしても切り傷一つ治せはしなかった。

 それなのに、どうして『雷』の力だけは戻ってきたのだろうか?


「おそらく、お前の妹は聖女の立場を奪うために呪いをかけたのだろう。だから、聖女に必要ない『雷』の属性には効き目が薄かったのだろう」


 フュルフールが疑問に答えて、ふわりと身体を浮かしてマリアンヌの背後に着地する。


「もしも『雷』の力が戻っていなかったら、雷の悪魔である私ではない、他の悪魔が召喚されていたかもしれないな………まったく、危ないところだ!」


「ひゃっ!」


 言って、後ろからマリアンヌの身体を抱きしめた。

 最初の頃こそ女性慣れしていないのが丸わかりな態度をとっていたフュルフールであったが、さすがにこの1ヵ月でマリアンヌに慣れたようだ。

 スキンシップも過剰になっており、隙あらばこうして抱きしめたりしてくる。


「だ、ダメです! そういうことは!」


 しかし、マリアンヌは生粋の貴族令嬢であり、慎み深さを重んじる風情が骨の髄まで染みついている。

 結婚前の男性と肌を触れあうなど、言語道断であった。


「むう………恋人なのに………」


「うっ………その顔は反則です………」


 手を振り払われたフュルフールが唇を尖らせる。

 その子供っぽい態度に思わずドキリとしてしまい、マリアンヌは鼓動を鎮めるように両手で胸を押さえた。


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