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12.騎士①

 時間は少しさかのぼり、マリアンヌの殺害を目論んだ騎士達。


「………隊長、どうしましょうか。下まで降りてみますか」


 マリアンヌが吸い込まれていった崖下を覗き込んで、若い騎士が部隊長ガイウス・クライアに尋ねる。

 崖下は森になっており、生い茂った木々に阻まれてマリアンヌの姿は見つけることはできなかった。

 生きているのかどうかさえ、この場所からでは確認できない。


「必要あるまい」


 ガイウスは短く答えて、首を横に振った。

 この高さから落ちれば無事では済まないだろう。仮に助かったとしても、魔物が生息するこの森で生き延びられるとは思わなかった。

 ガイウスは意図せず切断してしまったマリアンヌの髪を拾い、懐紙を取り出して丁寧に包んだ。


「これを持っていけば暗殺成功の証拠になる。殿下も納得していただけるだろう。これ以上は時間の無駄だ」


「わかりました………それにしても、生意気な女でしたね!」


 マリアンヌから向けられた言葉を思い返して、若い騎士が憤然と言った。


『主君の過ちを諫めることもできない者達が、偉そうに忠臣を気取らないでください』


『忠義という便利な言葉で、自分達の悪行を誤魔化しているだけではないですか!』


 その言葉は騎士達の誇りを傷つけるのには十分なもので、思い出すだけではらわたが煮えくりかえるほど怒りが湧いてきた。


「言うな。しょせんは全てを失った者の戯れ言だ。罪人の言葉になど耳を貸すことはない」


「ですが………」


「そんなことよりも、すぐに王都に帰還するぞ。今から戻れば日暮れまでにふもとの町に戻れるだろう」


「は、はい!」


 こんな森で野宿など、とてもではないが御免である。騎士達は慌てて撤収の準備をする。

 部下たちが慌ただしく動く中、ガイウスは崖のそばへと歩いて行って静かに目礼をする。


「………すまない。これも王国の安定のためなのだ」


 ガイウスとて、マリアンヌが本当に姦通の罪を犯したとは思っていない。

 聖女であった頃のマリアンヌは毎日のように厳しい王妃教育を受けており、その合間には神殿の奉仕活動に従事していた。

 たまの休日には孤児院に訪れたり、国境の砦に慰問をして戦死者の弔いをしていた。

 そんな彼女に婚約者以外の男と密会などする時間などあるはずがない。レイフェルトが主張する密通の罪は明らかな冤罪であった。


「それでも、あなたに生きていられると困るのです。あなたはまさに、理想の聖女でしたから」


 心清らかで勤勉なマリアンヌは、聖女の力を失くさなければ間違いなく歴史に残る偉大な聖女となっただろう。

 彼女を支持するものは多く、それゆえにレイフェルトと新たな聖女に不満を持つ者がマリアンヌを担ぎ出そうとする可能性は十分にあった。

 そのとき、国民がどちらの味方をするのか。それは考えたくないことであった。


 後顧の憂いを失くすためにも、マリアンヌに生きていられると困る。

 それが道理に背いてレイフェルトの命を受けた、ガイウスの本音であった。


「こんなことを口にしたところで何の償いにもならないが………すまない。あなたの死は無駄にはしない」


 ガイウスはもう一度、深々と礼をした。

 そして、己の馬に乗ってその場を去っていった。


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