11.魔族と呪い②
「決まりだな。マリアンヌの妹とやらが呪いをかけて聖女の力を奪った。それに魔族が関与している」
「そうね。状況証拠はそろっているんじゃない?」
顔を白くして地面に座り込んだマリアンヌの肩を抱いて、フュルフールが断言した。ラクシャータも沈痛な面持ちで肯定する。
「妹は………メアリーは、どうしてそんなことを………?」
呆然とした表情でつぶやくマリアンヌに、いたわるようにラクシャータが声をかける。
「人間は弱い生き物だから。きっと魔が差しちゃったんでしょうね」
「………………」
「きっと妹ちゃんは、マリアンヌちゃんのことが羨ましかったんでしょうね。聖女という立場も。王子様の婚約者という立場も。そんな心の弱さを魔族に付け込まれちゃったのよ」
「だから………メアリーを許せというのですか?」
マリアンヌは顔を上げて、ラクシャータを睨みつけた。
ラクシャータは癇癪を起こした子供を見るような目でマリアンヌを見やり、ゆっくりと首を横に振った。
「許せなんて言ってないわ。妹ちゃんの弱さをきちんと理解したうえで、復讐を実行するのか決めればいいのよ。今のあなたには、それを成すだけの力があるんだから」
「そうとも! お前を傷つける人間は一人残らず、私が始末してやろう」
ラクシャータの言葉に続いて、フュルフールが誇らしげに胸を張る。
上級悪魔であるフュルフールの力を借りればメアリーを殺害することはもちろん、王国全土を草木の生えない更地に変えることすら可能だろう。
悪魔と人間との間には、それほど隔絶した力の差があるのだから。
「そう、ですね………考えます。しっかりと。考えて、それで答えを出します………」
マリアンヌの声にはいまだ力がなかったが、それでも二人の励ましに表情には明るさが戻っていた。
妹と婚約者に裏切られ、国と家族からは見放された。
それでも、代わりに手に入れたものがあるのだとマリアンヌは教えられた気がした。
パン、と手を叩いて、ラクシャータが空気を入れ変えるように明るい声を上げた。
「ま、とりあえずは私の家に行きましょう! 夕飯もまだだし、お腹すいたでしょ!」
「そうですね………おなか、へりました」
にっこりと笑うラクシャータに、自分に姉がいたらこういう感じなのかとマリアンヌは思った。
姉というには年齢が離れすぎているのだが。
「さあ、帰りましょう! 誰かとご飯食べるのは久しぶりね!」
『わ、我はいつも一緒ではないか………』
底抜けに明るいラクシャータの言葉に、契約悪魔のサロメが情けない声でつぶやくのであった。
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