003
図らずも異次元のドアを予測したが、思えばその場所は、まるで自分の心を表しているかのような空間だった。
上も下も右も左も視界がぼやけ、はっきりしない。
足元がおぼつかない。
……先も、未来も、おぼつかない。
いや、それは違う。
今の自分すら、おぼつかないのだ。
もう、本当に、弱い自分が嫌になる。
雫の輝く瞳を見ると、余計に。
ああ、でも。
あの女性の瞳は、どうだったろう。
……思い出した。
その瞳は――暗く、深く。
そんな中に淡く輝く、光を見た気がした。
ああ、でも。
その光は、とても弱々しいものだった。
――そして。
「……ん、あれ……」
僕は目を覚ます。
周りを見渡すと、僕はどうやらうつ伏せに倒れていたようで、平たい地平線が広がり……いや、歪んだ視界だ。地平線とは違うだろう。地歪線だろうか?
なんて読むんだこれ。
それはともかく、辺りを見回しても揺らぐ白い空間が広がるだけで、まるで白い砂漠のように、先の見えない場所だった。先はあるのかもしれないが、少なくとも今何がどうなっているか検討もつかない。
そして――あの落ちた後の記憶がない。幸い、どこかに体をぶつけたようなことはないのか、体に痛みなどはなかった。
「いや、あの高さ……具体的な高さはまるでわからなかったけど、おかしいだろ」
落下した時間は、体感とはいえ結構長く感じたので、落ちる時もそれ相応のダメージを負うかと思っていたのだが……うーん。
まあ、これに関しては、あまり考えても仕方がないような気がした。今の自分の状況すらわからないのだ、今更どうということもない。
「床は……あるな、白い……?」
下までゆらゆらしているわけでもなく、平たい。先を見れば視界は歪んでいるとはいえ、床は地平線が続いているのかもしれない。
「雫……、あれ、雫? おーい!」
近くに彼女の姿がないことに気付き、声を張り上げるが、返事がない。
困った……こんなわけのわからない場所で、彼女を独りにしておくわけにはいかないだろう。
「まずは、えーと……そうだ荷物。お、あった。よし、それから……やっぱ散策するしかないか」
自分の学校指定の鞄はすぐ近くに落ちていた。
しかし、散策するにしても、周りには目印一つない広大なように見える空間だ。あまり動き回るのは得策ではないだろうが、こうなってしまっては――
「あ、携帯……そうだ携帯だ」
ふと、鞄を見つけたことで、その中に入れてあった携帯電話を思い出す。これさえあれば連絡くらいは出来るはずだ。鞄のファスナーを急いで開け、中に入っている薄型スマートフォンを取り出し、画面をつける。
だが、
「げ」
画面には無情にも、圏外の文字が。
「……これは、覚悟決めるしかないか」
上を見上げて、そこから帰れないかとも考えたが、崖を上るならまだしも、手をかける場所もない虚空を登れというのは無理がある。
というか一般人には崖すら不可能だろう。
周りを見渡しても何の印もない白い世界だ。鞄の中にお菓子などが入っていれば、漫画のように目印として置くことも出来るだろうが、残念ながら勉強中にチョコなどを平らげてしまっている。
こうなると、自分の勘を信じて、進むしかない。
秋雨雫。
自分の後輩を、探し出す。
彼女がいなければここで待機するのも手だろうが、そうは言ってられないのだ。
その決意を胸に。
一歩、歩き出し――
「え?」
――目の前に、店が現れた。
……え?