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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(中)
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 血振るいをして鞘に剣を戻したレーベンは戦闘用のマントを翻しながらイムジャンヌに告げる。


「大事な剣だったらごめんね。でも、どうやらその剣は君の力にはあってなかったようだ。今度、君の力にあった剣を見繕って私から贈るようにしよう」


 トスッと地面に突きさった半分の剣身に唖然としていたイムジャンヌだが去っていくレーベンの後ろ姿に慌てて騎士の礼をとると片膝を着いて声を張った。


「......私が敬愛して止まないクリスタニア王妃殿下の”斬鉄剣”。真に感服致しました‼︎」


 静まり返った会場から、その華麗な技を讃える大きな拍手が鳴り響いた。




 その光景をただ「ほへぇ.....」と眺めながら拍手を贈るノノワールの横でエルフレッドもまた感嘆の表情で拍手を送る。レーベン王太子の剣技には派手な部分は一切無かったが、その反面裏打ちされた技術と柳の葉を思わせる流麗さがあった。


 観客の反応もライブの後のスタンディングオベーションではなく侘び寂びの心に粛々と手を打つような感動だ。


「てか、剣で剣切るとかやばくない?剣の斬れ味が抜群みたいな?」


「いや、あれは技術だな。相手の剣に対して垂直に刃をブレることなく斬りつけると理論上は可能だ。まあ、相手の剣も動いてる中で、それを出来る技術と目は異常だが......」


「へぇ、THE剣豪みたいな感じなんだね♪てか、エルちん。垂直ってなんだっけ??」


「......世界最高峰の学園の特待生の名が汚れるから辞めてくれないか?」


 良く特待生になれたなぁと呆れながら教えてやるとーー。


「ああ、あのスペなんちゃら光線みたいな形ね!ビビビビビ♪」


 と、馬鹿すぎる上に少し間違っている答えが返ってきたので諦める。


「それでは次はある意味注目のカード‼︎アーニャ選手対レーベン選手の試合開始です‼︎王国の未来は大丈夫でしょうか‼︎」


 煽るように捲したてる放送部員に笑いの声があがる中ーー、エルフレッドはその眼を細めるのだった。




「やあ、アーニャ王女殿下。何時もながら御健勝のようでなりより。今日は中々過激な立ち振る舞いをされてるみたいだけど、その快進撃も終わらさせてもらうよ」


 ダンスにでも誘うような様子で声をかけたレーベンにアーニャは嫋やかに微笑んでーー。


「ふふふ、レーベン王太子殿下も御健勝のようで何よりですミャア。そうですニャア......妾と戦った後も御健勝でいられたら幸いですミャア♪」


 アマテラスの司る神炎の式を纏いながら、うっすらと浮かんだ仄暗い笑顔を扇子で隠して空中で足を組み替える。


「......真剣勝負だから手加減はいらないけど......御手柔に頼むよ......」


 苦笑しながら剣を抜いたレーベンにアーニャはその笑みのまま首を傾げてーー。


「手加減はいらないけどお手柔らかにーー哲学でしょうか?......妾には少し難しい話みたいですミャア♪」


 アーニャは飛翔する。今までのトーナメントでは完全な地上戦であったにも関わらず元来はその戦い方が主流だといわんばかりの動きだ。


「なんとアーニャ選手、空中戦だ‼︎」


 と驚きの声をあげる放送部にジン先生が疲れたように呟いた。


「......今年の一年Sクラスどうなってるの?予想外すぎるんだけど」


 くりっとした狐目をクワッと見開いてアーニャが神炎を纏った爪を振り下ろす。それを魔力が篭った剣で受けながらレーベン王太子が苦悶の表情を浮かべた。チリチリと身を炙るような熱ーー、そして、獣人の圧倒的な力に受け止める剣身がガチガチと音を立てた。


「ニャハハ♪楽しいニャア!やはり、地に這う種族を空から嬲るのは最高ミャア♪」


 蹴りを放ち、尻尾で打ち、焔の線で掻き殴るーー返す剣をフワリと避けられてレーベンが苦笑を漏らした。


「アーニャ殿下。今日はなにやらダークなキャラを装っているようでーー」


 躱されながらも二、三と剣撃を積み重ねていくレーベンをボウボウと猛る焔の音共に躱しながらーー。


「あら、どうでしょうニャア?これが妾の本性かもしれないミャ♪」


 扇子の一振りで捲き上る炎を障壁で受けながらレーベンは頬を釣り上げた。


「だとしたら今後の交友は御免こうむりたいね!」


「あら!つれないことを言う殿方です......ミャ!」


 空中で後ろ回し蹴りを放ってよろけたレーベンへと距離を詰めーー。その剛爪が破壊の様相を描く。焔の線が十、二十と振るわれて彼の装備や身を焦がしていく。防戦一方で傷を増やしていくレーベンはその状況を苦々しく感じながらも隙を探すために自信のある”眼”を動かし続ける。


「殿下‼︎」


 エルニシアが声を挙げた。指を右、左、上と動かしたのを見てレーベンは頷く。左右から襲い来る爪を避け、頭を狙った蹴りを避ければ大きな隙が表れる。


「⁉︎.....小賢しいミャア‼︎」


 下からの振り上げを後方宙返り気味に避けたアーニャは苛立たしげに眉を寄せた。


「......エルニシア先輩は気絶させておくべきでしたミャア。それと視界の端のお父様が邪魔ですミャア......」


「流石はアーニャ殿下。この一瞬の攻防でこちらの秘密に気づくとは......コガラシ王配殿下の件は解りかねるけど......」


 先ほどから招待席を飛び越えて三年Aクラスが座るあたりの一番前の柵に陣取って娘に攻撃が当たりそうになる度に耳がピンとなったり目がピクとなったりーー心配なのはわかるが鬱陶しい事この上ない。そもそもそこは生徒専用席なので恥ずかしいからやめてほしいという心情である。


「まあ、お父様の件は後で文句を言うことにしてーーレーベン殿下とエルニシア先輩の視線は遮るべきでしょうミャア」


「ハハハ、対処も完璧という訳か!ならば、せめて意識は刈り取らせてもらうよ。後続に詳細が伝わるのは厄介だからね!」


 上、右、左ーーその指の動きに合わせてレーベンが動く。めっきり当たらなくなった攻撃にアーニャは額から汗を零した。対処法は解っているがそれは相手も承知していること。回り込ませまいと剣撃と蹴りを上手く織り交ぜて彼女の行動を制限し阻止する。疲れもあるのだろう。今まで冷静な対処に務めてきたアーニャの行動に焦りの色が見え始めた。明らかに動きも悪くなっている。それを従来の頭の良さで補ってみせているがレーベンの眼には、その隙が見えていた。


 振り抜いた上段回し蹴りがアーニャの顎を撃ち抜いた。ぐらりと揺れた視界に着地が疎かになって尻餅をついた彼女は眼前に突き付けられた剣に頭を抑える。


「姫様を足蹴にするなんて狼藉はこれっきりにしたいところだね?......アーニャ殿下の......お父様も怒ってるみたいだし」


 少し視界が落ち着いてきたアーニャが視線を上げると鋭い牙を剥き出しにして柵を握り潰す父親の姿が見えた。後ろには三人の警備係を務める生徒が困った様子で「席にお戻り下さい!」と声を上げて引っ張っている。


「あー、あんな醜態晒すなら見に来ないでほしいですミャア......自国では結構あることなのにニャア。まあ、妾の目的は果たしたことですし大人しくベンチに引き下がりますミャ!それではレーベン王太子殿下!御機嫌よう♪」


 ぷらぷらと手を振りながらフラフラとベンチに戻って行くアーニャを飛び出してきたルーミャが抱き止めて支えている。普段はそう見えなくてもなんだかんだ仲の良い双子姫なのである。


「どうにか勝ったけど......任務は失敗ってところか......アーニャ殿下にはエルニシアの能力がバレたみたいだし上手いこと対処されそうだなぁ......」


 一旦、自身のチームメイトが待つベンチに引き下がりながらレーベンは今後の戦闘を考えて表情を引き締めるのだった。

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