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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(中)
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9

「さて、最初の攻防を見ていかがでしょうか?ジン先生」


「そうだね。今になってセコンドに着かなかったことに本当に後悔しているよ。エルニシアも居るし大丈夫だと思ったんだけど.....」


 どこか悔しげな表情を浮かべるジン先生に対して放送部員は一瞬苦笑を浮かべたが表情を切り替えてーー。


「なるほど‼︎そんな言葉が出るくらいにはアルベルト選手が有利な展開で進んでいると?」


「うーん。流石に今の攻防ではそこまではないけど......明らかな魔力の減衰狙いだから続けられると厄介かな?」


「あの攻防にはそんな意味があったんですね‼︎勉強になります‼︎」


 そんな話を聞きながらエルフレッドは顎下に手をやった。三年Sクラスとの戦闘が始まる前にアマリエ先生に解る限りの情報を伝えたがその一手が魔力減衰策は流石に消極的ではないか?とは思わなくない。勿論、魔力総量半分のハンディーキャップであそこまで戦えると聞いて少し評価を改めた所はあるがそれにしてもである。


「エルちん。なんか膠着状態ってやつだね?攻めあぐねてるの?」


 見ている側のつまらない戦闘に欠伸をしながら聞いてきたノノワールにエルフレッドは首を振ってーー。


「いや、あれで攻めは成立している。逃げさせて偶に攻撃を当てて魔力を消費させる戦法だ。相手の動き次第ではまた話が変わってくるがアルベルトの攻めとしては悪くない」


「そうなんだ......ふわぁ。なんか魔法使いって地味な戦闘するんだね。もっとドーン!とかバーン!とかすると思った」


 彼女はホットコーヒーを飲みながら「......寒っ」と呟いた。


「......いや、さっきのメルトニアさんやアルベルトに限って言うなら、その擬音系の魔法の方が本来得意なはずなのだが......だから相手の動きによっては苛烈な攻めもあり得るはずだ」


「ふーん。そうなんだ。相手さん早く動くといいね?」


「......そこはなんとも言えん」


 エルフレッドが苦笑していると闘技場で遂に動きがあった。それは埒が明かないと踏んだラティナが障壁を張りながら突撃を敢行したのである。


「さて、どうなるのか?」


 エルフレッドは少し身を乗り出すとその眼光を強めるのだった。




 ダメージを無視した特攻にアルベルトの魔法が掻き消されていく。障壁分の魔力を使わせているが距離を詰められるのが先だろう。


(じゃあ、第二の作戦に移行だね)


 アルベルトは全身に魔力を張り巡らせるとラティナの攻撃を迎え討つ。ラティナが蹴りを放った。顔側面狙いのハイキック、アルベルトはそれを杖で受けると石突側で突きを放つ。


 それを左手で払いながら同時に右膝を伸ばす彼女のそれを障壁で受けて中級炎魔法[フレイムバースト]を発動ーー近距離での爆発に地面が揺れた。障壁越しとはいえ自身も爆風を受けて飛ばされながら自身の杖に中級風魔法ウインドウェポンを纏わせて強化する。


「中々危ない戦い方するじゃない?それに近づかせないようにしてたのではなくて?」


 爆煙の中から無傷で出てきたラティナを見ながら、あの距離の魔法を躱したのかと内心驚嘆したがアルベルトはそれを噯に出さずに構えた。


「だから吹き飛ばそうとしたのですけど......無傷とは思いませんでした」


「ふふ、そう?まあでも流石にやられっ放しって訳にはいかないの......よ‼︎」


 身体強化魔法での強化された蹴りがアルベルトの障壁に罅を入れた。トンファーのリズミカルな攻撃が一、二、三と彼の障壁に打ちつけられて破壊ーー回転と合わせて放たれた中段蹴りがアルベルトを弾き飛ばした。その攻撃自体はどうにか杖で受けていたがラティナは止まらない。ここが好機と踏んだのか倒れ込んだアルベルトを踏みつける。


 間一髪で避けたアルベルトはその地面が軽度の地震と共に陥没したのを見て、あっ、この人も見た目詐欺だーーと冷や汗を流した。


「いつまで逃げ回っているのかしら?」


 そんな声と共に飛んできたのはサッカーボールを蹴るような蹴りだった。回避が間に合わず障壁で受けたのだがとんでもない衝撃と共に場外防止用の結界まで蹴り飛ばされた。


「う、う、やっぱり近距離はダメか......」


 ずるりと結界越しに滑り落ちたアルベルトは迫り来るラティナを視線に映しながらそう呟いた。


「ハアアッ‼︎」


 好機を逃すまいと距離を詰めるラティナにアルベルトはボソリと呟いて小さく印を書くーー。その様子を見ていたアマリエ先生が小さく笑い、エルニシアが慌てて制止の声を上げた。



「ラティナ‼︎駄ーー「風・火複合魔法[エクスプロージョン]」



 それは名前の通りの爆発だ。それもフレイムバーストとは比べ物にならない程の大爆発である。闘技場の結界が崩壊しかけて地面がめくり上がり爆風を撒き散らす。爆心地を中心に膨れ上がったように見えた赤のエネルギーが辺り一帯を吹き飛ばした。


 一瞬の静寂の後、意識を失ったラティナと爆発から間一髪の転移で逃げのびたアルベルトの姿が現れた。


「勝者、アルベルト選手‼︎」


 審判がそう言った瞬間に割れんばかりの歓声が響き渡ったーーのだが。


「すいません。魔力使いすぎました。棄権します」


 フラリと倒れ込みながらアルベルトが早口で言った。彼の隠し玉とも言える大魔法の代償は中々大きいものだった。気絶した両者が担架で運ばれる中ーーエルフレッドは苦笑した。




「倒せない可能性が出てきた相手を倒せたのは素晴らしいが、まさか躊躇なく()()を選ばせるとは中々怖い先生だなぁ.....」




 作戦成功と言わんばかりの表情を浮かべるアマリエに少々の恐怖を覚えながら、エルフレッドは独り言のようにそう呟くのだった。














「してやられたわ......倒せる可能性が高いと見せかけておいての自爆特攻なんて考えもしなかった......」


「イーブン......とは言い難いか。こちらとしてはせめて一人で二人を倒させる状況に持っていきたい......」


 カーレスが頬杖をつきながら呟くとレーベンは苦笑してーー。


「多分勝てる可能性があるなら倒す。駄目なら道連れにする。みたいな作戦だったんだろうね。近接戦闘での蹴りの威力で詰められたら勝てないと判断ーー勝てない確率が先行した時点で確実に倒せるタイミングでの自爆か......残りの四人の実力に余程自信があるのかな......」


 そうやって皆が戦慄する中ーーサンダースは珍しく真剣な表情で考えいている。


「まあ、やられたものは仕方ないよね?イムジャンヌちゃん?の相手は中々大変そうだけど私頑張ってみるから!」


「ああ、よろしく頼む」


 拳を突き出してエルニシアを見送ったカーレスは真剣な表情のまま動かないサンダースへと声を掛けた。


「何か心配な点があるのか?」


「うんや、戦法の意図が少し掴めなくてなぁ......単純に人数差で戦いたいんなら、もっと上手いやり方があるだろう?俺がアマリエ先生の立場ならカーレスとレーベンにゃあ最低2人ずつは当てたい。でも今の勝ち方見てるとよ?()()()()()()()()()()と言わんばかりの......」


「おっと‼︎これはなんということでしょう‼︎ハンディーキャップは三年Sクラスだけじゃないと言わんばかりのパフォーマンスだ‼︎」


 放送部員の唐突の煽り文句にカーレス達は視線をイムジャンヌへと移した。視線の先ではーー何だろうか?ボトリボトリと黒い塊がイムジャンヌの体から落ちていってるのが見てとれた。


「イムジャンヌぅ‼︎人外モード見せちゃって‼︎」


「......私人間......」


 そう言いながらドンドン積み上がっていくそれに皆がゴクリと唾を飲み込んだ。


「これは驚きです!イムジャンヌ選手!何と推定四十kgの彼女が外した重りの重さは百二十kg‼︎自身の三倍の重さを背負って今までの戦いを戦ってきたようです‼︎」


「マジかよ......」


「信じられないけど......まあ、あの感じを見ていると本当なんだろうね......」


 相対するエルニシアが若干青ざめた顔で「えーと、イムジャンヌちゃんってマスコット枠とかじゃないの?」と頬を引き攣らせている。140cm後半程度の身長で銀色の髪を揺らした彼女は不思議そうな表情で一瞬首を傾げたが”覚えたての回復魔法”を自身に掛けるとエルニシアに向けて告げるのだった。


「......リミッター解除」

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