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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第一章 灼熱の巨龍 編
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7

 次の日の朝になった。


 まだ学園に居る誰もが起きていないであろう時間にエルフレッドは目を覚ました。ごちゃごちゃと考えていた思考は既に過去の物だ。今は明確な目標の為に早く飛び出したい気分であった。


 ガルブレイオスはこの期間に討伐する。


 それが彼の出した答えだった。やはり、感覚の消失は余りに痛手であると判断したのが一つ。今の時期であれば邪魔になる事象があまりないのが一つである。


 唯一の懸念に関しては旅前に解決するとして本日の昼前に旅立てれば最良だと彼は考えていた。なるべく早く出るに越したことはないのだが今の時間は正門どころか寮の門さえ空いていない。


 まずは食事を取り、必須科目のテキストに目を通しながら時間を潰す。そして、朝の六時を越えれば寮の門が開くため朝の鍛錬を行う。朝の九時〜十時の間に唯一の事象を解決して旅に出る。


 無論、そこまで上手く行かなくても最悪夕方迄に街を出ればいい。とはいえ、そこまで縺れることはないだろうがーー。


 嘗ての偉人、パスカルの発言の中で有名な言葉”人は考える葦である”。


 それは大自然に置いて人間は最も弱い存在だが考えることが出来る存在だ。と思考することが人間の価値だとしたものだ。それは裏を返せば考える事を止めた人間は最も弱く価値のない存在ともとれる。


 何が言いたいのかと言えば、エルフレッドはその価値に比例するかの如く思考する存在であるということでーー。


「おっ?エルフレッド。其方も鍛錬に出るのか?」


 その考えて練りに練った計画はいつも崩れるということである。


「......リュシカか。丁度良いと言えば丁度良い」


 そう答えた彼は計画以上の結果が訪れながらも何処か釈然としない表情を浮かべるのだった。













○●○●













 リュシカとの朝練を終えてエルフレッドは街へと繰り出した。入学式までの間は彼女と約束した学園内での平等計画には協力できない旨を伝えたところ「特に問題無い」と二つ返事で了承された。


 学園が始まってからが本番であること、そして、始まるまでは友人との顔合わせ程度しか彼女も考えていなかったことが理由だ。丁度、朝練後の朝食で顔を合わせる予定があるからどうだ?と言われたが長引く可能性を考えて断ることにした。特に文句も言われなかったので問題はないだろう。


 彼はそんな事を考えながら本日の目的地である冒険者ギルド本部がある第二層へと向かった。道中、相変わらずの視線が気にはなったが前回程ではなく悪意もないため無視することにする。


 東から昇る太陽の日差しが建物の影を最も長く伸ばし始めた頃エルフレッドは目的地の建物を見上げていた。


 冒険者ギルド本部ーー。


 国境を超えて活動する為の冒険者を支える組織として世界政府主導の元で設立された冒険者ギルドは世界共通の規則・規定を以て冒険者の等級を発行・管理する組織である。


 元来冒険者というのは自由かつ無秩序の風来坊で職業とはいえない存在であった。例えば、国境を超える資格を持っていないのに自由や冒険の名の元に国境を超えてしまう者やそれ以前の荒くれ者とさして変わらない者もいた。


 しかし、そんな冒険者の中には到底人類では成し遂げることの出来ない偉業を持つ"英雄"と呼ばれる存在も居り国への貢献度は無視できるものではない。


 であれば、冒険者を登録制・等級性の仕事にしてしまえば良いと試行錯誤の元に完成したのが冒険者ギルドーー。そして、その第一号が冒険者ギルド本部である。年季を感じさせるものの増設の度に改装を繰り返した小綺麗な五階建の鉄筋建築は世界政府の指定する世界文化遺産にも登録されている。


 そんな冒険者ギルド本部だが何故記念すべき第一号にアードヤード王国が選ばれたのかといえば首脳会談にて行われた候補国選定にて当時のアードヤード王が一早く手を上げたからであった。


 最初期、内容的に粗も多く、荒くれ者と蔑まれた冒険者の受け入れを統括する組織のテスト等、どの国の要人もが難色を示す中での英断は我が国の特色を一つでも増やそうとする国王陛下の苦悩があったからだろう。


 それから二百年が経ち有用性が認められた結果、世界各国に配備がなされたことで残念ながら特色とまではならなかったものの、世界初の冒険者ギルドとして"冒険者の聖地"と呼ばれ数多くの冒険者に愛され親しまれる場所となっていた。


「さて受付は、と」


 エルフレッドが中に入るとそこには既に数多くの冒険者が其々の目的で闊歩していた。特に併設された酒場と指南所案内は異常なまでにごった返している。もう少し遅い時間だと受付も込むだろうが元来自由をモットーとする人々がなる職業とあって受付に向かう人物はまだ少ない。


「冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「失礼致します。危険地域入場許可の発行とそれに関する照合をお願いしたいのですが......」


「かしこまりました。それではギルドカードを御提示頂いてもよろしいでしょうか?」


 見目麗しくありながら歴戦の戦士の風格を持ち合わせる、右腕に大きな裂傷のある受付嬢にギルドカードを渡した。それを照合用のスキャナーでスキャンしてパソコンで作業していた彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、それを隠すかのように微笑んだ。


「お待たせ致しました。特Sランク、エルフレッド=バーンシュルツ様。本日は何方の危険地域入場を御希望でしょうか?」


 その瞬間、他の受付嬢や職員がエルフレッドに視線を向けた。それにはいくつかの理由があるが大きな理由は彼が持っている特Sランクが名前の通り特別なものだからだ。


 元来最高とされるランクはS。それもGから始まる七段階評価の上に特別な階級として用意されたのがSランクである。


 一般的に冒険者という職業で食べていけるのはDランク。そして、Cランク以上は上位ランクとされAランクより上は世界全体の冒険者の一%以下である。


 そうした明確な階級があるなかで彼だけは特別な特Sランクなのだ。


 これには理由が三つある。一つ目は当然だが七大巨龍のジュライを一人で討伐したこと。世界に名だたるSランクを集めても狩ることは出来ないだろうと試算されていた巨龍を一人で倒したのは余りにも例外すぎるとした。


 二つ目はアードヤード王国内における貢献度の高さが尋常ではなく高いこと。これは平民から貴族に成り上がった際のAランク指定を受けた魔物キマイラ討伐を含む、実害の大きい魔物を多く倒したことで数多の表彰・勲章の授与を受けていることだ。


 そして、三つ目は彼の冒険者ランクが彼が当主になるまでの期間限定のランクであること。現実問題として貴族の長男が永続的に冒険者を続けるの事は無理であり当主ともなれば引退である。


 要はSランクを超える功績を持っているが貴族の長男であるために期間限定しか冒険者が出来ない。更にアードヤード王国としても貴重な存在を手放したく無いため、貴族の嫡男であることを理由に冒険者ギルドや世界政府と交渉した結果が特例的に認められたのが特Sランクなのだ。


 そんな特例中の特例の冒険者が現れれば元冒険者しかいないギルドの職員が気になっても仕方がないといえよう。更に言えば彼は普段自領の冒険者ギルドを使っており本部に来るのは初めてだ。ある種の都市伝説的存在とも言えた。


「"グレイオス火山"の火口付近までの許可をお願い致します。問題ないでしょうか?」


 そう言った瞬間ギルド内がざわつき始める。もしや、もしかするとーーと彼が何をしようとしているのか周りも勘づいているようであった。


「グ、グレイオス火山......、失礼致しました。グレイオス火山でございますね。少々お待ちください」


 流石の受付嬢も驚きを隠せなかったようだ。しかし、それも一瞬で非礼を謝罪した後は何事もなかったかのようにパソコンで作業をし始めた。


「お待たせ致しました。グレイオス火山、火口付近までの許可証でございます。火山前に御座います、フーリ活火山研究所への提出をお願い致します」


「わかりました。ありがとうございます」


「滅相もございません。それではお気をつけて」


 それに会釈で返すとエルフレッドは早々にギルド本部を後にした。

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