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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(上)
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 チュンチュンと鳴く小鳥の囀りにもう朝が来てしまったとフェルミナは苦笑した。これではエルフレッド様の前で欠伸をしてしまうわ......とせめて侍女が起こしに来るまで少しでも眠ろうと布団を頭まで被った。瞳を閉じて少し心地良い眠りが訪れた頃に専属の侍女が起こしに来た。


「フェルミナ様。そろそろ起きて朝食に行きませんとお昼のお出かけに支度が間に合いませんよ?」


「......[クレナ]。ありがとう。そろそろ起きるようにしますね?」


 あまり回らぬ頭を抑えながら彼女は布団から起き上がる。フェルミナはクレナという専属の侍女のことが嫌いではなかったが好きという訳でもなかった。きっと自身が呆けていた時のことを引きずっているのだろうが矢鱈に子供扱いする。元来可愛い物好きということもあってか見た目が幼女にしか見えない自分を可愛がりたいのだろう。確かに大人扱いしろと言うのは無理かもしれないが十四歳相応の扱いをしてもらわないと困るのである。


 そういった面で言うと家の家族などは皆その節があって困ったものだ。姉などは特に猫可愛がりが酷く少し辟易してしまう。ーーが、まあ家族に愛されてると感じて頬が緩むところでもあるのだが......。


 ドレッサーの前に座ってクレナに身嗜みを整えてもらいながら目の下に隈がないかなどを確認しておく。悩ましくて寝れていないのを楽しみにしすぎて眠れてなかったなど()()()()()勘違いをされては困るのだ。


「本日も向日葵のように愛らしいですわ!フェルミナ様!」


「......ありがとう。クレナ」


 微笑みながら答えつつも”薔薇の様に美しい”とかが理想なのだけどと内心溜息を漏らすのである。


 朝食の場に向かうと既に家族とエルフレッドが食事の席に着いていた。侍女が整えているので、あるはずがないのだが一応寝癖を確認し手から席に着いた。


「おはようございます。遅くなってすいません」


「ふふふ、フェルミナにしては珍しいのこともあるのですの」


「本当ですね!お母様!」


 楽しげな表情の二人を見て少し顔を赤くする。珍しいことがあるなどそんなこと言わないで欲しい。


「おはようございます。フェルミナ様」


「......おはようございます。エルフレッド様」


 隣の席に座る彼を見てやはり胸の鼓動が飛び跳ねる。見た目のワイルドさと紳士的なギャップが相乗効果でカッコいい。私を庇って傷を負ったのに一言も言わずに微笑んでくれた姿が忘れられない。何より呆けていた時だっていつも真摯に向き合ってくれたのだ。気になるなという方が無理である。


「さて、そろそろ朝御飯を頂きましょう」


 ユーネ=マリア様に祈りを捧げて朝の食事に口を付けた。




 朝食を終えて歯磨きなどを終えたら準備に取り掛かる。軽く湯浴みをして香油を塗ってもらったりしていると珍しく母親が現れた。


「フェルミナ、今日はお化粧を致しましょう」


「えっ、お母様、お化粧ですか?」


 少し意外だった。普段は肌が痛むからとあまり化粧などをさせてくれるイメージがない母がどうしたのだろう、と不思議に思った。すると母は耳元の辺りに顔を寄せて周りに聞こえないくらいの声で言った。


「今日は勝負の日なのでしょう?化粧は女の武器なのだから、しっかり綺麗になりませんと」


 嫋やかに微笑む母に少し驚いた表情を浮かべた。


「髪も少し巻きましょう。そして、白の大きめ帽子を被るのですの。勿論リボンなど付いていない大人が被るものでしてよ?それに少し肩の出る白のワンピースにストールかしら?貴方はスタイルが良いのですからきっと似合いますわ」


 鏡越しに微笑む母に「ですがお母様、私身長が......」と少し悲しげに呟くと母は「大丈夫」と背中を撫でてーー。


「高いヒールを履きましょう。エルフレッド君ならしっかりエスコートしてくれるでしょうから歩きづらいことはないハズですの!足りないものは補えば大丈夫でしてよ?それよりも今日は自分が一番だというくらいに自信をもって望まないとーー」


 そして、母に指示を出された侍女長がコテで丁寧に髪を巻いていく。下地で整えられた肌にファンデーションが乗る。少し濃い目の艶やかなリップが自分じゃないくらい大人びた妖艶さを出している気がした。長めの睫毛を緩くあげて、まん丸の大きな瞳をアイライナーでアーモンド型に整える。


「ほら、大人の綺麗な女性になりましたわ!フェルミナ、私は貴女の味方でしてよ?今日はしっかり戦ってきなさい」


 綺麗になった自分の姿と母親の言葉に勇気付けられて「お母様、ありがとうございます!私、戦ってきます!」と微笑むと母は満足げに微笑んだ。


「いってらっしゃい、私の可愛いフェルミナ。今日は綺麗なレディーでしてよ!」


 その優しげな声がすごく力になってくれている気がした。




「さて、うちの娘は完璧ですの。今日は真っ向勝負で戦ってもらって、()()()()|は私が頑張らないといけませんわねぇ......」


 ユエルミーニエは侍女長にハーブティーを頼んだ後に呟いた。ヤルギス公爵家との折り合いは今のところ悪くない。今回の件だってエルフレッドの謝罪旅行のようなものだと既に伝わっているはずだ。まだ、探りきれてないがあちらの娘であるリュシカは何か問題を抱えている節があった。


(ただ、フェルミナのアフターフォローに少なくとも後二回は聖魔法をかけて貰う必要がありますの......)


 実はフラッシュバックを起こしたあの日ーー。メイリアからフェルミナへと聖魔法をかけてもらっていたユエルミーニエはあの時の回復がエルフレッドによるものだけでないことを理解していた。そして、その聖魔法の力がフェルミナの精神の”完全なる回復”の今後に関わっていることなどは言うまでもない。


 それまではユエルミーニエとて大人しくしておく必要がある。そして、その間に致命的な何かが起きないことを願うしかないのが現状だ。


(後はフェルミナ。貴女にかかっておりますの......頑張りますのよ?)


 今日のデートで少しでもエルフレッドの気持ちを動かすことが出来れば時間を稼ぐことが出来るはずである。そこからの搦め手はこちらに任せてくれれば良いとユエルミーニエはお気に入りのハーブティーを膝の上に置いて思考を巡らせるのだった。

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