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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(上)
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20

 彼がそう言って肩を竦めるとリュシカはクスクスと笑い「......意外と節穴なのか?」と尋ねてくる。


 エルフレッドは苦笑した後に「まあ、冒険者仲間のおっさんなんかの話しを聞いてるとなぁ......あと俺なら絶対にあの母親を嫁には選ばん」と憤慨した。


「ーーとか言いながら結局は母親みたいな人間を選ぶと聞くが?」


「そこは......俺にはなんとも言えんな。思春期なのか何なのかは知らんが俺にはそんなビジョンは一切無い」


「ハハハ!何を言っているのだ!お前のような思春期があるものか‼︎」


 そう言いながら楽しげに笑うリュシカに「......だから、お前は俺をなんだと思っているんだ?」とエルフレッドは苦笑した。


 冷たい秋風が吹いて引いていった。少し冷えてきたということもあってエルフレッドはそろそろ魔法訓練室に戻ろうと考えていた。リュシカにしてもこれだけの元気であれば、もう保健室に引きずる必要もないだろう。


「なあ、エルフレッド。そなたは友として私をどう思う?その......綺麗と思うか?」


 冗談めかして問われたエルフレッドは顎下に手をやって少し考えた後ーー。


「俺がそれに答えるのに最近あった良いエピソードがあるんだが」


「......なんだ?」


 少し焦ったそうな声をあげるリュシカに視線をくれてーー。


「最近エルフに会った話をしたろう?見目麗しいと有名なあの種族だ。王族の王女や正妃など、それはそれは大層美しかった。だがーー」


 エルフレッドは少し気恥ずかしくなっ他ので彼女から視線を逸らすと空を見上げながら口早に告げた。




「その二方よりもリュシカの方が綺麗なことに驚いたものだ。俺はーー」




 それを聞いたリュシカは目を丸くして驚いた後に嬉しげに顔を綻ばせてみせた。


「エルフの王族より私か?ふふふ、そうか。ならば良い」


 不意に彼女が立ち上がった。急に立ち上がったものだからフラフラとふらついて倒れそうになる。エルフレッドは慌てて立ち上がるとその体を支えてーー。


「......全く。急に立ち上がる奴があるか......」


「仕方あるまい!急にやる気に満ち溢れてしまったのだから!ーーまあ、しかし、そなたはやはりレイナ様の息子だなぁ。相手の褒め方を熟知している」


 ニヤニヤと笑う彼女に「その言い方は絶対に褒めていないだろう?」と眉を顰めた。


「まあ良い。あまり遅くなると皆が心配するぞ?」


「そうだな!それに折角の個人指導の時間がなくなってしまう!」


 彼女は楽しげな笑顔を見せるとエルフレッドの隣に並んだ。すっかり元気になった彼女を見てエルフレッドは苦笑しながら一瞥をくれたが視線を戻すと魔法訓練室へと向けて歩き始めるのだった。













○●○●













 ただの貧血だった。と笑うリュシカに女性陣が鉄分を多めに取らないとね!と声を掛けている。それを尻目にエルフレッドはボロボロに打ちのめされて床に転がっているアルベルトに頭を掻いた。


「何があった?」


「......いや、リミッター?をつけた後もずっとションボリしていたイムジャンヌさんが可哀想な気がして僕で良ければと声を掛けたらーーあれはきっと内に鬼を飼っているのだろうね......」


 あの重りをつけたままSランクの生徒を倒したのだとするならば中々のダークホースだろうと考えていたエルフレッドは、少し考えればわかるだろうにと少々呆れながらアルベルトに回復魔法をかけるのだった。


 リュシカの個人指導に戻って暫くしていると片付けの時間がやってきた。特に使った道具などはなかったが箒やモップで床を綺麗にしていると同じようにモップで床を拭いていたアーニャがニヤニヤとした表情で話しかけてきた。


「なんかリュシカがとっても元気になってるんだけどニャア〜?なんかあったミャア〜?」


 きっと保健室に向かっただけではないことは解っているのだろうが、だからといって彼女の秘密に直結するようなことは言えない。


「なにかと言う程ではないのですが起きた頃を見計らって少し話をしたんです。それが思いの外回復に繋がったようで......」


「ふ〜ん、なるほどミャ!エルフレッド殿は人を元気にする天才みたいだミャア?」


「揶揄うのはよして下さいよ、アーニャ殿下」


 エルフレッドが苦笑するとアーニャは口元を綻ばせながら「別に揶揄ってるつもりはないミャア♪」と締まらない顔で微笑んだ。


「お〜い!二人共手を動かせ!」


「そおだよぉ!王女殿下が真面目にやってるっていうのにぃ!」


 こちらを見ながら目くじらを立てる二人に「はいはい!悪かったニャア!話は終ったからちゃんとするミャア!」と返事をしてーー。


「お〜怖い怖いミャア。まっ、妾もリュシカのことは気になっていたから御礼が言いたかっただけミャ!ありがとミャ!」


 そう言って去っていくアーニャに「いえ、力になれたなら良かったです」と返して意識をモップに戻したエルフレッドは、しかしまあ、王女殿下達とは中々仲良くなれたものだと物思いにふける。アーニャの方は図書室で話していたこともあって、そう悪い感情はなかったようだがルーミャに関しては「妾はよろしくしようとは思いません!」といった様子であった。それが練習していく内に打ち解けて今では闇討ちしに来るくらいにーーあれ仲悪くなってない?


 ーーは、置いといて気安い口調で話しかけてくれる程度にはなっているのだ。大体の人間には「妾はーーですのよ」口調で話していることを考えれば自身への感情はそう悪いものではないだろう。となるとリュシカの身分関係なく仲良くなる作戦はうまくいっているのかもしれない。


「ねぇイムちゃん!今度はウチとリミッター無しで組手しようよぉ!」


「・・・言うまでもなく・・・!」


 ......もしくはただの戦闘民族かも知れないが仲良くなったと考えて良いだろう。


「さて、そろそろ良いだろう!皆!片付け終ったら今日は解散だ!」


 手に持ったモップを片付けていると清掃道具を片付けていたリュシカが話しかけてきた。


「よしっ!さてとエルフレッド!一緒に帰るぞ!」


「そうだな」


 ご機嫌な様子の彼女に微笑んで帰り支度を始めるエルフレッドだった。

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