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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(上)
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 ーーさておき秋休みだ。既に予定は決まっていて前半に自身の宿題、後半に夏休みの謝罪を兼ねたホーデンハイド公爵家への宿泊旅行である。アードヤード王立学園に入ってからというものの謝罪旅行ばかり行っているな、と自身に呆れるばかりであった。


 この小連休最終日にフェルミナの回復を祝ったお茶会が行われることが決まっており、改めて事情を知っている三大公爵家を中心とした人々との友好を再開する門出を迎えるのである。その話についてはエルフレッドも非常に感慨深いものがあった。



『ピロンッ‼︎』



 学園からの宿題をこなしていたエルフレッドはその通知音に「......来たか」と呟いた。”闘技大会攻略委員会”と名付けられたグループに『本日十七時より魔法訓練室Bが取れたので直接集合‼︎』とリュシカより連絡が届いていた。『りょうかぁい』『了解ミャア』『......間に合うとは思う』『行きます!』と続々と飛んでくるメッセージに『わかった』と返信をして宿題に戻った。


 時は始業式まで遡る。闘技大会の決定と代表五人の選出に対して他クラスが湧く中、Sクラスはお通夜のように静まり返っていた。これまでの授業内容を鑑みるに最優秀生の五人がそのまま選出されるのだろうと考えていたようだ。しかし、アマリエ先生よりエルフレッドが「学生同士の戦いに特Sクラス冒険者を出すことは当然出来ない」と除外されるや否や最後の一席を巡った熾烈なバトルが開催されたのだ。


 その光景を欠伸と共に見ていたエルフレッドは隣の席から突然肩をしばかれて振り向いた。


「やるからには優勝する‼︎だから協力してくれ‼︎」


 そうリュシカである。どうも最近調子が悪そうなために戦うこと自体あまりオススメ出来ないのだが周りには上手く体調の悪さを隠していることで順当に選出ーー。アマリエ先生などは気づいてそうなものだが止める様子はない。もしくはリュシカの鬼気迫る様子に止めかねているのだろう。普段、品行方正な彼女が意味もなくこんなことをするはずがないとーー。


 そんな鬼気迫る様子のリュシカに戦闘訓練担当に祭り上げられてしまい、こうして放課後や休日に集まっているのである。当然、この物々しいグループもリュシカが作ったものだ。まあ、周りも燃えていたので反論はないだろうが......。


「そろそろ時間か」


 余程集中していたのか、気づけば時計は十六時四十分を回ったところであった。遅れると後が怖いのでエルフレッドは学園指定のジャージに手早く着替えて自身に清めの風をかけると魔法訓練室Bに向けて走り始めた。




「みんな揃ってー「隙ありぃ‼︎」


 斜め上から強襲してきた狐耳を怪我させないようにゆっくり床に転がしてエルフレッドは来ている人間を確認する。


「また、やってるニャア......」と呆れた様子のアーニャに「もう‼︎怪我しないように風でフワッとされるのが逆に屈辱すぎるぅ‼︎」とルーミャが喚いた。


「まるで赤子の手を捻るようだね‼︎」


 ともう一人の男子最優秀生で世界政府府長の息子[アルベルト=エスターナ]が糸のような細い目で微笑んだ。顔良し、人好し、才能良しの三拍子が揃った見目麗しい男である。欠点が見当たらない。


「......手品?」


 眠そうな目を丸くして呟いたのはグレミオ=エイガーの孫にしてイヴァンヌ=テオドアの子孫という剣豪のサラブレッド[イムジャンヌ=エイガー]。放課後や休日に鍛錬のし過ぎで授業中やHR以外は寝ていることが多い。そして、その影響が出てるのか身長も含めて全体的に幼い印象を受ける。ただし、その戦闘能力は非常に高い。


 寝ているところをリュシカに人形のように抱えられ、起こされ、戦わされた結果、見事Sクラス最後の枠を勝ち取ったのだ。


「遅いぞ‼︎そなたが最後ではないか‼︎弛んでる‼︎」


 そして、時間より前に来たのに怒っているリュシカである。相変わらず余裕がない様子が感じ取れて少し憐れになる。


「すまんな。後半の予定を考えて宿題をしていたら時間を忘れてしまってな。気を付ける」


 そんな気持ちで接すると、どうも親心のように甘々な対応になってしまうエルフレッドだったがリュシカは片眉を釣り上げて真顔になった。


「それなら仕方ないが......その妙に大人な対応は辞めろ。腹立たしい」


......非常に不安定な精神状態のようだ。


「まあまあ、とりあえず鍛錬するミャ。学園の代表に選ばれるためには三年Sクラス相手にも良い結果を出さないといけないからニャア......骨が折れるミャ」


「う〜ん。二年Sクラスも気になるけどぉ。やっぱり、カーレス様とレーベン王太子殿下は学生の域を超越してるだろうしぃ?禁止枠ギリギリって感じ〜?」


「特にカーレス公爵子息殿は既に王国軍第一師団に内定するようなお方だから気をつけないとね」


「......王国軍第一師団......羨ましい......」


 ぬぼ〜としながら告げるイムジャンヌに「そこか?というより、ちゃんと寝たか?」と思わず突っ込んだエルフレッドだった。


「ふんっ‼︎確かに兄上は強いが、その為のエルフレッドよ!さあ、今日もしっかりトレーニングをつけてくれ!」


 そう言って肩を叩いてくるリュシカに「わかった。全力で努める」と答えながらリュシカに必要なのは鍛錬より休息だろうなぁ......と頭を搔くのだった。













○●○●













 そして、ホーデンハイド公爵家にお世話になる前日ーー。それぞれの得意とする武器の訓練をつけながら、あれこれアドバイスを出していると獣人姉妹が手をあげた。


「ねぇ、エルフレッドぉ。ちょっと組手とかしない?どのくらい成果出てるか確かめてみたいんだけどぉ?」


「そうだミャア。この期間の基礎訓練で身体の動かし方が良くなったのはわかったけどミャ!実戦感覚も磨きたいミャ!」


 体捌きや重心移動、得意武器の理解度の上昇ーー。そういった基礎訓練の積み重ねを行なっていたのだが習熟度的に物足りなくなってきのかもしれない。


「......今宵は月が紅い......」


「イムジャンヌさん、まだ昼だよ?紅いの太陽だから......って剣を抜かないで!そして、僕に向けないで‼︎」


 相変わらずの祖父譲りの綺麗な青眼の構えでアルベルトに狙いを定めているイムジャンヌ。突っ込みを入れながらも得意とする他属性の魔法を効率的に使う杖を取り出して彼は応戦の意思を見せた。


「やらせて見ればいい。そなたも皆がどの程度戦えるか指標が必要であろう?」


「確かにな。力量で一組ずつ組み合わせるか俺が全員見てみるか......」


 その瞬間、背筋がゾワリと泡立った。実際、部屋の温度が下がったのではないかと思うほどの悪寒にエルフレッドは辺りを見渡した。


「......エルフレッドってぇ、獣人の全力でもオッケーだよねぇ?」


「そうミャア。あのフェルミナの全力も大丈夫だったそうだしミャア?」


「多重防壁に他属性合成......常人なら危険だけどエルフレッド君なら......」


「......リミッター解除」


 皆が怪し気な視線を向けながら笑う中、ボトボトとイムジャンヌが何kgあるか解らない重りを外しはじめた。


「稽古はつけれて一日一人といったところであろう?どれ、今日は私の稽古をつけてくれ......」


 スラリ、と小回りのきく曲刀を抜いてニヤリと凶悪な笑みと視線を向けてくるリュシカにエルフレッドは困ったものだと肩を竦めるのだった。


「リュシカの言う通り一日一人までだ。とりあえず公平にジャンケンでもしてくれ」

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