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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(上)
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 いつもの黒に青線の正装に着替えたエルフレッドはグレンナの案内を受けて謁見の間へと向かう。白の大理石を思わせる光沢ある壁や床が白の万年樹の材であるとは中々に信じ難いことだ。


「エルフレッド=ユーネリウス=バーンシュルツ伯爵子息をお連れ致しました」


 グレンナの言葉に扉前に立っていた二人の警備兵が荘厳な赤の扉を開けた。中にはアリエルと一見アリエルとさして年齢の変わらないように見える二人の男女が玉座と思わしき椅子に座していた。


 エルフレッドが三人の前で礼をして片膝をつこうとすると上の段より焦ったような声が届いた。


「ユ、ユーネリウス様‼︎神の御子であられる貴方が我々に礼など不要です‼︎」


「そうですよ‼︎ユーネ=マリア様の御子様なのですから本来ならば我々が立って迎えるべきなのです‼︎ただ、人としての役職をお持ちであられるようでしたので、このような対応になりましたのよ‼︎ああ、恐ろしや恐ろしや‼︎」


 エルフレッドはそう焦り始めた国王夫妻に首を傾げながら訊ねる。


「しかし、称号として名を貰いましたが私は一介の伯爵子息でございますので王族方々に礼を失する訳には......」


 すると少し顔を青くしたアリエルは「人族ではそうなっているのですね......我々から伝えられないということがなんともどかしいのでしょう」と溜息を吐きながらーー。


「突然、両親が失礼致しました。最初にお会いした時に申し上げた通り、我々エルフに取ってユーネリウス様の名は特別な意味を持つのです。そのように礼を尽くすことは不要だとお考えください」


「......かしこまりました。それでは最低限の礼だけは尽くさせて頂きます。要件ですが我が国王陛下より書簡を受けております。一度そちらをご覧下さいませ」


 ようやく落ち着いた国王夫妻はそれぞれコウディアス、エウネリアと名乗った。エルフレッドから受け取った書簡を一読したコウディアスはその書簡を大臣に渡すとエルフレッドへと微笑みかけた。


「かしこまりました。将来ユーネリウス様が統治される土地に我が領があるということですね。同盟を希望ということですが我々としては領内に組み込んで頂くことを希望致します」


「ええ。そして、将来は私達の姫とユーネリウス様の御子を御婚姻させてい頂ければ我々エルフ族は安泰なのですよ?」


 さてさて困ったことになった。領地に組み込む事自体は諸手を挙げて賛成したいが他国の王が属国となった場合、基本的な爵位は侯爵もしくは公爵だ。そうなると領地としてはバーンシュルツ家の方が上だが爵位はエルフ族が上という歪な構造が出来上がってしまう。何より自身の婚姻ではなく、まだ存在しない子供との婚姻約束で領地を譲ると言われても頷き難いこと、この上なしだ。


「かしこまりました。私としては問題ない部分が多い内容ですが国に持ち帰らないと返信が難しいところで御座います。我が王に話せる限りで良いので書簡を書いて頂けると有り難く存じます」


「かしこまりました。どうやら人族では我々と考え方が違う部分が見られます。きっと別国間の神託ということもあって差異が出ているのでしょう。私が代表して人族の王へと説明させていただきますので書簡での連絡の後に訪問させて頂きます」


「かしこまりました。我々からすれば伝説の種族であるエルフ国の国王に訪問頂けるとあれば、我が国の民も国王陛下も喜びましょう」


 エルフレッドの言葉に王族三人は顔を見合わせると頷きあった。


「ユーネリウス様、有難うございます。それでは私は一度書簡の準備を致しますのでユーネリウス様は客間にてお待ちください」


「かしこまりました。それではお待ちしております。突然の来訪に御対応頂き有難うございました」


 そうして退室したエルフレッドはグレンナに伴われて客間へと向かうのだった。


 その様子を扉が閉まるまで満面の笑みで見送っていた王族三人はエルフレッドの気配が遠ざかるや否や顔を寄せ合ってーー。


「ど、どういうことだ?この状況はまるでわからん!アリエル、精霊様はなんと仰っておられるのだ‼︎」


「お、お父様。それが精霊様もあまりのショックで白目をむいて泡を吹かれて失神しておられまして......」


「そうでしょうとも!私もユーネリウス様が膝をつこうとした時は私達は許されざる罪でも犯したのではないかと気が遠くなりましたよ‼︎」


 コウディアスは一度思考するようにしがら瞳を閉じると真剣な表情で告げた。


「アリエル、お前は精霊様への問いかけを続けよ。そこが解らねばどうしようもない」


「かしこまりました。お父様!」


「エウネリア、そなたは即偉大なる母上との神託を頼む。予想外のことが起きすぎて我々では対処不能だ」


「ええ、貴方。やはり御子のことは、その母に訪ねるのが一番ですからね!」


 するとアリエルは血の気が引いた表情で目を見開いた。


「お母様、神託の交信が難しいのは解りますが石を投げろとかもうやめて下さいね?ユーネリウス様がお優しい方でしたから助かりましたが次は首を落とされても文句は言えませんよ?」


「わ、わかってますわ‼︎私だって貴女の首が飛ぶところなんて見たくありませんもの‼︎慎重に慎重を重ねますから‼︎」


 母親からユーネリウス様に石を投げろという神託があったと告げられた時、アリエルは三百年間敬虔な信徒として生きてきた我が身を振り返って自身は前世で何か許されぬ罪を犯したのだろうか?と意識が遠くなったものだ。


「各々慎重かつ迅速に頼むぞ?ユーネリウス様を待たせていることを忘れるな‼︎一度解散‼︎」


「「はい!貴女(お父様)‼︎」」


 それから何千年という歴史を持つエルフの王族史上最も慌ただしく難解な一日が始まるのだった。その原因が誰なのかは言うまでもなかったが......。

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