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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(上)
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 良い買い物が出来たと喜ぶ母親と自領邸宅へと帰宅した次の日ーー。


 早速、物体転移を使った魔法便にて国王陛下よりエルフへの勅使として族長に渡す手紙が送られてきた。勅命の文書を読み終えて期間の定めはないが極力早い接触を望むということが書いて会ったので早速向かうことにしたのである。


 理由は単純で北西湿地帯、森林内のどこかにエルフが住んでいるということまでは解っているが、それ以上のことが解らないからだ。そんなに広い大森林というわけでもないが見つかるまでに時間がかかる可能性は零ではない。


(接触を図ってきたくらいだから、そう長くはかかるまい)


 一応野宿の道具はあるが近くの街の宿で泊まれば良いし最悪転移で邸宅に戻れば良いので使うこともないだろう。家族と共に昼食を食べたエルフレッドは早速北西湿地帯へと転移した。


 湧き水があったポイントで水を飲み風の魔力を巡らせて辺りを探るエルフレッド。やはり、森の民ということもあって森の浅い場所には居ないらしい。魔力に反応したのか襲いかかってきた食人植物を大剣で真っ二つにしながら森林を奥へと進む。


 探索の範囲をキープしつつ奥へと進んでいくが今のところ何かが見つかる様子はない。エルフレッドの強さでは倒すのを躊躇うほどの雑魚の魔物が点在している程度である。


(また、雑魚か)


 探索に掛かっていたが無視していた羽音に振り向けば体長三十cm程の蜂型の魔物ビーが十体、エルフレッドを追って現れた。この規模ならCランク相当の驚異だが特段思うこともない。飛ばしてきた毒針を風を纏った大剣の外から内への一凪で弾き返し、返す一凪で一掃する。一瞬である。高密度の風の刃で胴体を分断されたビーは切られたことに気づかず飛んで地に落ちた。


「ふむ......ここら辺にも居ないか」


 森の中心にはまだ距離があるが中腹付近には入ったところ、未だ集落のようなものは見当たらない。無論、結界で隠している可能性もあるが、そこは風魔法での探索の利点がある。もし結界などがあればドーム状に避けて風は流れていくだろう。その空間が何かまでは解らないが結界に護られた何かがあることは直ぐに解るのである。


 一旦、探索の魔法を切って水筒に入れた湧き水を飲む。森の中腹は不思議な程に澄んだ空気に包まれていた。涼やかな風が木々の間を通り抜けては戻ってくる。湿り気があり冷える感じはするが湿地帯で感じていたジメジメとした不快感は一切しない。森が深いからだろうか清浄で良質な風はエルフレッドにとって非常に心地よいものであった。


 焦る勅命ではないと暫くそうしていたのだが、どうやら相手の方から来てくれたようだ。前々から思っていたがエルフは独特の動き方をする。羽がある訳でもないのに木々の枝をフワリ、フワリと渡るのである。人型ではあるが人族よりはるかに強い魔力を持ち弓を得意としている。その特徴を気配で感じ取って我々人族がエルフと呼んでいるもので間違いないだろうと確信した。


 八方から突き刺さる警戒したような視線に立ち上がり、からっていた大剣を入れ物ごと放ったエルフレッドは視線をくれている者達に届く程度の声で告げた。


「偉大なる森の民よ!我が名はエルフレッド=ユーネリウス=バーンシュルツだ!今代人族の英雄としてユーネ=マリア神から神託を授かったものだ!本日はアードヤード王国の勅使として来ている!この通り武器は捨てた!話が解る者は居るか!」


 視線がエルフレッドから外れて困惑するように見合っている。前回行動に移した者とは違い、今回は偵察隊のような者だったのだろう。暫くしていると透き通った音色の笛のような声で「解る者に確認する!しばし待て!」との返答と共に視線が去っていった。


「ここにて待つ!」


 去っていく視線にそれだけ答えるとエルフレッドは腰を下ろして、先程見つけて捥いでおいた木通を齧るのだった。そうして十分くらいたった頃だろうか。木通で汚れた手や口元を清めの風で綺麗にしていたエルフレッドは樹の精霊を三体程引き連れて近づいてくるエルフの女性に姿勢を正した。


「お待たせしました。人族の英雄エルフレッド様。以前は石を投げるような真似をして申し訳ありません。私エルフ族第三の姫である[アリエル=イルネミナ]と申します。我が父である国王より我々の城へと案内するよう遣わされました。よろしくお願い致します」


 丁寧に頭を下げる彼女にエルフレッドもまた丁寧に返した。


「いえ、何か理由があってのことでしょう。気にしてはおりません。それにユーネリウスなどと呼ばれていますが一介の伯爵子息にわざわざ王族の方が来ていただくとは......」


「いえ、我々にとっては神託で名付けられたユーネリウス様には特別な意味が御座いますので姉達が里を出ていなければ私より上位の者が出迎えたでしょう。本日はエルフレッド様の御来訪心より歓迎いたします。さあ、こちらへ......」


 掌で示され案内役として先行するアリエルの後ろを歩きながらエルフレッドは考える。


(王族までいるとなると良くて国同士の同盟だな......)


 どの程度の規模かは解らないが国として機能していることは確かだろう。そろそろ北西湿地帯は諦めた方が良さそうだなぁとエルフレッドは王との謁見前から領地減少が頭に浮かんで心萎える思いであった。













○●○●













 エルフの国はやはり樹々や自然との融合で成り立っているようだ。何処かの国と貿易関係にあるのか家電やIT面は整備されているため、インフラ面は大差ないが大きな樹々に穴を開けたような家は人間社会で到底見ることができない代物だろう。そして、人の家として機能する大きさの大木が立ち並ぶ姿は壮観の一言である。


「ふふふ、ユーネリウス様はエルフの国が初めてのようですね。驚かれていらっしゃる」


「はい。正直驚きました。人族の間では幻の種族と言われておりますから。大木を飛ぶように移動する人々や生活様式......この様な幻想的な光景があるとは驚きに絶えません」


「そうですか。我々は長い時を生きますから影響の少ない国以外とは交流をとらないように気をつけているのです。こちらの家電などは主にライジングサンから取り寄せているのですよ?あちらも長寿が多い国ですから......宗教面以外では良いパートナーです」


 彼女の話に耳を傾けながら自身とさして変わらないように見える方々でも年上なのだろうなと視線を巡らせる。フワリ、フワリと銀糸のような髪を振り撒きながら空に舞う人々は伝説通りの美男美女だ。人族に比べ遙か高い水準にいることが見て取れた。しかし、それよりも美しいリュシカという人物を見て来たためにあまり驚きはなかった。というより、エルフより美しいリュシカという生物は本当は人族ではないのかもしれないと少々本気で考えたりするエルフレッドだった。


「こちらの白の大木が私達王族の住む城となります。現在、上の姉二人はそれぞれ別の街を収めておりますので私と両親の計三名が住んでいる王族でございます」


 白の大木と呼ばれたそれは一際大きな白の万年樹である。何を意味するかは解らないが幾何学的模様が描かれており、辺りを照らす樹の精霊が幻想さを高めていた。


「それではここからは係の者が案内いたします。お持ちであれば正装でお越しください。私も一度正装に着替えて来ますので終わりましたら謁見の間でお会いしましょう。それでは[グレンナ]。ユーネリウス様を頼みましたよ」


 そう言って去っていくアリエルを見送っているとグレンナと呼ばれた立ち振る舞いがとても綺麗なエルフがエルフレッドへと頭を下げた。


「ユーネリウス様、お待ちしておりました。我々はユーネリウス様を歓迎いたします。どうぞこちらへ......どうかなさいましたか?」


「ーーいえ、お気になさらず、少し考え事をしておりました」


「......?......かしこまりました。それではこちらに」


 小階段を登り、意外に奥行きのある白の大木を進みながらエルフレッドは音もなく苦笑を浮かべた。


(我々はユーネリウス様を歓迎致します、なんて言葉がちょっとしたトラウマなどと馬鹿なことは言えないな......)


 頭に浮かぶ聖国の方々に内心溜息を吐いてエルフレッドは案内された客間へと歩を進めるのだった。

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