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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(上)
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 王女殿下との血みどろな内容のお茶会を終えて、エルフレッドは母の待つエイガーラル不動産へと転移した。


 それにしても王女殿下とは暫く顔を合わせない方が良いだろう。大層可憐な美少女が嬉々とした表情で「なるほど弱点を......柔らかな部分をこうーー縊り◯すのですね」と、キュッとした手の動きで言った瞬間、御付きと思われる侍女が白い顔で失神しかけていたのを見るに王女殿下のこういった趣味は完全に秘匿されているようだ。


 悪い事をしたなぁ、と溜息を吐きながらエイガーラル不動産の自動ドアを潜ってVIPルームに向かうと最高級の紅茶で持て成されている母親と目が合った。


「あら、エルフレッド、ご苦労様でした。国王陛下との謁見は滞りなく終わりましたか?」


「ああ。母上。勅命と褒美を頂いてきたところだ。我が家は益々繁栄するだろうな」


 エルフレッドがそう答えるとレイナは意味有り気な表情で微笑んだ。


「流石は私の息子です。お手柄です」


「そう威張ることでもない。とはいえ、勅命後は名実共に大貴族の仲間入りだろう」


 この短いやりとりの間にエルフレッドはレイナの意図を完全に理解した。これはエイガーラル不動産の人々に向けたパフォーマンスだ。国外にも進出している大不動産会社に「王からの信認も厚い大貴族ですよーー」と上客アピールをしているのである。


 相手もやはり商人だ。如何に英雄を有する伯爵家とはいえ、ある程度の試算を組んで物件を紹介している。ならば、こちらがそれ以上だと提示できれば相手もそれ以上の試算をするものである。経営者の親族であろうエリアマネージャーの目の色が既に強い興味に変わっているのをエルフレッドは感じ取っていた。


「これはこれはエルフレッド様。良き謁見となったこと我々も嬉しく思っておりますよ?つかぬ事をお聞きしますが大貴族の仲間入りと言うのは......」


 喰いついたな、と内心ほくそ笑んだ。ここまで堂々と聴けるのは不動産会社としての力が強いこと、そして、最悪上客の一人や二人逃しても問題ない力を持っているからだろう。ならば、こちらも隠すような真似はせずに真実を持って試算を狂わせてやれば良い。


 そんな考えはおくびにも出さずにエルフレッドは「貴公を信じて言いますが内密に頼みますよ」と声を潜めた。


「勅命はさして難しいことではありません。英雄として交渉に行くという内容です。それが終わり次第ですが北西湿地帯は国境の街含めて我が領土となることになりました。そして、それに合わせて領内に法衣含む二子爵、一男爵の寄子を任命頂けるそうです。その上で領地開発が大変になることを憂慮してくださったのでしょう。王国軍より志願兵二千を配属頂けるそうです。それをもって辺境警備軍は旅団となります」


「まあ、素晴らしいですわ!陛下はエルフレッドの労にそこまで報いて下さるのですね!」


 レイナが両手を合わせて頬の前に持って来て喜んで見せると、アルドバンはギラリと瞳を輝かせた後に満面の笑みを見せた。


「それは素晴らしい!そして、将来は辺境伯でございますか!バーンシュルツ伯爵家の方々は本当に素晴らしい才能をお持ちですね!ーーあっ、これは大変申し訳ありません!このような大事な時に()()()()連絡が......」


 マナーモードで鳴り始めた電話に態とらしくそう答えてアルドバンは部屋を出ていった。連絡をお願いしたのか、アラームで電話を鳴らしたのかだろう。代表取締役かは解らないが上席に連絡を入れているのは間違いなく、これで現状よりワンランク以上の物件は決まったようなものだ。


「......母上。今紹介されている物件では不満だったか?」


  人が居ないのを見て耳打ちすると母は「いえね......」と微笑んでーー。


「不満は全くないのですが良ければ良いに越したことはないでしょう?王都に近い別荘から王都内の別宅になった方が隠居後も楽しめそうですし」


「......なるほど」


 そう返しながら将来のことに思いを馳せてみると確かに王都に家があるのも悪くはないなと思った。アードヤード王立学園は全寮制のため関係ないが、例えば自身が王都に行く用事がある時に転移の拠点として使わせて貰うのもありだし、自身の子供が王都付近の学園に行くことになった時に住まわせてもらうのにも丁度良い。


 唯一の欠点は王都暮しが良すぎて親が早く隠居したがりそうなことだが最近は自身も七大巨龍さえ倒せれば、その後は領主仕事に力を注ぐのも良い程度には考えていたのでアードヤード学園在学期間中に全て倒しきれば問題ない話でもある。


「あっ、お待たせいたしました!レイナ様、エルフレッド様!何処で聞きつけたのか代表取締役から連絡が有りまして......バーンシュルツ伯爵家の方々に紹介すべき物件はそこではないだろう!と私少々注意を受けた次第でございます。その謝罪を込めまして王都第四層にご紹介したい物件があるのですが一度ご内覧如何でしょうか?」


 当社の馬車でご案内いたしますのでというアルドバンの言葉に二人は顔を見合わせるのだった。




 そこは第四層トンネルより一km程の所にあるゴシック調の豪邸であった。




「こちらは然る法衣侯爵の住居でございましたが領地を得たことで住居を移し空き家となっておりました。第四層物件はどれも値段がするのですがこちらに関しては空き家となって暫くは管理のみの状態であった為、手頃且つ品の良い物件となっています」


「中を見せて頂いても?」


「もちろんですよ!レイナ様!存分にご覧下さい!」


 表面上取り繕っているがエルフレッドには解る。どうやら母親はこの物件が気に入ったらしい。門から家まで真っ直ぐに伸びる白道ーーその両隣を趣味の良い草花が植えられた庭が走っている。二本の塔が角のように伸び、その間で連なった建物には芸術的文様が描かれていた。


 そして、そこが主な住居のようだ。内装は豪華絢爛というより洗練された美である。そんな言い方もどうかと思うが敷いているカーペットの毛一本まで突き詰めた感があった。


 移動して塔は下にそれぞれダンスホールとパーティーホールが設置されおりエレベーターで上に上がると客室使いが出来そうな風呂とトイレが別々に付いた部屋が三部屋ーー更に上に行くと第四層を見渡せる展望室となっている。


 母の様子を見ているとここで決まりだろうな、と思ったエルフレッドはアルドバンに費用の計算を頼んだ。


「母上、ここで良いな?」


 エルフレッドが訊ねるとレイナは聞いているのかいないのか展望室でクルリと回ってーー。


「ここで星を見ながら皆でワインを楽しんだらとっても素敵な一時になりそうだわぁ!」


 とすっかり夢心地だ。こういう無駄のない美しさを愛している母にとっては至福の時なのだろう。邪魔をするのも気が引けたので少し離れた場所でアルドバンと支払いの話をする。


「本来はこの料金なのですが今後の付き合いと......出来れば新領都内での支店設立を譲歩頂ければと考えておりまして、エヴァンス様にお話を通して頂けるのならば、この値段で......勿論、屋内クリーニングなども全て含ませて頂きます」


 大体巨龍の報酬半分位の料金だったが、それを報酬三分の一程度まで下げてくれるそうだ。


「ここまでしてくれるのであれば話を通しましょう。ギルドカード一括払いで大丈夫ですか?」


「ありがとうございます!ここまでの金額になると逆に現金の方が警備代などで経費が嵩みますから私共も助かりますよ!」


 確かに十億を超える金額の輸送となると警備代は恐ろしいことになりそうだな、とエルフレッドは空間解放の中からギルドカードを取り出してアルドバンへと渡した。彼はその上限無制限のギルドカード、ブラックカードを受け取ると満面の笑みで清算を開始するのだった。




 アードヤード王立学園Aクラス卒業のアルドバン=エネメイア=エイガーラルは実力はあったが家族内での序列が低く、エリアマネージャーが限界だろうと考えられていた人物であった。しかし、このバーンシュルツ伯爵家との交渉の一件で一族の頂点に立つ祖父に認められる。そして、その発言力を高めたことで出世街道をひた走ることになるのはまた別の話である。

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