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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(上)
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12

 謁見の間にて片膝をついて指示を待っていたエルフレッドに国王陛下より「面を上げよ」との声が掛かった。


「まずは北東平定及び氷海の巨龍討伐共に大義であった。グランラシア聖国より感謝の書面が届いておる。そなたも後で読むがよい」


「かしこまりました」


「ーーして、今回の件だが、将来的に平定後下賜予定としたかのグランラシア聖国国境付近の北西湿地帯にてエルフを発見したということで間違いないな?」


「はい。私が氷海の巨龍討伐に出た際、国境越えに利用したところで接触を図って参りました。人数は四名。会話はありませんでしたがユーネリウスに選ばれた私が如何程かを確認するような行動を取って去って行きました」


「なるほど。一応確認だが我が国側の領土にいる可能性が高いということで間違いないな?」


 エルフレッドは一瞬その地域周辺の地理を思い浮かべて頷いた。


「はい。将来の予定を考えて地理を確認したところ滝に挟まれた聖国側に森は無く、アードヤード側の森も湿地帯を抜けるとアリアの涙を有するレドヴァンヌ大河にて分断されております。我が国の領土にいる可能性が高く、世界政府領土にいる可能性は僅かと考えます」 


 リュードベックは顎下に手をやって少し考えているようであったが正妃殿下に視線をくれると微笑んだ。


「確かに。クリスタニアとアリアの滝を見に行った時もそのような土地であったな?」


「ふふふ、確かにそうでしたね。陛下」


 一瞬和気藹々とした会話を楽しんでいた彼だったが、真剣な表情のまま、こちらを見つめているエルフレッドへと視線を戻すとコホンッと咳払いを一つ打った。


「まあ良い。そなたの言うとおりで間違いはないだろう。そして、態々そなたの前に顔を出したということであれば、そなたの訪問ならば応じる可能性が高いだろう。そなたの考えは如何か?」


「リュードベック国王陛下の御考察と私も同意見でございます。異論はございません」


「そうか。ならば勅使としての任を出そう。近日中に文を用意して命を出す故に心して取り掛かるように」


「畏まりました。王命とあらば喜んで承ります」


 彼が頭を下げるとクリスタニアは楽しげに微笑んだ。


「男の子は母親に似るとよく言うものだけど......その後、聞いてみたのかしら?」


「......恥ずかしながら問いましたところ何かを極めようとする性質は自身に似ているということです。以前は目元の辺りも似ていたと」


「あら、そうだったの?でしたら今はすっかり変わってしまったのですねぇ」


 微笑ましげな表情を浮かべる彼女に国王陛下は態とらしく咳を打ってーー。


「エルフレッド。儂はこれまでのことを考えるとそなたには大層世話になったと考えている。我が国には他国に出せるものが少ない故にそなたの働きは我が国にとって最大のものであろう。しかし、それと同時にまだ未成年であり、一学生であるそなたにそこまでの労をかけさせていることを心苦しく感じている部分があるのも事実だ。褒美という形でしか対応出来ない儂を許せ」


「そのような......臣民であり忠誠を誓う私にはそのような言葉は不要でございます。この国にのためになるならば身を粉にして尽くす所存、慈悲深き言葉に感動の至でございます」


 実際には面倒に感じている部分もあるが、数多の勲章授与や報酬、一平民から次期辺境伯までの陞爵を含む褒美はアードヤード王国並び国王陛下の裁量によるものが大きい。エルフレッド側は親との約束を果たしながら自身がやりたいことをやっただけのことである。最近では巨龍討伐後の第二人生として辺境伯を突き詰めるのも楽しそうだ、とさえ考えていた。


「無論正当な報酬は渡してきたつもりではあるがーーそなたは元平民故か自身の功績を余程見誤っているように思う......あの者たちが関わっていないのなら娘をというところだが......」


  ゴニョゴニョとエルフレッドに聞こえぬように呟いた言葉にクリスタニアは扇子で口元を隠しながら告げる。


「三大公爵家との関係のためならば頷けますが個人の言葉なら感心致しませんね」


「そなたとて中等部よりお姉様方はーーと恐れておるくせによく言うわ。それにそなたは学園時代のユエルミーニエを知らんからそんなことが言えるのだぞ?学園中が恐れたーーどれほどの女傑だったか......」


 少々気分を害したクリスタニアが「今度のお茶会でユエルミーニエお姉様にお伝えしておきますね」と伝えると国王陛下は顔色を青ざめさせた。


「......国王陛下?」


 態度には出さないが困惑している様が見て取れるエルフレッドに二人は表情を取り繕ってーー。


「ハハハ、時間を取らせたな。褒美の内容について話し合っていたところだ。一つは褒美とは呼べんかも知れないがエルフ族との問題が解決次第、北西湿地帯の領地化ーー開発を許そう。あそこは国境の街が裕福故に元より利益が出る。その利益を使えば未開の地が多いバーンシュルツ領の開発の手助けとなろう」


 エルフレッドは素直に驚いた。国境の街は利益を考えれば王国としても抑えておきたい場所だろう。それを信頼の名の下に気前良く渡すのは自身の感覚で言えば普通に褒美足り得るところだ。


「ありがとうございます。領地開拓の資金はバーンシュルツ領の最も求めるところ。我が父エヴァンスも大層喜ぶことでしょう」


「そうであろう。まあ、ここだけの話、目先の利益よりもそなたの国外流出の方が我が国にとって最大の損失であるというだけのことだ。先渡しになるだけ故に褒美としては弱かろうが、そこは許せ」


 普段は口を挟まない宰相が「陛下。あまりそのようなことは......」と苦言を呈せば「硬いことを言うな。忠信をも信じれる者は正に愚王ぞ?」と顔を顰めた。


「そして、次の褒美だが資金が潤沢に合っても人が居らねば回るまい。先の辺境警備軍の戦いに心高ぶらせた志願兵が現れてな。その者達を与えようと考えている。そなたも暫くは国に留まれぬことが多い故に北東海岸沿いでの海賊たちの動きはさぞ手を拱いていることだろう。数は二千、現有兵力と合流すれば旅団程度とはなるだろうな」


 エルフレッドは感謝の言葉を述べながら一つ考えていたことを口にしていた。


「リュードベック国王陛下誠に感謝致します。お時間を取らせて誠に申し訳ありませんが一つ確認したいことがあります。宜しいでしょうか?」


「よい。珍しいこと故好奇心さえ湧いてくる。申せ」


「有難うございます。我がバーンシュルツ領は国王陛下の多大なる褒美故に広大な敷地をもつ領となりました。そのことを非常に嬉しく感じると同時に伯爵家としての開発の責務を果たせていないこと心苦しく思います。私から進言することではないことは重々承知の上で申しますが法衣含む二子爵、一男爵の任命をここに進言致します」


 実は内々でその件については話はついているのだが発令や時期については追々という話になっていた。しかし、辺境警備軍とはいえ旅団長を名乗るものに爵位を与えぬのは些か無理がある。今が良いタイミングだと踏んだエルフレッドは自身に発言権がある今の内にその話を切り出そうと考えたのだ。


「なるほど。そなたの進言しかと聞き届けた。辺境警備軍再編後は確かに必要になるものであろうな。ならばエルフ族との問題解決後エヴァンスからの推薦を持って任命する形になるが良いか?」


「はい!突然の進言に応じていただき真に有難うございます!感謝いたします!」


 最敬礼にてそれに答えたエルフレッドに陛下は「適切な時に答えただけであろうに真に大袈裟よのう」と苦笑した。


「真に有意義な時間で合ったが公務故に失礼する。レイナを待たせていることは聞いているが我が娘がそなたの冒険談を真に気に入っておってな。少々お茶に付き合ってやってはくれぬか?」


「王女殿下がお望みならば母も嬉々として送り出してくれましょう」


 そう満面の笑みで答えながらエルフレッドは少しだけ心配になることがあった。件の王女殿下のことだが齢八歳の彼女なのだが「巨龍とはどうやって首を落とすのですか?」「魔力の暴発を故意に起こさせて破裂させるのですね!」と多少物騒なことに目を輝かせている節がある。


 王太子時代、必要とあらば最前線で戦った国王陛下や武功でのし上った王妃殿下の血の成せる技だろうが、王女殿下の教育面ではどうなのかと少々首を傾げざるを得ないのである。


「それは良かった。稀代の英雄との会話はあの子の為にもなろうて。ではクリスタニア儂らは先に行くとしよう」


「ええ行きましょう。陛下」


 未だ仲睦まじい様子で去って行く二人に頭を下げながら、ためになればいいのだがと内心苦笑する。


「以上で謁見とする。エルフレッド殿、貴殿の働きに期待する!」


 そんな宰相の言葉に礼で答えてエルフレッドは謁見の間を後にした。

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