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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(上)
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『大丈夫と思いますが、一度本人に確認して見ます!一応エルフレッド君の連絡先を乗せて貰っていいですか?』


 という至極当たり前の返信に返信を返しながらレイナはエルフレッドへと話し始める。


「新邸宅の件でというのも地盤調査が完了して問題ないことが解ったので着工することになったのですが、図案によっては完成が意外に早くて三〜五ヶ月で移動が出来そうなのです。とはいえ、王都から距離が離れ移動が大変になりますし社交のことを考えますと王宮近くに別荘を買うか建てるかを考えないといけなくなりますので都合の良い時期を確認しようと思っていました。それだけなら携帯端末でも良かったのですが出来れば明日、貴方の転移魔法で王都の不動産会社に連れて行って欲しかったので来てもらったのです」


「そういうことか。まあ、それならーー『ピロンッ‼︎』


「......誰ですか?」


「ちょっと待ってくれ。両親との連絡以外で使ったことがなくーー「今度から連絡が必要になりそうな方とは皆と連絡先を交換してください!」


 気の無い返事を返しながら連絡アプリを開くとリュシカと書かれたアイコンから連絡が来ておりーー。




『母上から言われて驚いたぞ!使ってないか興味ないかと!』


『両親以外との連絡で使ったことがなかったから忘れていた』


『忘れていた?ソナタはいつの時代の人間なんだ?』




「リュシカだった。両親以外の連絡に使っていなかったと返信したら時代錯誤も甚だしいと怒られた」


「......でしょうね。とりあえず、サイレントマナーにしておいて?話の続きをします」


「わかった」


 要点をまとめた結果、上の二つがメインの話である。それからは王都の別荘の値段を調べたり、新邸宅の図案を一緒に眺めたりした。地盤調査の結果、平原北の中腹から若干海寄りの土地が大型建築に向いていたとのことだったので建物裏面の潮風対策など細かな部分を話し合った。


 社交云々で王都に別荘を買うとはいえ、元々開拓の仕事がメインで王都内での仕事が少なく将来的には辺境伯として領内に居ることが遥かに多くなると予想されるバーンシュルツ一族のために、新邸宅は勿論のこと領都の計画はかなり慎重だ。母レイナには簡単に伝えたが、本日の開拓を終えて帰って来た父エヴァンスに将来下賜される予定である北西湿地帯にてエルフ族が棲息している可能性を伝えると王城に文を出すという返事と共に渋い顔をするのだった。


「無論、人族が勝手に決めた領地にエルフ族が従う必要はないのだろうが文化などが違いすぎてどう転ぶか解らん。少し厄介だ......」


 そして、それ以前に一家としてエルフの文化を一般レベルでしか知らず、正直疎いと言わざるを得ない状態なので王城の返信次第では勉強の必要があるなと皆で認識を深めた。場合によっては北西湿地帯での水田は諦めなければならないため領都計画にも変更が出そうである。


 ーーとまあ、そこまで話し合って今はエルフ関連は仮定であるためひとまず置いておくことにする。


「さて話は戻るが不動産関連については基本的に二人に任せることになるだろう。夏の間に終わらせたい開拓があるため少しの時間も惜しい状況だ。国から何か言われぬ限り王都に行くことがないのは決まっている。将来の隠居先にもなる可能性があるからレイナが住みやすいことを前提に選びなさい」


「かしこまりました。貴方」


「エルフレッドはそれの補助だな。そして、エルフに関する手紙は明日の朝までに仕上げておく。王城に届けてもらうことになるだろう。ユーネ=マリア神の森の子と言われていることを考えるとユーネリウス様となったエルフレッドが動かないといけなくなることは十分に考えられる。そこは覚悟しておくように」


「わかった。自分もなんとなくそんな気がしている」


 エルフレッドが苦笑すると「まあ、ユーネ=マリア様のお導きもあるのだろう」とエヴァンスは楽しげに笑った。


「各自やるべきことは以上だ。質問がなければ家族団欒の食事といこうじゃないか?丁度トート牛の食肉加工が終わって夜はステーキにしようと考えていたところだ」


「トート牛ですか‼︎あの牛は赤身でも柔からかくて美味しいから嬉しいわぁ‼︎」


「そうだな。やはり、高タンパク低カロリーの赤みが美味しく食べれるのは嬉しいことだ」


「そうだろう?この歳になると脂身が強いものは胃もたれするから赤身が美味しいのは良いことだな」


 折角、脂身を蓄えた柔らかい肉が有名なトート牛なのだが何故か領主一家は赤身を絶賛しているのだった。













○●○●













 次の日ーー。準備を整えたエルフレッドは父親から手紙を受け取ると母の準備が終わるのを待つ。直ぐには終わらないことは既に解っているので八割方終わっている宿題をしながら時間を潰すことにした。学力系の宿題はほぼ終わっているのだが論文系があまり進んでいない。グランラシア聖国の実態や文化についてまとめて世界史の論文を作っていたのだがこう頭に浮かぶ人物が中々に強烈すぎて群衆のイメージが薄れているのだ。更に浮かんでくる傍迷惑な巨龍などは既に実態でも文化でもないのに強いインパクトを放ちすぎていた。


「エルフレッド、そろそろ行来ますよ‼︎」


「わかった‼︎今行く‼︎」


 考えてみてたが結局あまり進まなかったそれを眺め、テーマの見直しを考えた方が良いかもしれないと本気で考え始めたエルフレッドだった。





 転移先は人が少ない第四層へと向かうトンネル付近である。ここから第三層側にある富裕層向けの不動産へと向かうのだ。馬車に乗る人が多い中で転移と徒歩で移動する人間は珍しいが、それがエルフレッドやその家族だと驚く人はいない。勲章授与の式典から彼の名前を知らない者はアードヤードにはいないからである。


 日傘を差す母親をエスコートすると周りの人達が「バーンシュルツ伯爵家の方々が歩いているわ!」「バーンシュルツの美妃様は今日も美しい!」「今代ユーネリウス様の凛々しきことよ!」などと口々に騒いでいるが関心を集めるのは仕方ないことだ。母などはそれを楽しんでいる節さえあるのでエルフレッドは何も言わない。


 不動産会社の店舗に足を踏み入れると中から店舗の責任者が上席を連れて現れた。


「本日はエイガーラル不動産へとお越し頂き誠に有難うございます。私、エリアマネージャーを務めます。[アルドバン=エネメイア=エイガーラル]と申します」


 レイナは名刺を受け取ると微笑んでーー。


「レイナ=バーンシュルツですわ。よろしくお願い致しますね」


「エルフレッド=ユーネリウス=バーンシュルツです。所用にて一度席を外しますが母をよろしくお願いします」


 エスコートを代わってもらったエルフレッドは母親に目配せして頷くと早々に出口へと向かった。


「かしこまりました。謹んで承ります。バーンシュルツ伯爵家家令のルフレイン様より内容は既に伺っております。条件に合う物件を数件用意しておりますのでバーンシュルツ伯爵夫人に置かれましては資料を御覧になられますか?」


「ええ、よろしくお願いします」


 そんな母とアルドバンのやりとりを尻目にエルフレッドは王城前へと転移した。アードヤード王城前より200m程手前に転移したエルフレッドは胸のポケットに入った書簡を確認すると城門を守る門番へと話しかけた。


「突然失礼します。エルフレッド=ユーネリウス=バーンシュルツです。バーンシュルツ領外、北西湿地帯にてエルフが発見された為、書簡にて連絡に参りました。お渡し頂いてもよろしいでしょうか?」


 彼がそう声を掛けると若い門兵は驚いた表情を浮かべた。


「エルフレッド様⁉︎我々にそのような丁寧な対応は不要で御座います‼︎急ぎ確認いたしますので、このままでお待ちください‼︎」


 そうして中へと消えていった兵士は数分もせず戻ってきてーー。


「リュードベック国王陛下より書簡内容についての確認と任務を申しつけたいとのことです!一度、客間にてお待ちください!」


「......かしこまりましたとお伝えください」


 やはり面倒なことになったなぁ、とエルフレッドは内心溜息を漏らすのだった。

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