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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(上)
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9

「その経験から私の問題にも首を突っ込めなくなったということか?」


 慰めるような口調でそう聞いてくるリュシカにエルフレッドは苦笑してーー。


「それだけとは言えない。無論、状況から家族にも言えないことが俺に言えるとは思えないというのもある。人の目が気になるなら夜の寮で話してくれれば良いだけのことだ。だから、少なくとも今は俺に話せる内容ではないのだろうと考えていた」


「確かにそうだな。......立場もあるからしなぁ......」


 ハーブティーに口を付けた彼女は少し落ち着いた様子であった。吹き付ける風に髪を抑えて花壇の花を愛でるくらいには余裕が出来たようだ。


「質問ばかりですまぬが聞きたいことがある」


「気にするな。俺もあとでクレイランド帝国について聞こうと思っていた」


「......クレイランド帝国についてか?」


「ああ、冬の巨龍討伐は砂獄の巨龍にしようと考えている」


「なるほどな。コルニトワ叔母様の話か」


「そうだ。中立国だが巨龍討伐を推し進めてよいか迷うところがあった故に足掛かりになればと思ってな」


「まあよい。コルニトワ叔母様なら個人的にも連絡が取れるから色々聞いておこう。まあ、質問だが私は先ほどペロッと喋ってしまったが守秘義務などもあるだろうし教えれる範囲でいい。フェルミナは何故あそこまでおかしくなってしまったのだ?」


 その質問の意図することは解りかねたが広範囲に守秘義務が引かれているのは確かである。具体的な内容は一切駄目だろう。


「わかった。言えることは極僅かな上に俺も全貌を把握していないからそれで良ければな。ーーまず、どこまで知っている?」


「そうだな。私側も喋っていい内容ならば数年に渡り虐めにあって退行したということぐらいか」


 概要としてはほぼ知っているが詳しい話は聞けていないということだろう。それを知ってどうしたいのか今一解らないがもしくは彼女の問題に関わることなのかもしれない。


「そこまで知っているとなると話せることは被害者目線で見た虐めの概要ぐらいだな」


「......ふむ聞こう」


「全ては首謀者に仕組まれたことだっだがフェルミナ様に大きなダメージを与えたことは二つ。孤独と尊厳の否定だ。俺が知らぬ要因があるかもしれんがこの二つは何方にしても大きい」


「孤独と尊厳の否定で人はあそこまで破壊されるものなのか?」


 彼女は少し不思議そうにしているがやり方まで伝えられないのが本当に悔やまれる。


「そうだな。まず孤独に関しては長期間の間、味方が居ない状態を仕立て上げられた。フェルミナ様の目線で見れば味方は零だ」


「零?家族も含めてか?」


「そこは寧ろ俺よりリュシカの方が詳しいだろうが、あの当時ユエルミーニエ樣の体調が悪くて家族はそれを救うために必死だった。そこを利用されたという訳だ」


「なるほどな......他に味方はとも思わぬこともないが零と聞いて胸糞悪い想像が出来た」


「まあ、そういうことだ。そして、尊厳の否定も似たところをついたのだ。例えば、上の例で想像できると思うが家族が助けに来ないのはーー」


「お前が公爵令嬢に相応しくないからーーか。ふむ。なるほどな。まあ、あくまでも予想だがフェルミナがそう扱われる隙があるとするならば、それは獣人的特徴ぐらいだろうな。アイツは私が知る限りでも相当上位の頭の良さだ。見た目も愛らしい。性格も女の子らしい女の子だ。そして年の割にしっかりしていた。普通なら人気者でもおかしくない」


 リュシカの予想は素晴らしくフェルミナへの総評もエルフレッドと一緒である。故にフェルミナの総評にだけ言葉を返すように「確かにそうだな」と答えた。すると彼女は察したように一つ頷いて考える素振りを見せた後「エルフレッド」と手招きをした。


「どうした?」


 顔を近づけたエルフレッドにリュシカは周りに聞かれないようにと声を潜めーー。


「一瞬でいい。遮音魔法を使えるか?」


「わかった」


 エルフレッドは中級風魔法レベルの魔力で一〇秒程保つ風の檻を発動させる。


「なにがあった?」


「内容は言えない。だが、夜に話しかていける理由を聞いて欲しい」


 彼女は少し思いつめたような表情で吐き出すように言った。













「......トラウマがあるのだ。眠れぬ夜は身体の痛みと戦っている」













○●○●













 それを見てしまったのは偶々だった。小言に機嫌を崩してエルフレッドと飛び出していった妹に溜息を吐き、一度母親に顔を見せに行ったところ「仲直りして連れて来なさい」と言われたので何故俺が......と思いながらも仕方なく二人が向かって行ったと思われるテラスの方へと向かったのだ。


 そこで魔法の発動を感じて慌てて見に行ったところ器用な風魔法で上手く遮音されているテラスの中に二人が居た。二人が何を喋っているのかその声は一切聞こえなかったが妹の口の動きが少しだけ見えた。”トラウマ......戦っている”カーレスは二人にバレないように身を隠し口元を押えた


 遮音魔法をかけさせたのは状況から見て妹だろう。妹は家族に聞かれることを恐れてエルフレッドに遮音魔法を掛けさせた。そして、その聞かせたくない内容がトラウマーー戦っている。無論、この二語だけでも話は繋がるが間の言葉も重要だったように思う。


 トラウマを抱えていて何と戦っているのか?そこが解れば解決の糸筋が見えてくると言うものだが......その後、二人は俺の存在に気付かないままコル二トワ叔母様の話を始めたので一旦そこを後にする。母親に二人が仲良く喋って居たので邪魔するのは気が引けたと告げると母親は大層嬉しそうに「それは邪魔できないですわ!」と微笑んでいた。


(......まさか母親公認なのか?)


 そんなことを考えながら自室へと戻ったカーレスは妹がトラウマを抱えそうな出来事を考え始め、やはり、アレしかないだろう、と携帯端末を開いた。




 国際テロ組織による連続婦女子誘拐事件。




 リュシカが巻き込まれた最大規模の誘拐事件とも言えるそれの間に何があったのか?妹は救助後の検査で心身共に健康と言われて退院したハズだが......。


(一度調べ直してみる必要があるようだ)


 カーレスはそう考えるとまずは一般的な資料でおかしな点がないか探してみることにするのだった。




「う〜む。やはり、キャラが濃ゆいな......」


 コル二トワ正妃殿下の話を聞いていたエルフレッドの第一感想はそれだった。


「確かにな!」


 と爆笑しているリュシカだが結構笑いごとではないエピソードが多々あった。例えば、コル二トワはあまりノーと言わないタイプと言うか、どっちでも良いことは(あんまり喋らないので)頷いて同意するタイプだそうでアズラエル皇帝陛下とのご成婚も「......頷いてたら結婚してた」と言ったそうだ。エルフレッドの感想は当たらずしも遠からずである。


 他にもリュシカが三歳の時にリュシカを抱いたメイリアが御祝品を持っていったのだが「お姉様プレゼントですよ」と言うと珍しく目を輝かせた彼女は「......ありがとう」と言いながら三歳のリュシカをヒョイッと抱き上げて連れて帰ろうとしたそうであわや一大事になりかけたという。


 そんな彼女だが水魔法を得意とする大聖女とあって砂漠の民に感謝感激で迎え入れられ納まるべきところに納まったというのだから謎である。


「そのエピソードのせいか私が顔見せると大層喜んで我が子のように可愛がってくれるのだぞ!」


 リュシカは頬を綻ばせて喜ぶが三児の母として我が子を育てている今でも彼女が向かうと「......可愛い我が子」と言って可愛がってくれると言う話を聞くいていると未だにプレゼントと勘違いしているだけなのではないかという考えが頭を過って背筋がゾッと凍りついたエルフレッドであった。

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