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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(上)
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7

 先に帰ってきたホーデンハイド公爵家の方々に呼ばれてエルフレッドは家庭教師の仕事へと向かった。回復したとはいえ何が引き金になって精神的な負荷になるか解らない状態は変わっていない、と医者に言われたそうなので考慮した上での課題作成は相変わらずだ。


「アーニャお姉様ったら”バミューダトライアングルはメタンハイドレードが原因ミャア”なんて言うんですよ?だとするなら瞬間移動とか説明出来ないではないですか?だから、私は磁気が原因でワームホールが発生してる言ったのですけど......きっと飲酒が可能な年齢になったから少し酔っ払っていたのでしょうね?」


 クスクスッ、と楽しげに笑うフェルミナに風属性ということもあってマイクロバースト説はありえるなと思っていたエルフレッドは曖昧に笑うだけに留めた。それにしても素面探すのが大変と言っていた彼女が飲酒の年齢を忘れて宴会に行くなんて余程フェルミナと会いたかったのだろうと思った。


「お祖母様は急に”もうこっちに住むと良いミャア!人族には任せてはおけないニャア!”なんて言って大騒ぎでーーあらやだ、私ったら楽しくなってしまって、ついついお喋りをしてしまいました!エルレッド様ごめんなさい!」


「いえ、良いのですよ?楽しそうな様子が伝わってきて私も安心しました」


 彼がそう微笑むとフェルミナは不満げに頬を膨らませた。


「もう、そうやって直ぐに甘やかして......私も立派なレディーなのですから、そうやって子供扱いするのはよしてください」


 プイッと顔を逸らす様が正に子供らしいのだが男性より女性の方が心の成長が早いと考えれば、その言葉も強ち否定は出来ない。


「これはこれは......そう受け取られる対応になってしまったなら失礼致しました。私もフェルミナ様は立派なレディーだと思っておりますよ?」


「......もう!絶対思ってないんだから」


 ついつい微笑ましさが顔に出てしまったのだろう。そう言って勉強に戻るフェルミナを見ながらエルフレッドはついつい頬を緩めてしまうのだった。




 もう恒例となっている夕飯である。とはいっても正直なところ今日の彼女を見ているとあまり心配な点はないように思えた。無論、完全に大丈夫という保証は無いが心理的後遺症以外での不安点が見当たらなくなっている。あと何回か様子を見て結果が良ければ、一旦自身での勉強に切り替えるのも視野にいれるのもいいかも知れない。もしくはこの一年の間に出来なかったんマナーを詰めるなどもありだ。


「フェルミナの様子は如何ですの?」


 少し心配そうな表情のユエルミーニエに微笑んでエルフレッドはナイフとフォークを置いた。


「本日の様子を見る限りでは全く問題ないと思います。寧ろ、流石女性と言いますか心の成長が早いと申しますかーー」


 元来、心の成長が早いというのも回復が早いというのもある。とエルフレッドは考えたが考えようによっては元々持っていたものが素晴らしかったのかもしれない。初等教育六年生の時点で大人びていて、そこから成長して今があると考えればより自然だ。子供扱いをされたと怒られた話を耳に入れるとユエルミーニエは嫋やかに微笑んでーー。


「まあ、フェルミナがそんなことを......そうなのですね、確かに女の子は何歳であっても女性な面がありますから、あの時の状態から突然変わったら驚きがあるのかも知れませんねぇ。それにしても、アードヤード王立学園を首席で合格しているエルフレッド君に問題ないと言っていただけるなら親として安心でしてよ!」


「ハハハ、それほど高く買って頂けているのは恐縮ですね。私もより頑張りませんと.....」


 少し兄というか父親目線でフェルミナのことを見てしまっているエルフレッドのため、成長面に不思議な感覚を持っていたが母親目線で見れば何歳でも女性な一面を持っている、となるのかーーとエルフレッドは少し勉強になった気分である。


「ふふふ、そこまで頑張りすぎる必要はないと思いましてよ。お茶会で小耳に挟んだのですがあれだけ忙しかったのに期末考査も首席だったのでしょう?しかもオール満点の。最優秀生から顔ぶれに代わりはなかったそうですが、その中でも特に忙しかったのは皆様も知ってのことですから大層褒めになられておりましたわ。完璧主義なところがあるのは解りますが学生なのですから少しは気を抜かないと......」


 実際は人より活動時間が長いため抜けるところでは抜いているのだが、それでも完璧主義者なところについては良くも悪くも否定出来ない。何かしとかないと少し落ち着かないのも、いきすれば病気のようなものらしいのでーー。


「そうですね。無論、やりたいことをやっているためというのもありますがどこかで一息吐いてみようと思います」


 彼が微笑むとユエルミーニエは嬉しげに微笑んだ。


「ええ、それが良いでしょう!秋の小連休はフェルミナの回復祝いもありますが自宅にいると思って寛いで欲しいと思っておりますのよ!」


 どんなに図々しい人間で会っても公爵家に泊めてもらってそれは無理だろうと思いながら「心遣いありがとうございます」と彼は微笑んで見せるのだった。




 夕食が終わると御嬢様然としたフェルミナが現れて裾を引かれた。


「はしたなくてごめんなさい。一緒に花壇に行きませんか?」


 頬を赤く染めてチョコンと裾を掴むことが、それほどはしたない様には思えなかったが恥じらう気持ちがあることは良いことなのかも知れない。


「私とフェルミナ様の間柄ですし御自宅であれば問題ないように思いますよ。花壇は是非ご一緒させて頂きます」


 大体、実家ともなればテーブルをバンバン叩いて爆笑するような公爵令嬢がいることを知っているだけに小柄な少女のような容姿のフェルミナがそのような行動を取ることに訝しむ思いはなかった。顔を真っ赤にして俯き「......はい」と小さな声で応えた彼女の表情は見えなかったが、その尻尾が嬉しそうにユラユラと揺れているのが見てとれた。


 花壇に向かうとユーネ・トレニアと薔薇の花が綺麗に並べられアーガイル型に配置している。光始めたそれは白と赤の薔薇を幻想的に照らし、その区間を一種の芸術としていた。フェルミナは「光ってくれてよかった......」と呟いた後エルフレッドに向き直ってーー。


「如何ですか?エルフレッド様が送ってくれた花を並べてみましたの」


「これは素晴らしいですね。このような置き方をすれば絵画のようになるのだと正直驚くばかりです」


 美的センスに感しては母親譲りのエルフレッドが「本当に素晴らしい」と感嘆の声を挙げるとフェルミナは安堵の息を吐いてーー。


「それなら良かったです。実はこの配置、私が図案を描いてみたんです。実際に見て間引いたりしたのですが初心者仕事ですから大丈夫かな?と少し心配でした」


「フェルミナ様が?......いや、驚きました。良い庭師がいるのだと感心していたところです。フェルミナ様は美術の才能もあるのですね」


 エルフレッドが再度感心するような声を挙げると彼女は顔を真っ赤にしてーー。


「もう、エルフレッド様ったら人を褒めるのがお上手ですね!」


 胸がドキドキしてしまいます。と心の中で呟いて彼女は左胸の辺りを両手で抑えるのだった。

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