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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第一章 灼熱の巨龍 編
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3

初コメント頂きました。大変嬉しく思っております。コメント・レビューお待ちしてます。

 王都アイゼンシュタットは初代国王の妃であったアイゼンネルフの名前から名付けられた都市だ。エルフレッドの住むバーンシュルツ子爵領からは最も近い場所で南西約二百五十km程の距離にある面長な都市で中世ヨーロッパを思わせる町並みながら文化レベルは非常に高く、上下水道が完備されており魔力を動力源とした携帯端末なども普及している。


 特徴は最北端にある王城から見た際に城下街が四層に別れていることだ。上位の貴族や王族などが住む第四層、富裕層の住む第三層、商家などの第二層、平民等の第一層となっている。


 平和ではあるが特色が少ないとされるアードヤード王国だが、その分、人材教育に力を入れており、その水準は大陸内にあるその他三つの国を先んじている。


 そして、その中心となる王都アイゼンシュタットでは特に力を入れている。個人差はあれど各能力にあった学校が点在し識字率は九十五%を上回る。アードヤード王国全体で見れば八十%程度の識字率であることを考えれば、その数値の高さが伺えよう。ーー何より他国からすれば八十%でも高過ぎる数値だ。


 その為、各国の王族はアードヤード最高峰の学園である”アードヤード王立学園”に留学し、その知識を自身の国へと持ち帰るのが通例となっていた。そんなアイゼンシュタットの城下町を歩くエルフレッドは入学先であるアードヤード王立学園へと向かう途中、自身に多くの視線が集まることに疑問を感じていた。


 男女どころか老若男女問わず、すれ違う全ての人々がチラチラと視線をくれるのである。それがどうにも気恥ずかしい気持ちを産んで彼は小さく溜息を吐いた。そもそも注目を集めるような存在ではない筈だが心当たりがないわけでもない。


(こんな白髪ではな。物珍しくもあるだろう)


 無論元々白髪だった訳ではない。父親譲りの黒色の髪がジュライとの戦闘以来真っ白になってしまったのだ。更に言えば既に二カ月は経つが一向に治る気配がない。気付けば老人のそれとは違う謎の光沢を帯び始め、初めから白髪だったかのような有様である。


 注目されても仕方がない、と思った。巨龍を倒した男の風貌の最大の特徴として描かれているのが、この白髪と身の丈ほどある大剣だったからだ。現在最も興味関心を集める話題である。


 白髪以外の可能性も考えたが傷だらけの体は正装のローブで隠れている。見えていてる右頬の傷は戦士ならば有り得る程度のもので、顔にしても母譲りのパーツに父譲りの輪郭は精悍であり、整っている自覚はあるものの城下町で見かける王子然としている貴族の子息には劣る。ならば、残るは白髪くらいだろうと彼は結論付けていた。


 しかし、実際のところはそうではない。大半の視線が集まる理由ーー、それは彼の放つ得体の知れない風格(オーラ)に反応してのものだった。歴戦の猛者を思わせる風格(オーラ)を知らず知らずの内に放っており、それに周りは「何事か!」と振り返っていたのだ。それはジュライを倒したことで得たものだったが当人が知る由もないことでもあった。


「おい、そこの子爵子息!そこをどけ!高名な御令嬢が乗られる馬車なるぞ‼︎」


 そんな彼の耳に横柄な声が届いたのはそんなことを考えていた時だった。


「ローブを見て子爵子息と判断したところは素晴らしいが、その態度は褒められたものではないな......何よりもその荷馬車に高名な御令嬢が乗るとは思えんが?精々商家の令嬢かなんかなのだろう」


 馬車に乗って移動している辺り唯の平民では無いだろうが、上位の商家の令嬢でももっと良い馬車に乗るだろう。そのレベルの馬車に子爵を超える位のご令嬢が乗っているとはとてもではないが思えなかった。百人の貴族が見て全員がそう判断するであろう状況にあって、その言葉を聞いた御者は怒りを露わにしながら顔を真っ赤に染め上げて叫んだ。


「俺が嘘を言っていると言うのか‼︎子爵の倅ごときが生意気を言うな‼︎商家の令嬢を乗せてそんなことを言う訳がないだろう‼︎こともあろうにこの方を商家の令嬢などと愚弄するとはーー」




「良い。その者の言うことはもっともだ。私が話そう」




 その声は凛とした鈴の音色のようであった。大声を出さずとも良く通る涼やかな声に御者の怒りがサァと引いていくのが解った。そして、姿を見たエルフレッドの肝も信じられない勢いで冷えたのだった。


 後のエルフレッドに人生で最も肝が冷えたことは何かと聞けば彼は必ずこう答えるだろう。




 商家の令嬢が出てくると思いきや、まさか三大公爵家筆頭の御令嬢が出てくるとは思わなかった、とーー。




「リュシカ様!なりません!このような場所で姿を見せては‼︎」


 焦る御者を手で制し、ゆったりとした物腰で現れたのはヤルギス公爵家の御令嬢である[リュシカ=ヘレーナ=ヤルギス]その人であった。

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