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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
番外編
456/457

9

 それからというもの、漢方を服用するようになったエルフレッドは一時的に回復の兆しを見せた。レイウッドは定期的に虎猫族の直轄地に向かうようになり、フェルミナとの交流を深めていった。


 魔力の回復には至らなかったが、一時的には歩行が可能になるまで回復していた。その為、リュシカはエルフレッドの元を離れ、虎猫族の城へと向かったのだ。




「突然の申し入れながら受け入れて下さり、ありがとうございます。女王陛下ーー「堅苦しい挨拶は不要ですよ?リュシカ()()()。それとも、何か思う所がお有りですか?」


「・・・無いといえば嘘になるが・・・そう言ってくれるのは素直にありがたい・・・」


 猫科獣人を束ねる直轄地の女王となったフェルミナが、脇息にしなだれかかりながら、リュシカに告げた。


 着飾れば、恋愛のれの字も解らないエルフレッドの心さえも動かしたフェルミナは、愛らしさを残しながらも美しく凛とした女性となっていた。


 穏やかにユラリユラリと動く二股の尻尾ーー金色の瞳は何の感情も映さぬまま、リュシカのことをジッと見つめている。


「最近、フェルミナの所から仕入れている漢方のお陰で、エルフレッドは立ち上がれるぐらいに回復している。ありがとう」


「それは良かった。エルフレッド様には私含め、家族が大変お世話になりました。その恩に少しでも報いることが出来たなら、幸いです」


 ニコッと微笑むフェルミナに、リュシカは何とも言えない表情を浮かべた。エルフレッドの件に関して、感謝の気持ちがあるのは本当だが、()()()()に関しては簡単には受け入れられない気持ちがある。


 彼女の能力を考えれば、その気持ちさえも既に伝わっていることだろう。リュシカは困った様子で頬を掻きながら切り出した。


「それでだが・・・今回の申入れについて、息子ーーレイウッドからは前向きに進めていきたいと言われている。バーンシュルツ公爵家としても非常に有難い話だ。断る理由もない。ただ、私としては懸念点を取り除かねば、素直に頷けなくてな・・・」


 無論、押し進められれば止められない立場だ。こうして、態々出向き、場合によっては関係が悪化するような発言をすること自体、憚られる。


 だが、今後の関係のことを考えれば、聞いておかなくてはならないことでもあった。


「フェルミナのような能力があれば、このような心配もしなくていいのだろうが・・・今回の縁談に私とのこと・・・()()はないか?」


 自分に非があったという思いがある分、そう考えてしまうリュシカであった。もし、関わりがあるならば、ここで膝をついて謝罪・懇願し、息子が幸せになれるよう縁談を阻止せねばならないという想いがある。


 息子は既に恋心を抱いている。それが、もし自分に対する私怨を解消する為ならば、自分の身を差し出してでも止めようと考えていた。


「・・・つくづく、恋愛関連に関しては蟠りが産まれてしまいますね、リュシカお姉様。・・・私怨との関係ですか?う〜ん」


 言葉とは裏腹にフェルミナは楽しげであった。何処となく、揶揄っているような、そんな色さえみえる。二股の尻尾がペチペチと地面を叩いてる様も相成って、重たい雰囲気は一切感じられなかった。


「まあ、憂さが晴れるという意味ではないわけではありません。私の初恋が奪われた代わりに、お姉様の大切な息子を奪ったと思えば、ふふふ。お釣りがきそうですね?私、とても心が晴れやかですもの」


「・・・フェルミナ」


 思わず表情を固くしたリュシカに「そう、怖い顔をしないで下さい。結果的にそうだったというだけで、狙った訳ではありません」と苦笑する。


「結局、好みのタイプがエルフレッド様だったり、レイウッド様のような男性だったというだけの話です。初めてお会いした時に、エルフレッド様の姿を重ねていたというのもありますが・・・それはレイウッド様にもお伝えしましたし、今では過去のことですよ」


 心が解るフェルミナにとって大切なのは、偽りの無い愛情であり、心乱されない環境だ。それを与えてくれた人物が偶々、過去に一悶着あった人物の息子だっただけの話だ。


 そこに他意はない。意趣返しと揶揄ってみせたが、真意が伝わらず、親族との関係が崩れてしまうのは得策でないことくらいフェルミナも解っている。


 だから、彼女は今までの揶揄うような態度から一変、何処か恥ずかしげに視線を逸らし頬を赤く染めながらーー。


「義母になるかもしれない方に言うのは複雑ですが・・・好みの男性から好意を寄せられて、ときめかない女性が居りますか?」


「・・・確かにそうだな。うん。後、話が進んだとしても義母と呼ぶのは辞めてくれ。流石にキツイ」


 義母という言葉に頭を打たれた彼女は、げんなりした様子で項垂れた。

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