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ある程度の情報が集まり、必要な漢方なども取り揃え、レイウッドはバーンシュルツ領へ戻ることにした。
「フェルミナ様。滞在期間中は本当にお世話になりました。今後も父さんの容態次第ではお世話になるかと思いますので、よろしくお願い致します」
「私はエルフレッド様が回復することを、心より祈っております。漢方薬などの準備はこちらでしておきますので、何時でもお越しくださいね。ーーそれと」
アルドゼイレンの背に乗ろうと手を掛けたところで、彼女は走り寄って耳に口を寄せる。
「私とのこと・・・考えて下さいね?」
「・・・揶揄われているわけでないのでしら、善処致します」
常に含みある言葉を聞かされ、しかし、決定的なことは言わない曖昧さに、滞在期間中、レイウッドは困惑させられっぱなしだった。
ただ、悪意もなく、純粋に楽しげな様子から騙そうとしているわけではないのは解るのだが、そこら辺がやはり、レイウッドの経験値では難しいのかもしれない。
「ふふ、それは楽しみです。そうですね。一つヒントを申しますと私は直轄地のと言えど女王ですから、望めば手に入る物も多い。ですが、私の特性上、望んでも手に入らないものの方が重要ということです」
欲しいのは人ではなく心ーー胸中で考えながらも口には出さない。レイウッドから湧き始めた仄かな感情が、明確な形を示すまで、フェルミナは自ら答えを示すことはしない。
また、エルフレッドの時のように期待に胸を膨らませ、唐突に終わりを告げたらと思うと恐ろしい。いくら時が経てど、いくら心を鍛えようと、幼少期に受けた虐めと思春期に経験した失恋の痛手は残っていた。
「今は何となく・・・ですが、解りました。ちゃんと考えてから、答えは出すようにします」
そして、レイウッドはアルドゼイレンの背に乗り、飛び去った。フェルミナはその姿が見えなくなった後も暫く、その方向を見つめていた。
辛くも楽しい日々がまた始まった。しかし、今回は答えが出る最後まで、しっかり待つことが出来そうだと思った。




