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虎猫族の城に招かれたレイウッドは様々な文献に目を通し、東洋医学が持つ可能性に注目した。
確かに根本的な解決策は見つかってないものの、身体の症状に合わせた漢方やツボの治療を行えば、エルフレッドの症状を改善することが出来るのではないかと考えたのだ。
「こちらの人参養栄湯は身体機能改善に役立ちそうですね。胃腸にも良いようですし、食事なども楽しめるようになるかもしれません」
「確かに良いですね。ーーそれにしても、執務で忙しい中、時間を取って頂き申し訳ありません」
城に滞在し始めて2週間ーー、レイウッドは場所さえ提供してもらえれば、後のことは全て自分でする予定だった。
しかし、膨大な書物の中から、該当するものを探すのは大変だろうと、仕事の合間を縫ってフェルミナが手伝ってくれているのだ。
「気にしないで下さい。これは恩返しでもありますから。それに私としてはレイウッド様と一緒に居れる時間が増えることは喜ばしいことなんですよ?」
フワリとした、たおやかな笑みに気恥ずかしさを覚え、視線を逸らす。時折、彼女が見せる女性的な仕草や言葉にレイウッドは胸の高鳴りを覚えていた。
「フェルミナ様にそのようなことを言われては困ってしまいます」
「あら、可愛いこと。ふふ、でも、私は貴方の御両親とは1つしか違いませんから・・・このようなことを言われても困ってしまいますよね・・・」
憂いを帯びた瞳ーー何処か諦めを感じさせるような表情にレイウッドは頭を掻く。
「・・・そうではありません。魔力全盛の時代に置いて年齢は1つの目安で、さして重要ではありません。美しい女性に揶揄われて、流せる程、私はまだ大人ではないということです」
父に似た容姿を持ち、冒険者としての経験も豊富なレイウッドだが心が成熟しているという訳ではない。特に女性関係は社交に関わらなかった分、苦手な分野といっても過言ではない。
そんな彼からすると愛らしさと妖艶さを併せ持つフェルミナから、含みのある言葉を投げかけられると気が気でないのである。
一瞬、キョトンとした表情を浮かべた彼女は彼の言葉の意味が解ると、目を細めて微笑んだ。
「もし、からかっている訳ではないと言ったら・・・どうしますか?」
「・・・そういう言葉をからかっていると言うんですよ」
「ふふ、では、今はそういうことにしておきましょう」
楽しげなフェルミナを前にして頬を掻く。何ともいえない感情を抱きながら、医学書を読むレイウッドだった。




