6
「ーーレイウッド様はエルフレッド様の御子息でしたか。申し訳ありません。お父様と間違われて驚いたでしょう?」
「いえいえ、私こそ。フェルミナ様が女王陛下と知らず、御無礼を・・・女王陛下はコノハ様だと伺っておりましたので・・・」
たおやかな笑みを浮かべながら謝る金色の美女ーーフェルミナにレイウッドは罰が悪そうに頭を掻いた。
「フフ、良いのですよ。レイウッド様が来られた頃は確かにお祖母様が女王でしたから・・・」
困ったような表情を浮かべるフェルミナにレイウッドは心配するような表情でーー。
「ーー他国の者には言い辛いかもしれませんが、何か問題があったのですか?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ!お祖母様はお元気です!ですが、私の叔父でもあるコガラシ様がシラユキ様と天に還ってしまったでしょう?私達、虎猫族は特に情に深い一族ですから。やはり、寂しいみたいでして・・・」
孫であるフェルミナの存在もあって変わりなく元気にしているコノハであったが、時折、思い出したかのように酒を飲み、寂しげに空を見上げる姿が見受けられた。
その姿に居た堪れなくなったフェルミナは彼女に自身の実家であるホーデンハイド公爵家に隠居してはどうか?と奨めたそうだ。
「勿論、直轄地とはいえ女王であるお祖母様が簡単にアードヤードに向かう事は出来ませんでした。つい最近まで話し合いに話し合いを重ねて、ようやく準備が整った次第です。コガラシ様の代わりにはなりませんが、私の父コウヨウも息子ですから、良い癒しになってくれるだろうと」
暫くは難色を示していたコノハも憂いがなくなると、フェルミナに感謝を告げて準備を始めた。最近では毎日のように送られる感謝の言葉と「何か欲しいものはないかニャ?」攻撃に断りの言葉を繰り返す方が大変です、とフェルミナは笑う。
「心の底から喜んでいる・・・様子のお祖母様を見るだけで私は幸せですから、提案して良かったと思っておりますよ」
「素晴らしいですね。フェルミナ様のようなお孫様でしたら、コノハ様も鼻が高いことでしょう。それに我が母とは折り合いが悪い中、こうして私を受け入れて下さり、ありがとうございます」
「・・・エルフレッド様は虎猫族、ホーデンハイド、そして、私個人としても大変お世話になった御方です。身体がお悪いとは聞いておりましたが、まさか、そこまでとは思ってもおらずーー寧ろ、もっと早く知り、助けに伺いたかったくらいです。それに比べれば、リュシカ様との間にあったことなど些細なことですよ」
眉を垂れ、申し訳なさそうにしている彼にフェルミナは微笑むのだった。
彼女の言葉はさておき、周りが両家の交流に気を使わなくてはならない程度に蟠りがあったことは事実だ。
両親が語らない故にどんな問題だったかは知らないレイウッドだったが、非はこちら側にあったこととは聞いている。
自分への対応やエルフレッドへの言葉、そして、コノハに対する気遣いーーどれをとっても素晴らしい彼女にレイウッドは何だか、申し訳なさを感じていた。
「宿の件に関してもーー重ね重ね申し訳ありません。心から感謝致します」
「問題ありません。客人として迎え入れた方が調べ物の都合も良いでしょう。虎猫族の城には東洋医学の書物も御座いますので、是非、役立てて頂ければ幸いです。それにーー」
フェルミナは自身より背の高いレイウッドに近付くと、下から覗き込むようにして微笑んだ。
「・・・どうしましたか?フェルミナ様」
視線を外し、困った様子で告げるレイウッドに悪戯な笑みを向けた彼女はクルリと踵を返して、王城への道を歩き出す。
「何でもありませんよ?ですが、場合によってはリュシカ様のことも許してしまえる気がしております」
振り返ることもなく、楽しげな声色でそう告げたフェルミナ。着物から飛び出した二股の尻尾が、その心を表すが如くゆらりゆらりと揺れていた。




